誰も到達したことのない頂上を目指せ。(写真はイメージ)


 2月18〜19日、秋葉原にある富士ソフトアキバプラザにて、「未踏事業」の第23回成果報告会が行われました。今年度採択されたプロジェクト16件の発表があり、ニコニコ生放送(ニコ生)でもオンライン中継され、およそ1万8000人がニコ生に来場しました。

「未踏」に挑戦したアイデアたち

「未踏事業」を推進しているのは経済産業省です。経済産業省は、ITの技術革新により経済社会に新たな付加価値を創出するため、突出したITの能力を持つ人材の発掘・育成を推進しています。その一環として、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)を通じて取り組んでいる事業です。

 ITを駆使してイノベーションを創出することのできる独創的なアイデアと技術を持ち、これらを活用する優れた能力を持つような突出した若い人材を発掘して、育成することを目的としており、満25歳未満の若手を支援しています。

「ITを利用することで、今の世の中を変えたい!」という意気込み。成果報告会で行われた発表の中から、いくつか取り上げてみたいと思います。

書道家×IT

 例えば、書道7段の中村優文氏と山口周悟氏は、書道にITを持ち込み、毛筆が簡単に書けるようになるシステム「てふみ」を開発。書きたい文字をシステムに入力して、投影対象(ご祝儀、ハガキ、便箋など)を選ぶだけで、プロジェクションマッピングを用いて、毛筆の文字を提示します。

文章をシステムに入力するとプロジェクションしてユーザーをガイドする。


 文字は形態素解析という技術を用いて、名詞や動詞、単語を解析し、区切りの良い場所で改行が入るような実際の想定場面を考えての機能も。一方で、ユーザーの表現に制限を加えないために、ガイドしすぎない工夫などもしています。

 また、文字を綺麗に書くためには筆順も欠かせません。特に毛筆は筆の運びが大事であるため、彼らは書き順および、書道的な筆の動き(力を入れるべきポイントを可視化)を記録した“アノテーションフォント”を作成。ひらがなから常用漢字まで、すべて自分の手で書いてフォントを作成したそうです。

何もなしではバランスが難しい手紙(左)も、「てふみ」を使うと字の自分らしさを保ちながら、きれいに書くことができる(右)。


 そして、実際に小学生に試してもらったとのこと。よくよく聞いてみると、家の隣に小学生が住んでいることを、ときどき声が聞こえてくることで知っていたとか。そこで、今回のプロジェクトを試してもらうために、意を決して隣の家のチャイムを押してみた、という面白いエピソードも飛び出しました。

手話×IT

 慶應大学の修士学生、和田夏実さんは「手での創造性を引き出す視覚言語ツール」として、手話に着目したシステムを開発。

 手に注目したいということで、はじめは、手のジェスチャーによってコンピュータの操作ができる入力機器である「LeapMotion」を使って実験していました。しかし、システムも、手話を活用する現場でリサーチをしていくうちに、『手だけでなく、顔もメディアである』ということを意識するように。最終的には、手指やジェスチャー検出に加えて、顔分析も可能な「Intel realsense」を用いて、顔・右手・左手の3つのレイヤーにドローイング可能なツール「Visual Creole」を作成しました。

Visual Creoleでは右手・左手に加えて顔もメディアとして扱うために、3つのレイヤーにイメージを描くことができる。


 海外と、日本では、それぞれ手話も異なります。しかし、3日も一緒にいるとお互いの手話を理解し、コミュニケーションが取れるようになるそうです。そういったことから、手話がろう者に限らず、聴者とであったり、海外の人とであったり、言葉も文化も超えたコミュニケーション手段になっていく可能性があるのです。

 メールよりも対面でのコミュニケーションの方が多くの情報が伝わることは言うまでもありません。しかし、将来的には、遠隔でこういったシステムを使いながら会話をするのが一番リッチなコミュニケーションになるのかもしれません。

“低レイヤー層”もアツイ

 以上のように、ちょっと分野が違う人でも何をやっているか理解しやすいアプリケーションの話がある一方で、オペレーティングシステム(OS)やカーネルソフトウェアといった通称“低レイヤー”と呼ばれるコンピュータの基礎的な部分のプロジェクトも今年は多く、“低レイヤーマン”という言葉も飛び交っていました。

未踏を巣立った人は

 未踏OBには、ソフトイーサ株式会社の登大遊氏や、メディアアーティストの筑波大学 落合陽一氏などのそうそうたるメンバーがそろっています。未踏事業の良い点の1つは、やりたいことにじっくり取り組む時間とお金が得られることだと思いますが、こういったOB/OGとの人脈ができることも見逃せません。

 また、プロジェクトマネジャー(PM)が、それぞれのプロジェクトに対して、チャットやスカイプを使い、時には現地訪問も行って、助言してプロジェクトを進めていきます。合同合宿の機会もあるので、自身の担当PM以外からもアカデミアからビジネスまで幅広く助言を得ることができます。

 若手を支援する事業としては、その他にも日本学術振興会の特別研究員や、科学技術振興機構(JST)の「ACT-I」、企業では学生クリエーターを対象とした、「クマ財団」などがあります。

 アイデアを形にする。そのためにはどのようにITを屈指し、何をすれば良いか。斬新なアイデアとそれを実現する能力のある人は、ぜひこういった事業に応募してみてはいかがでしょうか?

 そして、新しい技術のタネを見つけたかったら、また、若い突出した人材を探したかったら、こういった事業の成果報告会などにぜひ参加してみると、気づきや出会いがあると思います。

筆者:五十嵐 悠紀