ニコラス・ベネシュ氏

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 減損損失は7000億円に上り、3月末に債務超過に陥ることは確実視されている東芝。ついには「虎の子」の成長事業である半導体事業を分社化して売り出す方針で、鴻海やアップルが興味を示している。JALに東電、シャープそして三菱自動車、かつての名だたる日本の名門企業の凋落は今や珍しくなくなってきた。いったい今、日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)の現場に何が起こっているのか?

 現役の東京大学経済学部生にして決算書や各種統計データを読み込み、企業の意外な実態を暴き出し、そのノウハウをまとめた新刊『東大式 スゴい[決算書の読み方]』を3月12日に上梓する大熊将八氏。

 そんな彼が「コーポレートガバナンス・コード」の提案者であり、日本企業の役員研修を手がける「公益社団法人会社役員育成機構(BDTI)」代表理事を務めるニコラス・ベネシュ氏を直撃。日本の企業経営を考える上で、必読のインタビュー最終回です――

◆日本企業は「臭いものに蓋」する文化

大熊:ベネシュさんはアメリカで経営学修士と法律学博士を取得し、現地でJ.P.モルガンに11年間勤務されたわけですが、日本とアメリカで企業不祥事の起こり方に違いはあるのでしょうか?

ベネシュ:アメリカでは’01年に発覚した総合エネルギー会社のエンロンの粉飾決算のように、経営陣がより貪欲に儲けるため不正に手を染めるケースが多い。一方で、日本企業は「臭いものに蓋」という慣用句が当てはまるような、恥ずかしい行為を隠すための不正というのが多いです。

大熊:確かに、東芝の「不適切会計」も三菱自動車、スズキの燃費不正もそうですよね。日本的な恥の文化が企業統治にも作用してしまっていると。

ベネシュ:それと、日本企業の特徴はやはり、上下関係のはっきりした組織構造になっていることです。これの弊害は内部通報をしようと思ってもする相手がいないことです。

 私はさまざまな日本企業の一般社員にもコンプライアンス研修などを行っていますが、受講者に「もし自分の会社内の不正を見つけたらちゃんと告発できるか?」と聞くと、みなさん決まって「いや……難しいです。やるべきだとはわかっていますし、自分の上司には話せるでしょうけど、その更に上長や監査役・コンプライアンス部などに話せる自信はありません」と言います。

◆内部通報で国から報奨金が出る国・アメリカ

ベネシュ:報復行為を恐れて何もしないという選択を取ってしまうんです。東芝のケースでも内部の告発者は外部の窓口に行きました。消費者庁のアンケートを見ても、自社を通さずに当局に直行する例が日本では多くて増えているようです。

大熊:なるほど。

ベネシュ:それからこれは憶測の域を出ませんが、日本は労働市場の柔軟性がないという特徴も内部告発を難しくしている可能性があります。

 勇気を持って告発を行っても、類似企業に転職して働ける保証もないので躊躇するのではないでしょうか。

◆違法ではないが一部不適切

大熊:確かにそれもあるでしょうね。アメリカと日本におけるコーポレート・ガバナンスの違いは企業文化の違いだけでしょうか?

ベネシュ:他にもあります。アメリカはリーマン・ショックのあと、企業のコンプライアンスやガバナンスが不十分だったという反省をしました。法律改正によって内部告発者が経営者に内部通報しなくても、当局に直行して告発し、違反の発見に繋がれば、かかった罰金の10〜30%を報奨金としてもらえるようになりました。

 そこで、優秀な企業こそ「潔白になる以外ない」と思って「倫理」という視点を取り入れました。もちろんまだまだ不完全ではありますが。「厳密に言えばこれは法律違反ではない」というような行為はいくらでも可能なので、それはちゃんと社会に対して説明できるような妥当なものかといった観点からコーポレート・ガバナンスを捉え直したのです。