大きく生まれ変わったF1マシンが走り始めたバルセロナ合同テストで、2017年のF1がどんな変貌を遂げようとしているのか、その片鱗が見えてきた。

 ワイドになった今年のF1マシンは、とにかく速い。そして、その挙動は荒々しくワイルドだ。それを見ているだけでも、面白くなりそうな予感が漂っている。


ワイドになったメルセデスAMGのコーナリングは明らかに速くなった「間違いなく去年型よりも、いいビースト(猛獣)だね」


 ルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)はかなり上機嫌だった。

「とにかくダウンフォースが増大していて、コーナリングも圧倒的に速い。まさにドライバーとしては望みどおりのものだね。これまでよりも少し遅くブレーキングをして、これまでよりも速いスピードを残してコーナーに飛び込んでいくことができるんだ。身体に掛かる横Gは明らかに増していて、これまでより少なくとも2Gくらいは強くなっている感覚だった。コーナーの立ち上がりでスロットルを踏み始めるのも早い。間違いなく、今までドライブしたなかで最速のF1マシンだ」

 メルセデスAMGに加入したバルテリ・ボッタスも言う。

「これまでよりもダウンフォースが大きくて、グリップが高くて、従来のクルマとはまったく違う。特に高速コーナーの速さとグリップ感、そして安定感は気に入ったよ。(バルセロナの)高速のターン3は全開だし、まさに新時代のF1という感じで、とても興味深かった」

 セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)の感想は、タイヤ開発戦争の全盛期で過去最速と言われた10年前のF1マシンと同等の速さだというもの。自身が王座を獲得した2010年のレッドブル以上の興奮を味わったと絶賛した。

「ダウンフォースが10年前と同じくらいにまで増えているし、10年前のマシンと同じくらいの速さだと思う。車重は当時と比べて150kgも重くなっているのにね。コーナーは速いし、ブレーキングも奥までいけるし、あらゆるところで速いよ。

 もちろん、マシンやタイヤのドラッグが増えたぶん、ストレートは遅くなるけど、よほどストレートが長いサーキットでもなければ(ドライバーとしては)問題ないね。低速コーナーではダウンフォースの与える影響が小さくなるけど、タイヤのグリップが高くなっているぶん、速くなっているしね。今までとは別のアニマル、別のビーストだよ」

 ダウンフォースが増えたことで、これまでスロットルを戻していた場所でも全開で駆け抜けていけるようになった。特に空力が効く高速コーナーの速さは、昨年までの比ではない。

「ターン3やターン9を全開で行くのはこれが初めてではなくて、2010年あたりはそうだった。それと同じようにマシンをプッシュして走ることができて、しかもこのタイヤならプッシュし続けられる。これはとてもいいセンセーションだよ」(ベッテル)

 2017年のタイヤは性能低下が小さく、ドライバーがプッシュをし続けられる。昨年までのようにタイヤを労わるために、あえてペースを抑えて走るといった興ざめな場面はなくなり、レースの最初から最後まで全開で走ることができるのだ。

「ドライビングという点では、これまでよりもプッシュできると思う。これまではタイヤをセーブするために、本来走れるはずのペースよりも遅いペースで走ることがあったけど、今年のタイヤはかなりコンシステント(一貫性のある)なようだからね。自分自身のドライビングスタイルを出してプッシュして、ラップタイムを刻むということもできるようになると思う」(フェルナンド・アロンソ/マクラーレン・ホンダ)

「コーナリングフェイズのどこでも安定しているし、縁石を使ってアタックしやすくなった。これまで不安定だったそのふたつが明らかに改善されているんだ。タイヤはこれまでとまったく違っていて、ずっとプッシュし続けられる。デグラデーション(性能低下)が皆無と言っていいくらい小さいからね。走り続ければ燃料が減ったぶん、タイムが速くなったりするほどだ」(ジョリオン・パーマー/ルノー)

 それだけ各ドライバーの技が見せやすく、攻めた走りが見られるようになるというわけだ。

 バルセロナ合同テストでは何台かのマシンがロングランを行なったが、ミディアムやソフトといったこのサーキットに合ったレンジのタイヤでは「デグラデーションはゼロ」というデータが多々見られた。

 レッドブルのタイヤ運営責任者であるピエール・ヴァッシェ(カーパフォーマンス担当チーフエンジニア)は、今年はアグレッシブなレースが見られるのではないかと証言する。

「デグラデーションはほぼゼロだ。まったくタレないから、このままいけば全レースが1ストップになって、僕らエンジニアは仕事がなくなるよ(笑)。だけど、ドライバーたちは全力でプッシュしてアタックし続けられるから、彼らにとってはいいことだろうね」

 一方で、空力性能が向上したがゆえに、マシンの後方に生じる乱気流が大きくなり、前走車の背後に着いて走るのが難しくなったという声も聞こえてくる。つまり、それだけオーバーテイクを仕掛けるのが難しくなるのではないか、という懸念だ。

「他車の後ろを走ってみた感じでは、前走車の空力的影響が大きくて、オーバーテイクは間違いなく難しくなるだろうし、ショーという意味で言うと、これがいいかどうかはわからない。タイヤはコンシステントだからプッシュできるし、レースペースはこれまでよりも明らかに速くなるだろうけどね」(フェリペ・マッサ/ウイリアムズ)

