極私的! 月報・青学陸上部 第31回

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 立川シティハーフマラソン――。

「他にもハーフのレースがありますけど、立川シティハーフのように学生同士がガチでぶつかりあうレースはあまりないんです。そのレースで上位に入っていけるかどうか。箱根駅伝からここまで2ヵ間、何をやってきたのかが試されます。このレースで成長が見えてこない選手は今年の箱根も難しいでしょうし、見えた選手は『箱根へいけるぞ』となってくる。そういう意味でも非常に重要なレースですね」

 安藤弘敏コーチは、立川シティハーフの位置付けについてそう語った。

 もちろん現在のチーム状況、さらに選手の現状を確認するためのレースにもなるし、また学生ハーフマラソンとユニバーシアード大会選考会を併催しているので3位以内に入ると、8月に台北で開催されるユニバの出場権を獲得できる。青学大では、2015年に小椋裕介と一色恭志が出場権を獲得、ハーフマラソンに出場してワンツーフィニッシュの活躍を見せた。今回は優勝もしくは3位以内に入ってユニバ出場、各自の自己ベスト更新が目標になった。


快晴のなか行なわれた全日本学生ハーフマラソン
 3月5日。レースは、各大学のエース級の選手がズラリと顔をそろえた。

 箱根2区で区間賞を獲得した鈴木健吾(神奈川大3年)をはじめ、工藤有生(駒澤大3年)、川端千都(東海大3年)など箱根を走った選手たちがエントリーをしていたのだ。

 
 青学大は田村和希(3年)をはじめ、新キャプテンの吉永竜聖(3年)、箱根を快走した森田歩希(2年)、梶谷瑠哉(2年)、小野田勇次(2年)ら26名がエントリーした。 

 この日の立川は快晴、9時30分スタート時の気温は15度と高く、日差しもあったので体感温度は20度近くになった。しかも昭和記念公園内はスギの木が多い。暑さだけではなく、花粉症の選手にはかなり厳しいコンディションになっていた。
 
 レースは序盤から早いペースになった。1km2分50秒ほどのペースで、工藤ら30名ほどの第1集団は5kmを14分25秒で駆けた。10kmは29分08秒だったが、ここで先頭集団が7、8名に絞られた。

 青学勢でそこについていったのが、橋詰大彗(たいせい/2年)だった。

「レースはスタートから全体のペースが思った以上に早くてキツかったです。(そこで)無理せず、後ろの集団について、いいペースでいくことができました」

 コースは12km途中までは昭和記念公園外の平地を走るが、そこからは公園内に入り、アップ&ダウンが続く。ここで全体のペースが落ちたが、15kmをトップで通過した鈴木は43分45秒。橋詰は44分07秒と粘ったが、最後まで追いつくことはできなかった。そのまま鈴木が1時間1分36秒で優勝、大会新記録だった。橋詰は1時間2分46秒、自己ベスト更新で5位に入った。

「学内トップは自信になりますけど、まだまだです。10km越えてから、どれだけ粘れるかが課題です」


 橋詰は箱根駅伝以降、好調をキープしている。2月の神奈川マラソン(ハーフ)では、1時間2分56秒で学内では森田に続き、2位だった。その後、宮崎合宿でしっかりと走り込み、この立川でも結果を出した。

「橋詰はたまにいい記録をポンと出すけど、単発で安定性がなかったんです。おっとりした性格ですが、もともと能力があるし、コンスタントに結果を出せるようになれば主力選手として期待できると思っていたので、ようやくって感じですね」

 4年生の小関一輝マネージャーは、そう語った。

 橋詰は入学時から非常に期待された選手だった。和歌山北高校時代、インターハイ1500mで4位に入賞するなどスピードがあり、5000mは14分16秒15。都大路では1区を走り、ラストスパートで伊賀白鳳高校の下史典(現・駒沢大2年)に競り負けたが見事な走りを見せた。今回のレースでも下に10秒差で敗れたが、ダイナミックな走りで同期の梶谷や富田浩之ら5000mで13分台のタイムを持つ選手同様に「将来性」を高く評価されていたのだ。

 しかし、1年生の時は陸上と勉強の両立に苦しみ、芽が出なかった。2年生になると夏は御嶽、妙高高原の選抜合宿組に入ったが、9月の学内タイムトライアル(5000m)では下位に終わり、駅伝には絡めなかった。いろいろ苦しんだが、期待された才能がようやく今、開花し始めたのである。

 安藤コーチは、今回の橋詰の「走り」を高く評価した。

「橋詰は1年の時、神奈川ハーフ(3位・1時間3分33秒)はよかったけど、立川ハーフがよくなかった。でも、今回は神奈川と立川の両方をしっかりと揃えてきた。しかも今回は最初から突っ込んだレースで勝負しての5位。スピードがあるし、暑い中でも走れる。私なら彼を箱根3区で使いたい。そのくらいの信頼感がありますね」

