東芝、三菱UFJの経営状態を読み解く。今さら聞けない会計用語「営業キャッシュ・フロー」とは何か?

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 JAL、スカイマークの経営破綻にシャープの債務超過、東芝の不適切会計と巨額の減損損失。名だたるかつての日本の優良企業が沈んでしまう例は珍しくなくなってきた。それではどういう状態になれば企業は経営破綻して再生支援案件になったり、他企業に買収されるのだろうか……答えは「企業のキャッシュが尽きたとき」だ。

 上場企業が提出する有価証券報告書の中には、そんな企業のキャッシュの動きについて営業・投資・財務の観点から記録した「キャッシュ・フロー計算書」が記載されている。

 現役の東京大学経済学部生にして決算書や各種統計データを読み込み、世間を騒がせるニュースな企業の実態を暴き出し、そのノウハウをまとめた新刊『東大式 スゴい[決算書の読み方]』を3月12日に上梓する大熊将八氏がその読み方を徹底解説した。

「キャッシュ・フロー計算書」は以下の3つからなる。

・「営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)」……本業の稼ぎによって入ってきたお金と出ていったお金の差し引き

・「投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF)」……資産や企業の売却で得たお金と資産の取得や企業の買収によって出ていったお金の差し引き

・「財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CF)」……株式市場や銀行から集めて入ってきたお金と、市場に還元したり銀行に返済して出ていったお金の差し引き

 このうち投資CFと財務CFに関しては、構成要素も少なく、投資活動と財務活動によるお金の出入りなのだと直感的にもわかりやすいが、営業CFに関しては、本業の稼ぎってなんだ?と、疑問が生じるかもしれない。しかし、キャッシュ・フロー計算書の中でも最も役立つ指標がこの営業CFだ。その構成要素についてもう少し詳しく見てみよう。営業CFとは、

「営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)」
≒「純利益」+「減価償却費や減損損失(現金支出の伴わない費用)」+「仕入債務の増加(未払いの費用)」
ー「売上債権の増加」ー「棚卸資産の増加」ー「賠償金や違約金」

であるとざっくり説明できる。

 純利益とは売上高から製品を作る原価や人件費や広告費などの販管費、その他の特別損失や税金を引いて残った最終的な利益のことである。では、純利益=営業CFかというとそうではない。純利益を押し下げる要因には、資産の「減価償却費」や「減損損失」が含まれている。

 注意しなければいけないのが、これらはあくまで「会計上の損失」であって、実際にお金が出て行くわけではないということだ。例えば「減価償却費」というのは、保有する設備や機械が時間を経るごとに老朽化したりして価値が減耗していくので、その分を期間を分けて費用に計上していくために存在する。

 費用に計上と言っても、減価償却費として実際にどこかにお金を払うわけではない。世間を騒がせている東芝の「減損損失」もそうだ。7000億円を超える損失と言われているが、今から7000億円のキャッシュをどこかに払うわけではない。

 だから、営業CFでは純利益に減価償却費や減損損失などの「会計上の損失」をプラスしたものが、実際の稼ぎによって入ってきた値であるとして計上される。「仕入債務の増加」も未払いの利子や買掛金など、負債として計上されているがまだ出ていっていないお金だからプラス要因である。

 一方で、営業CFの構成要素のうち、マイナスのものは何か?

 それが、主に「売上債権の増加」、「棚卸資産の増加」、「賠償金や違約金の支払い」である。「売上債権」や「棚卸資産」はざっくり簡単に言うと、「売上には計上されているがまだ入ってきていないお金」である。製品を納入したがまだ取引先からお金を支払ってもらっていないときなどに、典型的な売上債権である「売掛金」が増える。

 この「売上債権」や「棚卸資産」が急激なスピードで増加すれば、いくら純利益が出ていても、営業CFは全体としてマイナスに転じる。これが常態化するのはとても危険で、会社の資金が尽きてしまわないように、事業を売却したり(投資CFの増加)、市場や銀行からお金を集めて(財務CFの増加)対応しなければいけない。

⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=133048

 そうしなければ、たとえ黒字経営であっても倒産しかねない。その典型例が民事再生中の江守グループホールディングスだ。福井県を本社とする東証一部上場(当時)の専門商社だった江守は中国事業の伸びで増収増益に沸いていたが、売掛金が急激に積み上がり、営業CFは5期連続で赤字だった。

 その結果、中国において大量の貸し倒れが生じて、一気に経営破綻に向かっていった。

「売上債権の増加」や「棚卸資産の増加」は粉飾決算を行っている企業にも見られる傾向だ。東芝のPC事業が行っていた、関係会社に無理やり商品だけ納品して売上に計上する「押し込み販売」や、関係会社間でぐるぐるとお金を循環させて売上が増えているように見せる「循環取引」などの粉飾を行った場合、売上債権や棚卸資産は激増する。

 とりわけ、下記の指標に注目すると良いだろう。

・売上債権の回転期間(日)=売上債権/売上高*365
・棚卸資産の回転期間(日)=棚卸資産(在庫)/売上原価*365

 この指標が何年にもわたって長期化している場合は、資産の水増しが行われている可能性が高い。だいたい60日(2か月)ぐらいまでの回転期間になっているのが正常で、120日(4か月)を超えてくると異常である。

 ただし、企業の成長ステージや業種・業態によっても正常な回転期間というのは違うので、一概には言えない。例えば電機業界の主要企業について回転期間の比較を行うと日立製作所が突出して長くなっているが、これはインフラなど政府案件がらみの長期プロジェクトが多いためだと考えられる。

⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=133049

 また、急成長中のベンチャーでは案件の受注は増えてもまだ代金を受け取っていない場合があり、このとき、回転期間は長期化する。さらに、これまで行ってきた業態を転換していることで回転期間が変わることもある。ファッションEC最大手のスタートトゥディは、自社のECサイト「ZOZOTOWN」において、「ツケ払い」を認めるようになった。すると、売掛金は一気に倍増した。

⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=133050

 ZOZOTOWNの場合は実際には貸し倒れのリスクを負うのは、GMOペイメントサービスという決済代行業者であるから、この売掛金の増加はそこまでリスキーではない。

 話題を営業CFに戻そう。資産の回転期間が長期化していると、利益が出ていても営業CFがマイナスとなり、貸し倒れのリスクや粉飾決算が行われている可能性があると指摘した。

 ただし、銀行・証券などの金融業や不動産業は現金支出が膨らむことがあり、正常な経営が行われていても営業CFマイナスになることは珍しくない。現在、日本一営業CFがあるのは三菱UFJグループで、2016年度第2四半期の時点で8.6兆円もあるが、前年同期はなんと4.2兆円近く赤字だった。これは5.7兆円ほど預け金が増えたためである。

 今の銀行にとって企業への貸し出しが増えるのは良いことだが、銀行から現金が出ていってるわけなので、営業CFはマイナスになるというわけだ。銀行業においては営業CFの振れ幅がとても大きいのだ。

⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=133051

 全上場企業中で営業CFのマイナスが大きいランキングを見ても、上位を占めるのはほぼ全て金融業だ。

⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=133052

 もちろん、こういった金融業の会社に関しても、多額の貸し倒れが発生しないか常に注意が必要である。

<文/大熊将八>

おおくましょうはち○国内外の企業分析を行い、「週刊文春」「現代ビジネス」「東洋経済オンライン」「ハーバービジネス・オンライン」」などに寄稿。東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。3月12日には新刊『東大式 スゴい[決算書の読み方]』を発売予定。twitterアカウントは@showyeahok