【ライターコラムfrom甲府】吉田達磨的エッセンス加え、継承される“5バック”

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 ヴァンフォーレ甲府が遠慮気味に5バックを使い始めたのは、2013年夏のこと。J1の前半戦を7連敗で終えた城福浩監督(当時)は、2週間の中断期間が明けた第18節・ベガルタ仙台戦から「5−4−1」の新システムを取り入れた。

 取材者として、最初はこの並びをどう表現すればいいのか困った。選手の位置は刻々と変化するし、何より「5バック」という響きはネガティブである。城福監督も当初は「3バック」と言っていたように記憶している。単なる数字の並びであっても「5バック」と言うことで、選手のプレーが消極的になることを恐れたのだろう。

 ただ甲府の5バックと、浦和など他クラブが使う3バックの違いは「シャドー」と呼ばれる二列目の位置取り。守備のときはボランチの横に並んで外に拡がり、第2サイドバック的なポジションを取っていた。となるとこれはどう見ても「5−4−1」である。選手も自然に「5−4−1」とコメントするようになり、我々も気遣いせず「5バック」と書くようになった。甲府はそれから3年半に渡って5バックを貫き、今もしぶとくJ1で生き抜いている。

 今季の甲府は吉田達磨新監督を迎え、5バックを継承しつつ、システムのアレンジに取り組んでいる。宮崎キャンプ中に行われた2月9日の仙台戦からチームが取り入れているのは「5−3−2」の布陣だ。吉田監督も直後は「オプションをいくつか持っておきい」というくらいのコメントで、それが定番になるとは我々も思っていなかった。しかし開幕後もガンバ大阪戦、鹿島アントラーズ戦と「5−3−2」を試し、J1の強豪に対して守備を機能させている。

「5−3−2」の布陣は、中盤の3枚にかかる負担が大きい。動かない限りはサイドが数的不利の状態になってしまうからだ。横へのスライドはゾーンディフェンスの生命線だが、90分間その動きを続けることは容易でない。また鹿島のような4バックのチームに対しては、「相手のサイドバックをどう捕まえるのか」というギャップの問題が生ずる。

 試合を見ると、DFラインの両端に位置するウイングバックが縦にズレて対応していた。鹿島は両サイドバックを組み立ての「一手目」「二手目」に使うことが多い。甲府はそこへボールが入る瞬間に、松橋優、橋爪勇樹の一方が縦に踏み込んでスペースを消していた。残りのDF4枚は数メートルほど横にズレればいい。その瞬間に限れば「4−4−2」の形となって、バランスは崩れない。

 吉田監督は2014年、当時率いていた柏レイソルで何試合か5バックを活用していたが、4バックのイメージが強い。しかし甲府は「4バックにするような編成はしていない」(吉田監督)というチーム事情があり、2列目のサイドハーフを任せる人材が乏しい。ただ5バックでも「縦に踏み込む」「奪いに行く」という要素を組み込むことで、その重さを多少は解消できる。また攻撃面ではウイングバックが幅を取れるという部分にメリットが元々この布陣にはあった。チームの課題はディテールを別にすると、「高い位置で攻撃につながる奪い方をする」という部分に尽きたわけで、今回のような「5−3−2」を使う意味がある。

 今季のJ1は甲府以外にも北海道コンサドーレ札幌、仙台、G大阪が同じ並びを取り入れている。3バックの前に守備的MFが2枚並ぶ「3−4−1−2][3−4−2−1]でなく、「3ボランチ」が中に並ぶ布陣だ。もちろんそれぞれ採用の狙い、攻守の決めごとは違うのだろうが、戦術的な一つの潮流なのだろう。そんな各クラブの「5−3−2」を見比べてみても、面白いだろう。

文=大島和人