「前走車をフォローして走るのは簡単じゃないね。今までよりもひどくなっている。前走車の後ろを走るクルマはクリーンエアで走っている状態と比べて50%か、それ以下の空気しかマシンに当たらなくなってしまうんだ。走っていて突然横風を受けて、何の前触れもなしにフロントエンドのグリップを失ったりする。そうなればスロットルを戻さなければならないし、オーバーテイクができるほど十分に近づくことができなくなってしまうんだ。たくさんのクルマが走るレースの実戦ではどうなるかわからないけど、数台のマシンの後ろに着いて走ったかぎりでは、今までよりも難しくなっているね」(ハミルトン)

 前走車の背後に着いてコーナリングするのがより難しくなったことは確かなようだ。しかし、実際のレースでオーバーテイクが難しくなるかどうかはまだわからないと擁護する声もある。

「ある場面では前走車に着いて走るのが難しくて抜きにくそうだったり、ある場面ではオーバーテイクが簡単そうだったりするから、まだ一概には言い切れないと思う。ニュータイヤかオールドタイヤか、テストではそのへんの条件の違いもハッキリとはわからないし、そのあたりは実戦を待つ必要があるんじゃないかな。もちろん、これだけマシンがワイドになったんだから、モナコは間違いなく抜きづらくなるだろうけどね」(ベッテル)

 前走車に着きすぎてグリップを失った場合、これまではタイヤが滑ってオーバーヒートすることでグリップが落ち、回復までにしばらくの時間が必要であったり、最悪の場合はそれでタイヤがダメになってしまったりしていた。それが、ドライバーたちがバトルに消極的だった理由のひとつでもあった。

 しかし、今年はタイヤの特性が変わったことで、この現象も変わる。ピレリのレーシングマネージャー、マリオ・イゾラはこう説明する。

「今年のタイヤはグリップを取り戻すのも早くなっているし、たとえば前走車の後ろを走っていてグリップを失ってスライドしてしまったとしても、表面はオーバーヒートすることなく、数コーナーも走ればふたたびもとのグリップレベルを取り戻すことができる。これまではタイヤのコンディションを整えるために、1周くらいはクルージングしなければならないこともあったけど、このタイヤではそんなことは必要ない。だから、ドライバーたちは攻めて走りやすくなるはずだ」

 また、FIAは今年からペナルティを緩和する方針を打ち出しており、明らかにどちらかのドライバーに非がある場合でもなければ、多少の接触は不問に付されるという。昨年マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が幾度となく見せたような激しいバトルや、ニコ・ロズベルグ(前メルセデスAMG)がペナルティを受けたドイツGPやマレーシアGPのバトルも、今年はむしろ奨励されることになりそうだ。それだけドライバーたちは自由にバトルを楽しむことができるようになる。

 また、速さを増したぶんだけ、ドライビングは難しくなっているともいう。

 すでにテストではスピンやコースオフを喫するドライバーが幾人も見られ、新人のランス・ストロール(ウイリアムズ)やストフェル・バンドーン(マクラーレン・ホンダ)だけでなく、ボッタスやパーマー、ケビン・マグヌッセン(ハース)などもコースを飛び出している。

「間違いなく、ミスの許容度は小さくなっているよ。マシンはピーキーだし、コーナリングが速いぶん、スナップオーバーステアが起きるときの起き方も早いし、オーバーステアに反応するのもこれまで以上に大幅に難しくなっているんだ。マシンのドライビングは難しいよ。コーナーは速いし、正確にドライブすることが求められるから、今年に比べれば去年までのクルマは圧倒的に楽だったよ。僕はそういう(ピーキーで難しい)ところが好きだけどね」(ハミルトン)

「ダウンフォースが大きくなり、高速コーナーで安定しているとはいえ、ドライブするのが簡単だというわけではなくて、むしろ今までよりも少しトリッキーなくらいだ」(ボッタス)

 空力に頼る面が大きくなったことで、風向きの影響を受けやすいだけでなく、突然リアのグリップを失ってリアが流れる「スナップオーバーステア」と呼ばれる現象も起きやすい。

 ピレリのイゾラはこの理由をこう説明する。

「スナップオーバーステアが発生しやすいというのは確かにあり得ることだろう。ダウンフォースレベルとグリップレベル自体が上がっているから、このコンビネーションによって起きるんだ。もともとのグリップが高いと、そのグリップを失うときには(突然失われて)スナッピーになりやすい。ただ、セットアップによってこの傾向は抑えることができるので、どのチームももっと予測しやすくドライブしやすいマシン挙動になるよう、セットアップ改良に腐心しているようだ」

 こうした要素から、今年のF1ではドライバーたちがミスを犯す場面も増えそうだ。レースを通して攻めた走りとバトルのできる環境が整い、辣腕(らつわん)のドライバーたちでさえミスを犯すほどの速さとトリッキーさもある。だからこそ、コースのあちこちで激しいバトルが繰り広げられることになる。

 第1回目のテストでは、昨年の初回テスト最速記録1分22秒810(セバスチャン・ベッテル/フェラーリ)を3秒も上回る1分19秒705をボッタスが記録している。第2回目テストではさらにマシンの開発とセットアップが進み、開幕戦オーストラリアGPにはさまざまな開発パーツが投入されて「まだ2〜3秒速くなるのではないか」とみる関係者もいる。

 史上最速のF1マシンがもたらすF1の変貌に、期待せずにはいられない。