なでしこジャパンのアルガルベカップ最終戦は、オランダとの5、6位決定戦となった。佐々木則夫前監督時代、2015年11月の国際試合で1-3と完敗した相手だ。ボールへのプレスが速く、テンポを掴まれると主導権を奪い返すのは難しい印象が残る。5、6位決定戦とはいえ戦いがいのあるチームとの対戦に、なでしこジャパンの瞭然たる現在地があらわになった。


新生なでしこでは牽引する側になった熊谷紗希(右)と阪口夢穂(左) 最初の失点は13分。左CKのボールに対してGK山下杏也加(日テレ・ベレーザ)のパンチングがクリアにならず、こぼれ球がまさかのアヌーク・デッカーの足元へ。悔やまれるゴール献上だった。続く失点はその6分後。右スローインから俊足シャニセ・ファンデサンデンに突破されると、中村楓(アルビレックス新潟L)がマークを振り切られ、カバーに入っていた鮫島彩(INAC神戸)、熊谷紗希(リヨン)のスライディングをかわして中へ折り返し、走り込んだリーケ・マルテンスに鮮やかに決められた。

 嫌なムードを断ち切ったのは、この直後に奪った横山久美(AC長野)の芯を捉えた圧巻のゴールだった。阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)のフィードから長谷川唯(日テレ・ベレーザ)がタテへ。受けた横山がゴールエリア外から豪快に叩き込んだ。ここのところ得点後もクールに振る舞っていた横山も「ヨシ!」と両こぶしを握り締めた。  

 しかし61分、マンディ・ファンデンベルフが2枚目のイエローで退場になったことで状況は変わる。一見、数的優位で日本に有利な状況だが、完全に自陣に引きこもり、カウンター攻撃に絞ったオランダを崩すのは至難の業となった。

 それでも77分、宇津木瑠美(シアトル)が大きく左サイドへ展開すると、入ったばかりの籾木結花(日テレ・ベレーザ)がクロスを上げた。そこに頭で合わせようと走り込んだ田中美南(日テレ・ベレーザ)の背後にいた相手DFにボールが当たり、オウンゴール。

 これで日本は同点としたが、その後、攻めきれない時間が続く。完全に自陣に引いてるオランダを前に、ボランチの阪口、宇津木が悠々とフリーでボールを回すが、それでは局面を打開できない。残り1分となり、PK戦を見越してオランダはGKを交代し、逃げ切り態勢に。日本は90分で勝負をつけるべく、一層前がかりになったその瞬間、悪夢が襲った。中村のパスミスをさらわれ、クリアに行った守備陣はかいくぐられ、最後は体を投げ出した宇津木の左足で軌道が変わったあげく、ポストに当たってゴールへ吸い込まれた。ロスタイム残り数秒という最悪のタイミングで日本は勝利を逃した。

 4連戦のアルガルベカップを2勝2敗の6位でフィニッシュ。3勝を目標に掲げていた高倉監督は「本当にミスパスが多い」とその表情を曇らせた。サッカーにミスは付き物だ。高倉監督が言うのは単に「ミスを減らせ」ということではない。「やってはいけない場所でやっていけないパスミス」について指摘しているのだ。

 この試合の最後の失点もそのひとつ。中村が中途半端に出したパスが失点の引き金になった。残り数秒というところでカウンター攻撃を仕掛けられたとき、どう対処するのか。極論で言えば、サイドラインを割るクリアに徹するのもひとつ。リスクを冒してまで自陣でキープする必要はない。この意識統一がされていなかったこと、それに導く声がなかったこと、要因は多くある。この瞬間はたまたま中村がそのミスを演じてしまったが、こういった致命的な綻(ほころ)びがそこかしこで見えていたのは確かだ。それこそが指揮官の言う「やってはいけないパスミス」である。

 中村にとっては痛恨の極みだろう。しかし、中村はアルガルベカップで可能性を示したひとりでもある。CBの要でありキャプテンでもある熊谷は、4戦すべてのフル出場を果たし、そのうち実に3試合で中村とペアを組んだ。

