【ライターコラムfrom広島】“絶対に大丈夫” 理不尽な運命に立ち向かう佐々木翔を僕は信じる

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 身体中から湧き上がるサッカーへの意欲は、寒い鹿児島の夜空も焦がしそうなほど、熱かった。1月18日、すっかりと陽が落ちて星も瞬きはじめた頃、佐々木翔は自身の復活への想いを吐き出したのだ。

「絶好調ですよ。傷めた右ひざも、問題はない。段階を踏んでいる時期なのでまだ試合には出られませんが、しっかりと練習を重ねていきます」

 昨年3月20日の対大宮アルディージャ戦、後半アディショナルタイム。5−1という大差の中でも攻撃の意欲が衰えない佐々木は、大宮の不用意なパスをカットした。カウンターだ。だが次の瞬間、強烈なタックルが襲う。もんどりうつ。右ひざを抱えて、のたうちまわる。尋常じゃない。前十字じん帯断裂。2016年シーズンの佐々木翔は、もう出場できない。

 もちろん、不可抗力である。サッカーではありがちのことで、不運だったとしか言えない。佐々木はこの時のプレーについて一言も口にせず、未来についてのみ語った。「来年のキャンプから復帰しますよ」。苦しいリハビリの中、佐々木は笑った。

 前年のチャンピオンシップ決勝・第1戦で見せた魂の同点ヘッド。試合終了間際にチームを救って優勝に貢献したDFは、2017年開幕からポジションを確保する。スピード、バネ、強さ、戦う意思の熱さ、破壊力に満ちた攻撃性。サンフレッチェ広島が求めるストッパー像を体現する佐々木にとって、2016年は大きな飛躍となるはずだった。日本代表まで駆け上がるきっかけを掴むはずだった。

 ただ、昔であれば選手寿命の終わりを意味したこの大ケガも、しっかりと治療・リハビリすれば復活できる。そんな例は山ほどある。間違いなく、2017年には復帰してくれるはずだ。そう信じていた。だが。

 1月22日の午前中、トレーニングでの出来事。佐々木はジャンプしてハイボールをクリアした。その時の着地。バランスを崩した。前十字じん帯、再断裂。またしても、佐々木はサッカーをする権利を取り上げられた。

■佐々木翔も大丈夫。絶対に大丈夫

 実は昨年末、トレーニングに合流したあとで彼は一度、同じ箇所を損傷している。ただその時は手術の必要はなく、保存療法で治療。サッカーをやれると確認したところでキャンプに参加した。その時の経験も踏まえ、逸る気持ちを抑えつつ、強度的にも段階を踏んでトレーニングを行っていた。それなのに。

 神様は、いったい佐々木にどれほどの試練を与えれば、十分だというのだろう。自身の情熱をサッカーだけに注入している青年なのだ。真摯で、周りを笑顔にさせる空気感を持ち、仲間に気を使う。昨年、まだリハビリが始まったばかりの時に、自分がボールすら蹴れない時に、試合のメンバーから外された後輩を心配していた。そういう男に対して、あまりに理不尽な運命ではないか。

「本当に残念。ようやく、復帰が見えてきたところなのに……。本人が誰よりもつらい。チーム全員で彼を励ましたい」

 受傷から二日後、森保一監督は深刻な表情で言葉を探した。どんな言葉であったとしても、佐々木の気持ちを癒すことはできまい。二度目の前十字じん帯断裂。一度、厳しいリハビリをやっているだけに、なおさら絶望的になっているだろう。励ます言葉がどこにあるのか。

 ところが2月6日。安芸高田市・清神社に広島が参拝した時の映像を見た時、驚いた。手術を1週間後に控えた佐々木が、そこに笑顔でいるではないか。そこに曇りはない。彼らしい、にこやかな表情で、立っているではないか。

 言葉がなかった。なんて強さだ。自分だったら、笑えるだろうか。その場所に立てるだろうか。

 2月14日の手術から全治8カ月。焦らせるつもりはない。今度こそ、完璧に治してほしいという気持ちが強い。彼のような好漢がピッチに立って、堂々たるプレーを見せてほしいと願うだけだ。ただ、一つだけ、いくつかの例をあげておく。

 広島で前十字じん帯断裂という大ケガを負った後、厳しいリハビリを克服して日本代表にまで登りつめた男が、3人いる。上村健一(現カマタマーレ讃岐コーチ)、駒野友一(現アビスパ福岡)、そして青山敏弘だ。そのうち上村は佐々木と同じように復帰直後に再断裂。しかしそこから見事に復活し、代表選出の栄誉に浴した。青山はリハビリ中の激しい筋トレで鍛え上げ「広島のエンジン」と称されるほどの肉体をつくりあげる。その後、右足の剥離骨折、2度にわたる左ひざ内側半月板の手術、腰痛。全身を襲うケガと戦い抜いて、彼はブラジル・ワールドカップのピッチに立った。

 きっと、佐々木翔も大丈夫。絶対に大丈夫だと信じる。

 その気持ちだけを持ち続け、彼のこれからを見守っていきたいと思う。

文=紫熊倶楽部 中野和也