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●増大するトラフィックに対処
次世代のモバイル通信方式「5G」では、LTEの1000倍となる10Gbpsもの高速通信を実現するとされている。それだけの通信速度を実現するにはどのような技術が用いられるのか。また普及に向けた課題はどこにあるのだろうか。

○主目的は増大するトラフィックへの対処

現在、携帯電話業界で標準化が進められ、国内では携帯大手各社が2020年の商用サービス導入を目指している、次世代のモバイル通信方式「5G」。現在主流の4G(LTE-Advanced)と比べ大幅な性能の向上が見込まれているが、中でもやはり注目されるのは、通信速度の高速・大容量化である。

5Gは現在、標準化作業の真っ最中だが、その目標性能はLTE-Advancedの1つ前の方式である「LTE」の、およそ100倍となる10Gbps以上とされている。日本の大手3社の通信速度を確認すると、現在は理論値で600Mbpsを超える程度が最速値となっていることから、それよりはるかに高速な通信速度を実現しようとしていることは理解できるだろう。

また通信速度の実測値に影響する通信容量も、LTEの1000倍以上に設定されていることから、同時に多くの人が高速通信をしても速度低下の影響を受けにくくなる。大容量化が進めばビット当たりの通信コストも下がりやすくなるし、都市部のような混雑した場所での高速化にもつながりやすいことから、5Gの恩恵は大きいといえよう。

だが冷静に考えると、現在のスマートフォンで動画などの大容量コンテンツを視聴する分には、4Gの通信速度でも十分だと感じることが少なくない。通信コストを下げてほしいというニーズはあるだろうが、これ以上通信速度を上げることに、あまり意味を感じない人も少なくないのではないだろうか。

にもかかわらず、なぜより高速・大容量の5Gが必要とされているのかというと、スマートフォンの利用が今後も増え続け、通信トラフィックが増え続けると考えられるからだ。確かに今よりスマートフォンを積極利用する人が増えなければ、現状の4Gでも問題はないかもしれない。だが今後はより多くの人が、スマートフォンでリッチなコンテンツを利用するようになるだろうし、コンテンツを提供する側も通信速度の高速化に合わせて、4K映像やVRなど、大容量を活用したコンテンツ提供を進めてくるだろう。

そうした場合、現状の4Gではいずれ通信容量が上限に近づく、あるいは上限を超えてしまうという事態が起き、通信速度が劇的に遅くなったり、ネットワークに障害が発生してしまったりと、さまざまなトラブルが起きる可能性が高まってくる。実際2020年には、モバイルの通信トラフィックが2010年の1000倍に達するとの予測もあり、そうした時代に備えるためにも新しい通信方式が必要とされているわけだ。

●利用する周波数帯の特性
○高い周波数帯の活用で高速通信を実現

だが、LTEの100倍もの通信速度と1000倍もの容量を実現するのは決して容易ではない。3G、4Gの時はキラーとなる新技術の導入によって通信速度の向上が図られてきたが、5Gでは高速・大容量を実現する決定的な技術がなく、さまざまな技術や要素の組み合わせによって通信速度の高速化・大容量化を図ろうとしているのだ。

中でも大きな影響を与えると考えられるのが、新しい周波数帯の利用だ。現在の3Gや4Gに用いられている周波数帯は3GHzより下の帯域が多く用いられており、中でも1GHzより下の、遠くに飛びやすいとされる「プラチナバンド」と呼ばれる帯域が重宝される傾向にある。だが周波数が低い帯域は、既に携帯電話だけでなく、他の無線通信などにも用いられていることから、一層の高速・大容量通信を実現するには限界がある。

そこで5Gでは、新たにより上の帯域、具体的には6GHz以上、さらには20GHzを超える帯域の活用なども検討されている。周波数が高い帯域は他の通信などにあまり用いられておらず、高速・大容量通信を実現する上で必要な、広い帯域幅を確保できる。それゆえ高い周波数帯の活用が、5Gでは重要な鍵を握っているわけだ。

しかしながら電波は周波数が高いほど、建物の裏などに回り込みにくく、直進性が強いことから扱いづらいというのが定説だ。そこで5Gでは、高い周波数の電波を、プラチナバンドのように面的に射出して広いエリアをカバーするのではなく、特定の端末を狙って射出する「ビームフォーミング」という技術を用いることで、端末に電波を届ける仕組みを採用している。

だがビームフォーミングでは、端末の動きを常に把握して追随する必要があるのに加え、隣り合う基地局と電波が直接重なり合うわけではないことから、移動中に接続する基地局を切り替える「ハンドオーバー」などの制御が、従来より難しくなるという課題を抱えている。そうした問題を、基地局間を協調するなどさまざまな技術を用いることで解消しようとしているのだ。

●普及までには課題も
○短期的視野で見ると課題が多い

高い周波数帯を有効活用する上で、もう1つ重要な技術となるのが「Massive MIMO」だ。これは100〜200といった非常に多くのアンテナ素子を用いることで、1つの基地局から多くの端末に対して同時に電波を射出できる技術だ。

Massive MIMOを用いて1つの基地局から同時に多くの電波を射出することで、基地局当たりの容量を増やすことが可能になる。しかもビームフォーミングでは複数の端末で電波を共有するのではなく、個々の端末に直接電波を届けることから、その分高速・大容量を維持しやすい。

実際、ソフトバンクは昨年、20GBもの大容量を月額6,000円から利用できる「ギガモンスター」を導入した際、傘下のWireless City Planningが運営するTD-LTE互換のAXGPネットワーク(ソフトバンクでは「Softbank 4G」として使用)に、Massive MIMOを導入。これによって通信容量を10倍に拡大し、大容量通信が増えても快適な通信ができる体制を整えている。

他にもさまざまな技術を導入することで、5Gの高速・大容量化が実現すると見られている。確かに中長期的に見れば、トラフィック解消や大容量コンテンツの利活用など、5Gの導入による高速・大容量化の恩恵は大きいと考えられるが、短期的視野で見ると課題は非常に多い。

先にも触れた通り、現在は多くのユーザーにとって、4Gの通信速度で十分満足できる環境となっている。それゆえ積極的に5Gを利用する理由に乏しく、5Gへの端末買い替えなど移行が進まず、5Gの導入がトラフィック解消につながっていかない可能性がある。

しかも現在では、総務省が端末の実質0円販売を事実上禁止し、大手キャリアの過度な販売奨励金を抑制したことから、高性能な端末の買い替えが鈍くなってきている。端末を大幅に値引くキャリアの販売手法に対し、長い間批判の声が多かったのは事実だが、一方でそれがユーザーの旺盛な買い替え需要を生んで新しい通信方式が急速に普及し、都市部・地方を問わず高速通信ができる、世界有数のモバイル通信ネットワークの構築にもつながったというメリットを生み出した側面もあるのだ。

だが今は、総務省施策によってインフラ面での好循環が働きにくくなってきており、ユーザーメリットの少なさと合わせて、5Gに対応した端末の普及がこれまでよりも進みにくくなると予想される。5Gによる高速・大容量通信を早期に普及させるためには、インフラや技術以外の部分での工夫が求められるところかもしれない。

(佐野正弘)