稀勢の里が横綱に昇進し、17年ぶりに「4横綱時代」を迎える大相撲春場所。優勝争いはこれまで以上に激化するだろうが、同時に「次なる稀勢の里」を目指す新勢力のさらなる躍進にも注目が集まっている。

 高安、玉鷲、正代、勢、貴ノ岩、遠藤、北勝富士……。ここ数場所で目覚ましい活躍を見せるこれらの三役、幕内上位陣の中でも、ひときわ大きな期待を寄せられているのが、小結・御嶽海(24歳・出羽海部屋)だ。初場所では2横綱2大関を倒すなど、11勝4敗の好成績で初の技能賞を獲得。2場所ぶりに小結に復帰した春場所で、大関取りへのスタートを切る。


初場所の4日目に、横綱・鶴竜(左)を押し出しで破った御嶽海(右) 御嶽海は、東洋大時代に「アマ15冠」を達成し、4年時には学生横綱とアマチュア横綱を獲得した超エリート力士だ。2015年の春場所に幕下10 枚目格付け出しで初土俵を踏むと、わずか2場所で十両に昇進した。直後の15 年名古屋場所では十両を制し、同年の九州場所には新入幕を果たしている。そんなスピード出世について、本人は「壁に当たったと感じたことはありません」と堂々と言い切る。

 最大の武器は、178cm、158kgの体を存分に使った突き押しだ。長野・木曽青峰高校時代の尾羽林英樹監督(現・更級農業高校)は、鋭い出足と圧力ある押し相撲を支えているのは「スピードある二歩目」と語る。

「立ち合いの圧力は高校時代から際立っていました。ただ、彼のよさは、踏み込んだ後の二歩目の速さなんです。二歩目が速いから、立ち合いで当たった後にすぐ圧力をかけられる。これは教えて身についたものではなく、持って生まれた天性のもの。あの二歩目のスピードが、プロになった今でも彼を支えていると思います」

 勝敗の8割が立ち合いの成否で決まると言われる大相撲。一歩目の踏み込みが重要なのは言うまでもないが、さらに相手を押し込むための「二の矢」が、白星を引き寄せることになる。逆にそれが遅ければ、相手に付け入るスキを与えてしまうことになる。四つ相撲ではなく、ひたすら前に出ることで勝機を見出す押し相撲ならなおさらだ。

 御嶽海自身も、「立ち合いで踏み込んで相手に圧力をさらに与えるためにも、二歩目が重要だということは分かっています。そこで速く踏み込めれば、優位に立つことができますから」と、二歩目を強く意識しているという。立ち合いの踏み込みはほとんどが左足で、二歩目は右足になる。ここまでのスピード出世を可能にした右足が、これからの大関取りでも後押しするはずだ。

 高校時代の恩師が「天性」と評したスピードについて、御嶽海の父・大道春男さんは、「小さいころから体は大きかったんですが、運動会では常にリレーの選手でした」と明かす。そんな抜群の下半身の強さは、自然の中で培われた。春男さんは建築関係の仕事で、木曽という土地柄、仕事場が山の中になることも多かったが、幼いころの御嶽海はそこによくついていったという。

「あの子は、大人でも歩くのがキツい急こう配の山道を、私について歩いていたんです。そういうことを繰り返すうちに、自然と足腰が強くなったんじゃないかと思います」と春道さんは振り返る。木曽の山で育まれた下半身が「天性」のスピードを生み出したのだ。

 初めて小結に昇進した昨年の九州場所では、期待されながら6勝9敗と負け越した。その悔しさをバネに、2場所での三役復帰を果たした御嶽海を、師匠の出羽海親方(元幕内・小城ノ花)は「以前は安易に引く相撲があったが、今は立ち合いから攻める意識が出ている。そこが進歩しているところ。初場所はそういう内容がある相撲だった」と評価する。

 大関昇進の目安は、三役3場所で33勝以上。今場所は、大関取りの土台を築く場所になるだけに、故郷の木曽地方では期待が高まってきている。「御嶽海後援会」が募集した春場所6日目の応援観戦は、定員28人のところに40人が応募し、抽選を行なうことになったという。昨年の春場所に同じ企画を行なった際には、応募が20人だったとのこと。今後も活躍が続けば、倍率はさらに跳ね上がっていくだろう。

 当の御嶽海は、「特に(大関昇進は)意識はしていません。一番一番集中していって、それが白星につながれば、自ずと結果はついてくると思っています」と目の前の一番に集中していく姿勢を強調する。しかし、一方で同世代のライバルに対しては「負けたくありません」と闘志を燃やす。天性の二歩目で番付を駆け上がってきたエリートが、大関へと突き進むことができるか、春場所に注目したい。

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