▽3月8日、小平市にあるFC東京の練習場には100人を超す報道陣と600人以上のファンが集結した。お目当ては、FC東京とU-20日本代表候補のトレーニングマッチに、15歳の久保建英(たけふさ)が招集されたからだ。45分ハーフの試合で久保は後半から登場すると、51分にボールを受けて反転すると、DF2人を次々に抜き去り左足でシュート。これはバーを越えたが、53分には原輝綺(新潟)のドリブル突破から岩崎悠人(京都)がつないだボールをワントラップ後に左足で突き刺して追加点を奪った。

▽ゴールシーンについて久保は「ただ決めるだけの簡単なゴール。あそこは決めなきゃいけなかった」と冷静沈着に振り返っていた。ピッチでは簡単にフリーになってパスを受けると、いともたやすくマーカーを抜き去る。しかし、いま目の前で話しをしているのは、黒い詰襟の(ちょっと汚れたような)学生服を着た、正真正銘の中学生だ。他の選手が所属するJクラブのスーツを着ているのと比べ、そのギャップに違和感を覚えずにはいられない。

▽もしも今年5月に韓国で開幕するU-20W杯に出場すれば、2世代飛び級の快挙となる。なぜなら本来なら久保は、2021年に開催される同大会の資格保持者だからだ。もしも2019年と2021年のアジア予選を突破して本大会出場を決めれば、3大会連続出場という記録更新の可能性もある。過去にはメッシ(2005年に18歳で出場して得点王とMVPを受賞)や、日本なら平山相太ら2大会連続出場のケースはあるが、さすが3大会連続はない。

▽そんな久保のプレーで何がすごいのか。当日はカメラで彼のプレーを追ったことで分かったことがある。例えばカズや香川は“またぎフェイント”、いわゆるシザースフェイントを使うが、久保にはこれといったフェイントはない。しかし、対戦相手の体重移動、つま先立ちならタックルの足を出せるが、カカトが地面に着いていると咄嗟に足を出すことができない。それを本能的に察知して、ちょっとした体の向きで相手を誘い、ひらりとかわしているように見えた。ここらあたりも和製メッシと言われるゆえんだろう。

▽3月15日には韓国で本大会の抽選会が行われる。果たして日本はどのグループに入るのか。そして久保は最終メンバーにエントリーされるのか。久保自身はU-20W杯について、「世界トップレベルで活躍している選手もいると思うので、どのくらいの力なのか比べたいし、将来的に避けて通れない人たちだと思うので挑戦したい」と、気負うことなく抱負を語る。学生服に身を包んだ中学生が、こんなにも堂々としたコメントを発信する。驚かされるのはプレーだけではない、日本サッカー界の宝と言っていいだろう。

▽蛇足だが、3月15日の抽選会を日本から取材に訪れようとしたあるメディアは、10日に朴槿恵大統領の弾劾訴追に関する決定を宣告することに加え、北朝鮮の金正男氏が殺害された事件の影響で、取材を拒否されたそうだ。今月28日からはアジアカップ最終予選がスタートするが、平壌での試合は安全が確保されないとして、マレーシアサッカー協会はAFCに対し中立的な第3国に変更するよう要請している。こちらの成り行きも気になるところだ。【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。