 箱根候補に名乗りを挙げた橋詰だが、これはチームにとって非常に大きい。

 橋詰ら2年生は梶谷、森田、小野田、富田、林奎介、山田滉介と精鋭揃いで、神野大地たちの「最強世代」や3年生の吉永、田村、下田裕太、中村祐紀たちの代に負けないくらい選手層が厚い。箱根を走れなかった橋詰たちがレベルアップしていけば、チーム内に激しい競争が生まれ、よりチーム力が高まる。そうして全体の選手層が厚く、強くなれば、必然的に箱根4連覇が見えてくる。

 しかし、レース終了後、吉永は少し渋い表情をしていた。

「箱根を走っていない橋詰がチーム内トップ、全体の5位で走れたのはいい収穫だったと思いますし、2年生はすごく調子がいいので、この代の層が厚くなってきた感はあります。でも、チーム全体としてはあまり良くなかったです。3位以内に入ってユニバにという目標が達成できなかったですし、1年生も目立たなかった。そこは少し残念でした」

 吉永が言うように2年生は橋詰をはじめ、森田が9位(1時間3分02秒)、小野田(1時間3分42秒)と梶谷(1時間3分48秒)が自己ベスト更新、山田が1時間3分54秒で29位になり、5人が30番内に入るなどまずまずの結果だった。

 3年生は下田が膝のケガが完治せず、中村は1週間前に東京マラソンを走っており、ともに欠場。1ヵ月前の丸亀国際ハーフマラソンで9位に入り、自己ベストを更新した田村は「学生ハーフで優勝を狙う」と気合いを入れての出走だったが、腹痛で途中棄権した。田村は箱根もそうだったが、レース途中での腹痛が続いているのが心配だ。大越望が自己ベストを更新し、吉永自身は故障明けの初レースで「状態が悪い中でもまとめられた」と手応えを感じていたが、キャプテンとして見た3年生は今ひとつの印象だったのだろう。


 そして、期待の1年生もほとんど結果を出せずに終わった。 

「このレースの重要性を1年生はまだ分かっていないのかなぁ。たぶん、初レースみたいな感覚でやっているんですよ。鈴木と吉田は上が見えてきているけど、今日のレースも突っ込んでいくわけでもなく、勝負をしていない中でタイムが上がってきているだけ。ガチのハーフのレースはもう秋までないので、勝負してほしかったですし、このレースでトップを争うような経験をしてほしかったですね」

 安藤コーチが厳しく1年生を見ているのは、これからの戦力、つまり選手層に影響が出てくるからだ。3年生は下田ら主力がおり、2年生は実力者揃いでこのレース結果が示すように調子がいい。だが、1年生はこのレースでは竹石尚人が自己ベスト更新の1時間4分59秒で90位が最高位だった。故障明けの鈴木塁人は万全ではなく、期待された吉田祐也、中根滉稀は結果を残せなかった。分厚い選手層が青学の強さの根源だが、特定の学年の出力が落ちると、その根本が揺らぐ可能性が出てくる。

「4月には新1年生が入ってくるけど、彼らに多くを期待するわけにはいかない。今、この時期に成長していかないと今の1年生の世代が空洞化してしまう恐れがある。そうなると選手層に大きな影響を及ぼすことになります。実際、昨年までは箱根を走れそうな選手がたくさんいて、誰を落とそうかというレベルでしたけど、今は片手で数えられるし、この選手だなって感じで、先が見えてしまっている。競争がなくなるとチームが停滞してしまう。強い時代を見てきているだけに今は物足りなさを感じています」
 
 青学は今の2、3年生が3、4年生になり、このままトップフォームでいったとしてもやはり彼らだけでは駅伝は戦えない。駅伝は総合力の勝負であり、学年ごとに走れる選手が必要になる。これからも「青学王国」を継続していくためには、”谷間の世代”を作っていけないのだ。


 一方、このレースが「秋の駅伝や箱根につながる」という安藤コーチの言葉を借りるならば、他大学の成績が気になるところだ。箱根駅伝9位の駒澤大は2位に工藤、3位に片西景、4位に下と上位を占め、結果を出した。箱根駅伝10位だった東海大は川端が6位、春日千速が19位と3年生が本来の走りを取り戻しつつある。東海大は1年生がスーパーなだけに、その脇を固める上級生の調子が上がってくれば東海の”脅威”は倍増する。

「レースでは川端選手や春日選手がいい走りをしていました。上級生の彼らが、たとえば箱根の2区にガチッとはまれば、1年生は一度、箱根で失敗したけど、いい経験をしているので次はラクに走れる。そうなると今年の東海は相当強いでしょう」

 安藤コーチは、警戒感を露わにした。

 今回のレースでは、橋詰というポテンシャルの高い選手が表舞台に飛び出してきた。その一方で1年生の”停滞”という課題も見えた。いろんな意味で収穫の多いレースだったと言えるが、今後、1年生の巻返しが見られるのだろうか――。

3月6日、新1年生が町田寮に入寮した。吉永キャプテンのもと、箱根まで続く新たな戦いがスタートした。

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