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マサチューセッツ工科大学(MIT)と台湾・国立交通大学の研究チームは、酸化グラフェンを利用して微量の血液サンプル中から細胞を捕獲し、個々の細胞レベルでの分析・診断を行う新手法を開発した。細胞診断が低コストかつ場所を選ばずどこでもできるようになる可能性がある。研究論文は、ナノテク分野の専門誌「ACS Nano」に掲載された。

研究チームは、50〜80℃程度の温度で加熱処理した酸化グラフェンの表面にペプチドを結合させて官能基化した。このペプチドに、DNAやたんぱく質あるいは細胞まるごと1個など、狙った生体分子を選択的に捕獲する能力をもたせた。このようにして捕獲した生体分子に対して、さまざまな種類の分析・テストを行うことができるようにした。癌マーカーとなる免疫細胞を捕獲する原理実証試験を行ったところ、酸化グラフェンの低温加熱処理によって、細胞の捕獲効率は未処理の酸化グラフェンと比較して約2倍に上がった。

酸化グラフェンを比較的低い温度で加熱することによって、酸化グラフェン表面での化学結合力が高まることが示された。低温加熱によって酸化グラフェンの表面特性が変化し、酸素原子がクラスター化すると考えられている。クラスター化によって、酸化グラフェン表面の官能基は、エポキシ基やヒドロキシル基が減って、かわりにカルボキシル基が増加する。これによって酸化グラフェン表面での化学結合の効率が向上すると説明されている。

低温加熱処理の時間を長く取ったほうが捕獲効率が上がることも分かった。論文では、未処理の状態で捕獲率54%だった酸化グラフェンが、9日間の加熱処理後、捕獲率92%に向上したと報告されている。

生体分子捕獲用のデバイスとして酸化グラフェンを利用する研究はこれまでにもあったが、リソグラフィによる微細加工で酸化グラフェン表面をパターニングしたり、マイクロ流体チャネルを付加したりする必要があったため、高コストなものになっていた。今回の方式は、酸化グラフェンの処理に取り扱いの難しい化学物質などを必要とせず、低い温度で加熱するだけでよく、細胞捕獲に使うペプチドもバイオリアクター内で安価に大量生産できる。このため、効率のよい分子捕獲デバイスが低コストで量産可能になると期待できる。デバイス量産には既存の製造技術が使えるため、診断用デバイスの単価を5ドル以下に抑えることができると見積もられている。

同法には、サンプルを冷凍したり、インキュベータを使って温度を精密コントロールしたりする必要がなく、室温条件下で、10分程度と短時間で細胞の捕獲と評価が行えるという利点もある。特別な医療設備がない場所でも、細胞分析を利用した病気の診断などが低コストでできるようになると期待される。

(荒井聡)