パートやアルバイトというような非正規雇用が増え続けている現代。いわゆるフリーターと呼ばれているアルバイトやパート以外に、女性に多いのが派遣社員という働き方。「派遣社員」とは、派遣会社が雇用主となり、派遣先に就業に行く契約となり派遣先となる職種や業種もバラバラです。そのため、思ってもいないトラブルも起きがち。

自ら望んで正社員ではなく、非正規雇用を選んでいる場合もありますが、だいたいは正社員の職に就けなかったため仕方なくというケース。しかし、派遣社員のままずるずると30代、40代を迎えている女性も少なくありません。

出られるようで、出られない派遣スパイラル。派遣から正社員へとステップアップできずに、ずるずると職場を渡り歩いている「Tightrope walking(綱渡り)」ならぬ「Tightrope working」と言える派遣女子たち。「どうして正社員になれないのか」「派遣社員を選んでいるのか」を、彼女たちの証言から検証していこうと思います。

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今回は、都内で派遣社員として働いている菅原寛子さん(仮名・28歳)にお話を伺いました。寛子さんは少し明るい髪色の肩までのストレートボブ、ボーダーのカットソーの上には黒のパーカを羽織り、スキニーデニムにはコンバースのスニーカーを合わせていました。

ノーブランドという茶色の革製のトートバッグは、使い込まれた擦れなどが少し目立つ感じでした。

「書道をする時に、膝をついた状態で書くのでジーンズが多いですね」

彼女には、ライフワークともいえる趣味があります。8歳の時から習い始めた書道歴は、20年近くなります。

「展覧会に出展したりすると、意外と費用が掛かりますね。結構紙が高くて、大きいものだと50枚で1万円くらいするんですよ」

“書道を続ける限り、お金がかかるし、広さが必要なので実家を出られない”という寛子さん。そんな彼女に、どうして派遣で働いているのか聞いてみました。

東京から電車で1時間半ほどかかる郊外に、現在も父と母と住んでいます。

「実は最寄駅からも自転車で15分ほどかかるので、かなり遠いですね。帰りが遅くなるとさらに電車も混むので、残業がない派遣で働いています」

今でも家族仲が良く、ごくごく普通の家庭で育ったと言います。

「母はほぼ専業主婦で。たまに近所のクリーニング屋でバイトしたり、内職で商品の袋詰めとかしたり。父は駅の改札機をメンテナンスする仕事をしていましたね」

勉強の方は平均ぐらいだったという彼女。しかし、母親がお稽古ごとに熱を上げます。

「1人っ子だったんで、小学生の頃とか結構、お稽古事をさせられていたんですよ。水泳とか、ピアノとか。たまたま近所に書道の教室があって、母が先生と親しかったので通い始めて。やめづらいっていうのもあって、高校に入ってからも続けていました」

書道の腕前で大学に推薦合格!

思わぬところで、寛子さんの才能が開花します。

「なんの取りえもなかったのですが、字だけは上手かったんですよ。書道も続けるつもりはなくて、中学に入ったらやめようかと思っていたのですが、休んだりもしながら続けていましたね」

高校でも書道部に所属し、進路先として書道を選びます。

「大学も書道を勉強できる学科に進学しました。書道で賞を貰ったりしていたので、実は推薦で受かることができたんです」

大学時代は、書道に没頭したと言います。

「授業だけでは賞に出せるような作品は書けないので、師範の先生の教室まで1時間以上かけて通っていました」

しかし、就活で苦戦を強いられます。

「字が綺麗って、確かにメリットはあるとは思うのですが。実際は字が下手でもパソコンができる人の方が仕事が見つかるんですよね」

将来の夢は、自分の結婚式の招待状のあて名書きをする事。ウェルカムボードも書道で作りたいと思っている。

パソコンが使えないアナログ人間の寛子さん。100枚以上のあて名書きで腕が腱鞘炎に! その2に続きます