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東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の村上義彦准教授の研究グループは、「複数の薬を異なる速度で自在に放出できるゲル」の開発に成功したことを発表した。この材料によって「より効率的ながん治療」や「薬の飲み忘れがない在宅医療」の実現が期待される。この研究成果は2月29日、界面科学の専門誌「Colloids Surface B: Biointerface電子版」に掲載された。

この研究結果は、薬物キャリア(体内に薬を運ぶための入れ物)として従来より利用されている構造体(ミセル)に着目し、『物質の放出速度が異なるミセル』をゲルの内部に固定化するという材料設計での独自アイデアによって、「複数の物質の放出挙動を自在に制御できるゲル」の開発に成功したもの。これまで薬物キャリアは単体で血液中に投与して用いられてきたが、ゲルの内部に固定化する技術を確立することによって新しい材料の設計が可能となる。

高分子(直鎖状)とミセルを混合するだけで数秒以内にゲルが形成される。ミセルを形成する分子(ブロック共重合体)の組成によってミセル内部の「固さ」を選ぶことができるため、ミセルからの物質の放出を容易に制御することができる。さらに、複数の物質がゲルから放出されるようすを、蛍光顕微鏡によって観察することにも成功したということだ。

現状、がんを薬で治療する際は、複数の抗がん剤や補助薬を併用して薬効の増大や副作用の軽減が図られているが、こうした「多剤併用療法」においては、使用する薬物の種類が増えるほど薬物の投与スケジュールが複雑になるという問題点があった。また、一般的な投薬治療においても「処方された複数の薬の投薬スケジュールを守り、飲み忘れることがない」ことは重要であった。

今回開発されたゲルは、高分子(直鎖状)とミセルを混合するだけで迅速にゲルが得られるため、各成分を溶解した二つの水溶液を体内に注入し、治療用のゲルを体内で形成して留置するだけの「患者に優しい」新しいがん治療法が実現するほか、皮膚に貼付するパッチ材料の中に複数の高分子ミセルを固定化することによって、高齢者でも簡単に使える「投薬スケジュール通りに複数の薬が放出されるゲル状のシート」が実現する可能性がある。

同研究グループは今後、抗がん剤などの各種薬物を用いてゲルを作製し、その治療効果を評価する予定だとしている。

(早川厚志)