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 減損損失は7000億円に上り、3月末に債務超過に陥ることは確実視されている東芝問題が紛糾している。JALに東電、シャープ、そして三菱自動車、かつての名だたる日本の名門企業の凋落は今や珍しくなくなってきた。

 決算書の分析を通して、次の”東芝”の見破り方を探った新刊『東大式 スゴい[決算書の読み方]』(3月12日発売)の著者・大熊将八氏が不正会計の最新状況をリポートする。今回は日本企業の不正会計を見破り、買い叩く海外ファンドについてです。

 企業に対して不正会計や、その過大評価ぶりを指摘するレポートを発表し株価を吊り下げ、利益を上げようとする「空売りファンド」の存在をご存知だろうか?

 2015年末に日本人が運営する調査会社ウェル・インベストメンツ・リサーチが、五大総合商社の一角である丸紅が減損損失を過少に行っているのではないかと指摘するレポートを発表してからというもの、2017年1月までで3つの海外ファンドが日本に上陸し、のべ8社の日本企業についてレポートで「売り」を訴えている。

 ウェル・インベストメンツ以外は、中国・米国・香港などを中心にレポートを手がけてきた海外ファンド。これらの国々では毎年何十本もレポートが出され、その数は2010〜2016年の推計で300 本近くに上る。

⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=132011

 企業からは忌み嫌われている空売りファンドだが、企業不正の発見において、規制当局や監査法人を差し置いて最も貢献した主体になっているというアメリカの研究もある。米国の富裕層などから資金を調達し、財務諸表分析などに長けたアナリストを高給で雇えるので質の高い調査を行えるという要素に加え、メディアや証券会社とは違って対象企業とは一切しがらみがないため、思い切った批判ができるという利点があるためだ。

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 伊藤忠商事に対して主に「減損損失の認識」が足りていないと指摘したグラウカス・リサーチのSoren Aandahal氏や、日本電産は目標未達を繰り返している凡庸な企業で過大評価されていると指摘したマディー・ウォーターズのカーソン・ブロック氏をはじめ、各ファンドのアナリストや代表は米国の経済チャネルCNBCやブルームバーグにも度々出演するなど、一定の地位を得ている。

 特にロボットベンチャーのサイバーダインの株価を「世界一馬鹿げている」とこき下ろしたシトロン・リサーチのアンドルー・レフト代表は、自動運転車の普及を目指すテスラや中国のEC大手・アリババに対する指摘も経済番組でたびたび行っている。

 ターゲットにした企業の株価の下落幅が空売りファンドのリターンとなるが、アメリカの空売りファンドの平均的な年間運用利回りは20%以上に上り、これは普通のファンドよりも10%ほど高い水準にある。

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 しかし、それと比べると、対象になった日本企業の株価はあまり下がっていない。

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 そればかりか、長期間で見ると海外ファンドの指摘の対象企業のうち伊藤忠と日本電産の株価は逆に上昇している。日本人が手がける調査会社ウェル・インベストメンツは海外勢に比べて高いリターンを上げてきたが、2016年末に行った空調機器大手・SMCに対する指摘とバイオベンチャーのユーグレナへの指摘では現在まで株価に対してあまり大きな影響を与えられていない。

 海外ファンドが振るわない理由は日本市場に精通し、日本で活動するアナリストを抱えられていないことが理由に挙げられる。他の国と違い、日本企業に関する英語の開示情報はまだまだ乏しい。日本で他の調査会社などと連携したり、関係者に取材しないと見えてこない不正の事例もたくさんあるだろう。

 また、伊藤忠商事や日本電産など、時価総額が3兆円前後もある超大企業を対象にしているのも不振の原因かもしれない。米国の投資情報サイト、ヴァリューウォークのデータによると、対象企業の時価総額が低いほど空売りファンドのリターンは高い。上場廃止にまで追い込まれるような経営にとって深刻な不正を犯している例は小さい企業の方が多いからだろう。

⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=132015

 海外ファンドは、まずは超大企業を対象にキャンペーンを行ってメディアに取り上げられ、知名度を上げることを狙ったのかもしれない。だとすると、ここからが海外ファンドにとって正念場となる。

 事実として、日本の上場企業の不適切会計の開示数はここ5年間、上昇傾向にあり、2016年10月時点で、2011年比で3倍の48社に達した。およそ半分にあたる23社が東証一部上場企業だ。

⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=132016

 2014年6月に安倍政権は「コーポレート・ガバナンスコード」の強化を成長戦略の柱として掲げ、上場企業はよりガバナンスを向上する必要に迫られている。近年の不適切会計開示企業数の増加は、「膿み」を出す過程の現れだと言える。バブル崩壊後に行われた会計ビッグバンの直後や、2016年後半の監査の強化後も一時的に不適切会計開示企業数は増えた。

⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=132017

 ここ数年だけでも1000億円以上に上るオリンパスの巨額の負債隠しや、2000億円以上とも言われる東芝の粉飾決算など、超有名な大企業でさえも悪事に手を染めていたことが発覚した。

 また、粉飾決算とまでは行かないまでも震災後にガバナンスのずさんさが明らかになった東電、多額の賠償金が発生して経営破綻したスカイマーク、債務超過に陥って鴻海に買収されたシャープなど、かつての名門企業が凋落する例には枚挙に暇がない。

「第2の東芝を探す」「オリンパスの時から目をつけていたが、東芝の事例を知ってから、見逃せないと思った」と代表たちが語る空売りファンドが、日本企業の危険な兆候や、明らかになっていない不正の実態を暴いてくれるかどうか、注目だ。

<文/大熊将八>

おおくましょうはち○国内外の企業分析を行い、「週刊文春」「現代ビジネス」「東洋経済オンライン」「ハーバービジネス・オンライン」」などに寄稿。東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。3月12日には新刊『東大式 スゴい[決算書の読み方]』を発売予定。twitterアカウントは@showyeahok