宅配業界では現場の配達員が慢性的に不足するなど、苛酷な労働環境が指摘されています。

 その大きな原因となっているのが、ご存じの通りアマゾンなどネット通販の普及に伴う配達量の急激な増加です。そして、宅配便運転手の過重労働を助長するとして近年特に問題視されているのが、非効率としか言いようのない「再配達」です。宅配業界だけでなく政府も検討会を設けて対策に取り組むなど、再配達をいかに減らすかが輸送インフラを維持する上で喫緊の課題となりつつあります。

 では、日本の宅配業界が直面する“再配達地獄”はどうすれば解決できるのでしょうか。

 例えば政府は「宅配ボックス」の設置を推進しようとしています。しかし、後述するようにこの方法を普及させるには時間もお金もかかり、ハードルが高いと思われます。

 それよりも、もっとシンプルで効果的な解決法があります。それは、荷物を職場で受け取れるようにすることです。以下では、日本の苛酷な配達現場の現状を踏まえ、筆者が暮らしている中国で一般的な「職場受け取り」の習慣を紹介したいと思います。

宅配便配達の2割が「再配達」

 2016年12月、佐川急便の制服を着た配達員が荷物を放り投げたり地面に叩きつける動画がネットに公開されるという事件が起こりました。佐川急便は事実を認め、自社の配達員が荷物を乱暴に扱かったことを謝罪するに至りました。

 筆者はこの動画を最初に見た時、その乱暴な行為に呆れるというよりも、むしろ配達員に同情心めいた感情を覚えました。というのも、近年はネット通販の急増でどの宅配会社も現場はパンク寸前であることを聞いていたからです。

 こうした感想は筆者に限らなかったようで、誰もが利用するサービスだからか、ネット上で反応を見ていると、筆者と同じように宅配会社や配達員に同情する意見が数多く見られました。

 また、この事件以降、宅配業界の過酷な配達現場について、当事者である配達員だけでなく宅配便各社からも厳しい現状を訴える声が出始め、対策に向けた議論が各所で行われるようになっていきました。

 配達現場が過重労働になっている最大の原因は、冒頭で述べたようにネット通販の普及による配達取扱件数の急増と、それに付随する再配達の多さです。

 しかし現代社会では一人暮らしの生活者が多く、平日昼間の勤務時間中ともなると代わりに荷物を受け取ることができる家族もいないため、どうしても再配達が頻発しやすくなります。実際に筆者も日本国内で暮らしていた頃、時間帯を指定できない配達に関しては、ほぼ確実に再配達を依頼していました。

 国土交通省の調査によると、こうした再配達が宅配便配達全体に占める割合は約2割に上り、これはトラックドライバーの労働時間に換算すると、年間約1.8億時間、実に年間9万人分の労働力が再配達に消費されている計算になります。経済効率性の面から言っても無視できない数字と言っていいでしょう。

宅配事業者3社を対象にした配達回数のサンプル調査の結果(2016年12月)。2割が再配達である


「宅配ボックス」「コンビニ受け取り」の限界

 こうした再配達問題については、既にいくつか対策が練られており、「宅配ボックス」「コンビニ受け取り」などがこのところよく挙がってきています。しかし、筆者の個人的な印象としては、いずれも抜本的な対策とするには限界があり、普及させようとすること自体が無意味であるとも思えてなりません。

 まず宅配ボックスについては、近年はあらかじめ設置される新築マンションなどもあるものの、既存の住宅に設置する際には追加コストが必要です。全戸に導入しようなどというのは現実的ではありません。

 またネットで散見する配達員の声を見ると、宅配ボックスには早朝から各物流会社が競うように荷物を入れるのですぐ満杯となり、結局入り切らなかった荷物は再配達する羽目になることが多いと指摘されています。

 次にコンビニ受け取りですが、コンビニエンスストア業界もまた過酷な労働環境が指摘されており、むしろ業務を減らす努力が必要とされている業界です。加えて、ただでさえ店内はスペースが少ないにもかかわらず荷物を何週間も受け取りに来ない荷主などもおり、このままコンビニ受け取りが増えていったらコンビニの方がパンクする、という指摘もなされています。

宅配ボックスとコンビニ受け取りの内容と問題点


中国では職場での受け取りが一般的

 中国では、日本と同じく、いやむしろそれ以上にネット通販が近年隆盛し、配達員の不足や倉庫賃料の高騰など様々な方面で経済・社会問題が起こっています。ところが、再配達が問題化することはありません。

 なぜ問題化しないのでしょうか。最も大きな理由は、中国では通常、届け先が自宅ではなく職場だから、ということでしょう。

 中国人はネット通販をする際、届け先を自分の勤務先に指定するのが一般的です。勤務時間中であろうと、プライベートな個人宛の荷物が頻繁に職場へ届けられるのです(職場での受け取りはベトナムなどでも一般的だそうです)。

 筆者は当初、こうした中国人の行為は公私混同もはなはなだしいと眉をひそめて見ていました。しかし、いざ実際に自分もやってみたところ、平日昼間に荷物を受け取れる上、たまたま外出していても同僚なり総務なりが代わりに受け取っておいてくれるので、この上なく便利だということを実感しました。

 配達する側にとっても、住宅を一戸一戸訪問せずに、荷受人が集まっているオフィスや工場へまとめて配達することができ、相手が不在であっても誰かに預けておけば再配達を迫られることもないため、配達の手間は大きく減ります。

「働き方改革」の一環として試してみては

 もしも日本で、ネット通販で購入した荷物を職場に届けさせようとすると、かつての筆者同様、大半の日本人はその行為を問題視するのではないかと思います。

 けれども、さすがに冷蔵庫などの大型家電を持ってこられたら迷惑でしょうが(中国ならいざ知らず)、少量の荷物であればそれほど職場に迷惑がかかることはないでしょう。ちなみに中国では届いた荷物が廊下に置かれてあっても誰も気にしません。

 この職場受け取りの習慣が広がれば、一切の追加投資や制度変更をせずに再配達の回数は劇的に減らせるはずです。

 もちろん、会社が「荷物を職場に届けさせてもよい」と認めることが条件ですが、「働き方改革」が叫ばれている昨今、“自由で柔軟な働き方”を推進する施策の一環として試してみてはいかがでしょうか。

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筆者:花園 祐