「食事をしているのに体に力が入らない」「胃がもたれる」「胃がスッキリしない」と感じたことがある人は多いのではないだろうか。しかし、専門家によれば、“よくあること”と放置されがちな胃の不調を軽く考えない方がよさそうだ。
 「症状が消えても治ったとは限らない。気づかないうちに胃の粘膜がただれた、びらん状態になり、胃炎や手術が必要な重度の胃・十二指腸潰瘍になるケースは多いのです」(専門医)

 また、実際に診察をしてみると“震源地”が胃の周辺にあるとは限らず、逆流性食道炎だったり、心臓と食道の間に疾患がみられる場合もあるという。
 「心臓も食道も胃に隣接する臓器ですから、ある部位の痛みが他の部位の痛みとして感じられることはよくあります。胃は食道とつながり、心臓に隣接しているわけですから、位置関係からみても“震源地”を間違って認識する恐れは十分あるのです。症状だけを頼りにすると、本当の原因を見過ごすことになるため、専門医の所見を聞く必要があります」
 こう話すのは、都内内科クリニック院長の杉浦ちとせ氏だ。

 杉浦氏によれば、最近はピロリ菌除菌治療やさまざまな薬の登場で、胃・十二指腸潰瘍はこの20数年でかなり減ってきているが、重症の患者はいまだに多いという。
 「先日も、男性の定期検診で胃カメラ検査をしたところ、十二指腸から出血がみられ、潰瘍が認められたケースがありました。しかし、ご本人は以前、何度か胃の不調があったと言いますが、深刻に捉えず検査をしないまま放っておいたそうです。時々、めまいや貧血もあったようですが、結果を聞いて驚いていました。結局、その男性は手術を受けることになりましたが、定期検診がなければ発見が遅れ、大きな手術になったかもしれません」(同)

 こんな例もある。東京都調布市に住む建築設計士・Aさん(61)はある朝、起きぬけに胃と喉の周辺に痛みを感じ、経験したことがない症状だけに不思議に思ったという。
 「でも、しばらくすると痛みは落ち着いて“飲み過ぎたから二日酔いかな”ぐらいに考えて放っておいたんです。それでも、今度は冷たい水を飲んだ後、同じようにな胃痛が襲った。しかも、市販の胃薬を取り出そうと前かがみの姿勢を取ったとたん、酸味のある水分がノドを突き上げ、胸やけも感じたんです」

 その後、Aさんは昼食も食べる気になれず、思い切って会社近くのクリニックを受診したという。
 「先生に真っ先に言われたのが、逆流性食道炎。驚きました。自分では胃炎か胸やけ程度のイメージでいたのですが、『胃液によって食道の一部が酷くただれ、発見が遅かったら食道に穴が開いていました』と言われたんです」(Aさん)

 昨年末の宴会中、突然うずくまるほどの激痛に襲われ、救急搬送される騒ぎを起こした会社員Bさん(56)は、担ぎ込まれた病院での即診の結果、なんと心筋梗塞と診断され、即入院になったという。
 「医者から『あと2、3分遅かったら命の保証はなかった』言われたときは、頭の中が真っ白になりました。てっきり胃腸辺りに何か異常が起きたのかと思っていましたが、まさか心臓がやられているとは思わなかった」(Bさん)

 ここではっきり言えるのは、AさんもBさんも、病名が違うものの痛みを感じた部位、つまり“震源地”を胃だと思い込んでいた点だ。ところが、本当の痛みの発信源は、食道と心臓だった。