写真提供:マイナビニュース

写真拡大

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、セルロースを成形材料として用いる新しい3Dプリント技術を開発した。

セルロースは、植物細胞の細胞壁や植物繊維の主成分であり、地球上に最も大量に存在する天然の高分子。もともと「紙」の原料でもあり、印刷分野では長年にわたって利用されつづけてきた材料であるが、そこに3Dプリンタという新たな用途が加わったことになる。研究論文は、材料科学分野の専門誌「Advanced Materials」に掲載された。

セルロースは、樹木に機械的強度を与えている重要な要素であり、低コスト、再生可能、生分解可能、化学的な用途の広さといった特徴をもっている。このため幅広い製品の材料として利用されており、その応用範囲は薬品、医療用器具、食品添加物、建築資材、衣類など多岐にわたっている。

セルロースを3Dプリンタ用の材料として利用しようとする試みは以前からあったが、いくつかの問題が実用化を阻んでいた。ひとつは、セルロースを加熱すると、3Dプリント成形に必要な流動性を発現する前に、熱で分解してしまうという問題である。その主な原因としては、セルロース分子間の水素結合が挙げられる。また、水素結合によってセルロース溶液が高密度になるため、成形加工に使うには粘性が高すぎるということも問題となる。

そこで研究チームは、セルロースの代わりに酢酸セルロースに着目した。酢酸セルロースは、酢酸基の存在によってセルロースと比べて水素結合の数が少なくなるという特性があり、アセトンに溶かしてノズルから噴射することができる。噴射後は、アセトンが急速に蒸発し、残った酢酸セルロースが噴射ポイントで固化する。さらに、水酸化ナトリウムによる追加処理によって酢酸基を置換することで、水素結合を修復し、プリント成形部品としての強度を上げることもできるという。

研究チームは、3Dプリンタでよく利用されるABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)やPLA(ポリ乳酸)と比較しても、強度や靱性で酢酸セルロースが優っていることを確認できたとしている。

酢酸セルロースは、セルロースを原料として簡単に作ることができ、幅広い用途での利用実績がある材料である。その材料コストは射出成形で利用される熱可塑性プラスチックと同程度であり、3Dプリンタで通常使われるフィラメント材料よりも安い。

同材料の化学的な多用途性を実証するため、研究チームは、酢酸セルロースから作った3Dプリンタ用インク中に微量の抗菌性色素を添加する実験も行った。この3Dインクを使って、抗菌機能をもたせた手術用ピンセットを作製してみた。このピンセットは、蛍光灯の光をあてるだけで殺菌効果を示すことが確認されたという。医療器具・設備が不足している遠隔地などでは特に有用な技術になると期待される。

既存の3Dプリンタの多くは、樹脂材料を加熱して流動化させ、ノズルからの噴射によって成形する。このため、成形スピードは、樹脂にダメージを与えない範囲でどれだけの熱量をかけられるかによって決まる。一方、今回開発された技術は、室温条件で酢酸セルロースをアセトンに溶かすため、加熱の必要がなく、固化はアセトンの蒸発だけで行う。このため、従来の3Dプリント技術よりも高速で成形できるようになる可能性があるという。

温風をあてるなど、アセトンの蒸発速度を上げる処理を加えることで、さらに印刷スピードを上げることもできると考えられる。蒸発させたアセトンを回収・リサイクルすることによって、印刷プロセスのコストを低下させ、環境親和性を高めることなども今後の研究課題になるという。

(荒井聡)