金正恩党委員長の異母兄・金正男(キム・ジョンナム)氏がマレーシアで殺害された事件に関する情報が北朝鮮国内でも徐々に拡散しつつあると伝えられている中、北朝鮮当局は国民の注意をそらすための「心理戦」に打って出た模様だ。その手法は、国内に「虚偽のうわさ」を流すというものだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡北道の情報筋はRFAに対して、最近、現地の朝鮮労働党の高級幹部とその家族を通じて、うわさが急速に拡散しているとして、その内容を次のように伝えた。

「国連の対北朝鮮経済制裁がまもなく解除される。そして、我が国(北朝鮮)は金持ちになる。米国から巨額の無償援助と大量の借款が転がり込むからだ」
「朝鮮労働党の中央の組織指導部地方指導課の咸鏡北道の担当者と、咸鏡北道の労働党の幹部との酒の席で出た話だと、友人から聞いた」

情報筋はこの話を、咸鏡北道の労働党で組織指導部の課長を務める人の息子から「友人の話」として、聞いたと述べている。つまり又聞きの又聞きということだ。

この話を聞きつけた地元の人々は「ウソではないだろう」と思っているとのことだ。当局が政治講演会などで語った内容は信じないが、ついつい本音が出がちな「酒の席での話」は信じてしまう。当局は、そのような人々の心理を知った上で話を作り出したものと思われる。

一方、平安北道(ピョンアンブクト)でも似たようなうわさが流れている。現地の情報筋は、その内容を伝えた。

「我々は核を持っているため米国も手を出せない、既にかなりの量を保有しているため、これ以上核を作らないという核凍結を巡る対話に応じられない理由はない」

この話の出処は内閣貿易省の幹部だと情報筋は証言し、一方で「制裁が通じないことを認めた米国が、我が国に対話を請うている」「我が国が核を作らないという条件で、米国から巨額の無償援助を得られることになっている」といううわさが幹部の間で流れているとも伝えた。

咸鏡北道とは違い、平安北道の人々はこの話を半信半疑で受け止めている。とりわけ、国際情勢に明るい知識層や若者は「労働党や内閣の幹部が意図的に流したうわさ」だと批判していると情報筋は伝えた。