熱心なファンを前に追加シーンについてなど濃密なトークを繰り広げた森達也監督

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 森達也監督15年ぶりの単独監督作となる『FAKE』のディレクターズカット版が収録されたDVDの発売記念イベントが12日、新宿の紀伊國屋書店で行われた。この日は同作のDVDを購入した熱心なファン40名を招待。ドキュメンタリー監督の松江哲明をゲストに、濃密なトークが繰り広げられた。

 本作は、2014年のゴーストライター騒動で話題になった佐村河内守氏を追ったドキュメンタリー。日本映画学校(現・日本映画大学)出身の松江は、同校でドキュメンタリーを教えていた安岡卓治(『「A」』『A2』のプロデューサー)が担任だったという縁もあり、学生時代から森との飲み会に同席したり、試写の手伝いをしていたと述懐するが、森自身は「そうだっけ?」とその当時の記憶はなかった模様。それでも松江は、「今でもすごく覚えているのは、『「A」』『A2』はソフト化しないと言っていたこと。この2作品はDVD化まで時間がかかりましたけど、『FAKE』は劇場公開から早かったですね」としみじみ語る。

 本DVDが特典映像、オーディオコメンタリーなども入れないシンプルな仕様となっていることを松江は、「今どきめずらしいですよね、チャプターもそっけないし。なんですかあれ?」と笑いながら指摘するが、森は「何かそういうのがみっともないと思って。絶対にオーディオコメンタリーなんか嫌だし、NGカットなんかを見せる理由もない」とそっけない返答。さらに「劇場公開前の宣伝時も絶対に(マスコミ向けに)サンプルDVDは絶対に出さなかった。あれは映画館で観てもらいたかったから。その結果として、(賞レースの)ベストテンにもランクインしないわけです。こだわり過ぎですね。反省しています」と自虐的に笑ってみせた。

 『A』『A2』が2時間を超える作品だったため、1日の上映回数が限られたり、レイトショーで上映するのが難しかったりと、集客に不利だった反省を踏まえ、『FAKE』では109分の上映時間に収めたという森監督。一方、今回のディレクターズカット版では劇場版からさらなる追加、再編集を施し、128分の作品に仕上がった。その中でも一番大きな違いは、盲目の少女が佐村河内氏の家を訪ねてくるというシーンが追加されたこと。「これは公開時にはためらいというか、諸事情があって入れられなかったシーン。公開時には彼女の環境が整っていなかったので入れられなかったんです。彼と付き合いがあったというだけで、あっという間にメディアがいっぱい来て、大変なことになりますから、施設にも反対されましたし」と述懐した森監督は、「でも映画の評判を聞いて、(少女をめぐる)環境も変わったので、入れてもいいですよ、ということになりました」とシーン追加の経緯を解説。そのシーンを観た松江も「(少女が)佐村河内さんに自分の思いを語るところは観ていて泣きそうになりました」としみじみ付け加えた。

 本作完成後、「試写後の打ち上げでトイレに行った時に、森さんが『映画って楽しいな』と言っていたのをすごく覚えています」という松江。森監督も「テレビの方が観てくれる人の数ははるかにケタが違うんですが、映画の方が手作り感が強いというか。試写でみんなの意見を聞きながら高揚していたんで、そんなことを口走ったのかもしれない」と照れくさそうに語る。そんな森監督の次回作については「台本のある作品を作ってみたい。ホラー映画なんかもいいかも」と笑いながらコメントしていた。

 続けて「よくネットなんかで佐村河内さんはケーキが大好きと言われるけど、あれはお客さんに出しているんであって、彼は食べていないですからね」と明かした森監督は、客席にいた山崎裕カメラマンを紹介しつつ、「でもだいたいの人はケーキを残してしまう。でも真っ先に来て、真っ先に食べていたのが山崎さんでした」と明かし、会場を沸かせた。(取材・文:壬生智裕)

『FAKE』ディレクターズ・カット版DVDは発売中(4,800円+税)。レンタルもあり