 熊谷は「前に強いし、やることをハッキリしてくれる」と中村について語る。中村も「経験の差は言うまでもないですが、熊谷さんはやることをハッキリ指示してくれる」と同じ言葉が返ってきた。カバーリング、ラインコントロール、カウンターへの対応と、実戦で課題に取り組みながら、一戦ごとに互いにカバーし合えるようになってきた。だからこそ、この致命的ミスは中村を大きく成長させるものになるはずだ。試合直後すぐさま中村に声をかけ、プレーについて修正点を話し合った熊谷も中村の可能性を感じているだろう。

 また全試合で得点に絡み、自身も4ゴールを挙げた横山の奮闘には目を見張るものがあった。ここ1年半で積み上げた体力強化により、90分間フル出場できるフィジカルを身につけた。ここぞというときに得点を挙げる決定力は、いまやなでしこジャパンで断トツだ。そしてもうひとつ、横山の成長を感じるのは周りへの配慮だ。試合終了後には必ず自分から全員と健闘をたたえ合う。最も印象的だったのは、最終戦後のピッチで失点のショックを受けているであろうGKの山下の元を訪れたこと。170cmの山下の腕に優しく触れる横山は、山下よりも大きく見えた。同時に周りへ視野を広げられる選手は以外に少ない。横山には、このなでしこジャパンに最も必要なものが備わっている気がしている。

 U-20上がりでは、長谷川の物怖じしないプレーが際立った。文字通りポジションを超えて縦横無尽に駆け回る。自身でシュートまで持ち込み、ゴールを奪うこともあれば、ポイントゲッターである横山のゴールを演出するパスも配給するなど、なでしこでも通用する攻撃センスを見せた。

 ただ、頭ひとつ抜け出す選手がいる一方で、どうしても個の動きだけになってしまい、最後までつながりにくかったことは課題として残った。チームとして、どう積み上げるか、高倉監督の今後の強化方針で大きく左右されそうだ。

 選手の見極めに重点が置かれた就任から1年。細切れの国際試合だけでは、連係は生まれない。今回のアルガルベカップは8日間で4連戦という熾烈な環境ではあったが、メンバーをある程度固定した守備陣は効果的に底上げができた。

 一方で、人が入れ替わった攻撃陣に関しては、コンビネーションプレーが乏しく、大きな課題を残した。特に前線に小柄な選手が並んだことで、空中戦を除外せねばならず、相手の的を絞らせてしまった。それでも相手を凌駕する攻撃力があれば話は別だが、小手先の技術だけでは諸外国のパワーに対抗できないことも露呈した。

 今後は攻守にわたり、テクニカルな選手に加え、高さを備えた即戦力発掘が急務になる。菅澤優依香(浦和レッズL)、有吉佐織(日テレ・ベレーザ)、北川ひかる(浦和レッズL)、岩渕真奈(バイエルン)といった期待を寄せていた選手が立て続けに負傷し、十分に試すことができなかったことも悔やまれる。

 最後のオランダ戦では、これまで修正してきたことが、やや強豪とされるチームと当たっただけで崩れてしまう脆さを露呈した。ただ、誤解を恐れずに言えば、これほどありがたい敗戦はない。PK戦の末に勝利を収め、目標である3勝を手にしていたら、おそらくここまでの危機感は得られなかっただろう。

 熊谷、阪口は「情けない……。こういうのはもういい」と揃って口にしていたが、「勝負どころで攻撃も守備も自分たちのスコアにできなかったこと」が敗因だと現状を真っ向から受け止めていた。

 今大会は「行くところ、行かないところの判断」を追求してきた。”できるつもり”では通用しない。最終戦にはなでしこジャパンの”甘くない”現実が詰まっていた。なでしこたちは間を置くことなく、来月にはコスタリカとの国際試合が用意されている。アルガルベカップから何を得てどう変化したのか、証明する場はすぐ目の前にある。