C Channel社長 森川 亮(もりかわ・あきら)氏

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世の中のスピードはますます加速し、1年後を読み取るのも難しい時代になった。ヒットメーカーはどのようにして、先を見通しているのか。ハンゲーム、LINEなど数々の事業を成功させてきた森川氏に、消費者ニーズをつかむ方法を聞いた。

■無意識の行動に本質がある

ビジネスは釣りと一緒なんです。「ニーズがあるか」が一番大事。魚がいない所に釣り竿を垂らしても釣れないように、ニーズがない所に優秀な人材や技術を入れても、絶対に成功しません。だから、魚がいる場所を予測し、すぐに釣り糸を垂らし、魚がいるかを見極める。魚がいなかったら、即、次の場所に移動する。ビジネスもこの繰り返しです。100通りくらいニーズを考えて、全部試せば、いつかは当たりが出ます。

では、どうやって100通りのニーズを考えるか。顧客に「何か欲しいものはありますか?」と聞いてもダメ。「こういうものが欲しい」と顧客から答えが出る時点では、もう遅いんです。まだニーズが顕在化していない段階で世の中に商品を出し、顧客から「これが欲しかった」と言われるくらいの狎莠茲.が必要なんです。

だからこそ「何が流行るか」を予測することが非常に重要なのですが、残念ながら、先の時代を正確に読むことはできません。しかし、確率の高い仮説を立てることはできると思っています。

そのために、まず初めにすることは、現状を知ることです。顧客が「今、何を使っているのか」を徹底的に調べていきます。

インターネット業界におけるアメリカのように、“先進国”がある場合は、その状況も調べます。すると、先進国との“ギャップ”がわかりますよね。そのギャップを埋める方法を考えて、いけそうだったら、なるべく日本に早く持ってくる。すぐやらないと他の人にとられてしまいますからね。

新しいプラットフォームが出たときに、どういうものが使われたのか、市場の流れを調べることも有効です。例えばモバイル市場では、iモードが最初に出たサービスなので、それが市場に出回った流れを研究すると、スマートフォンでこれから何が流行るのかが予想できます。

あとは周期を調べます。どの業界にも、甘い物の次には辛い物がくるというような“ヒットの周期”がある。そこからも仮説は立てられます。

もちろん、自分の直感や他人の感想もヒントになります。ただ、そのまま使うことはしません。直感は大事ですが、それだけだと失敗する確率が高いので、直感をロジカルに分析し、もれがないようにする。これが重要なんです。

例えば「豚骨ラーメンが好き」という人が数多くいたとします。理由を聞くと大抵「おいしいから」と言う。それで終わらずに、豚骨ラーメンの“要素”を考えていきます。こくがある、麺が細いなど、いろんな要素がありますよね。その理由、つまり「なぜ細い麺がいいのか」といったことを一つずつ深掘りしていくんです。すると時代のトレンドが見えてきます。

本、ネット、雑誌からも情報は拾います。でも、本には本当のことが書かれていないことが多いから(笑)、人の行動を見るほうがいい。行動は嘘をつきませんからね。例えば仕事を頼んだ後、その人が席に戻って、何をするのかじっと観察します。すぐに動かなかったら、仕事に興味がないとわかる。

ほとんどの場合、人は本能で行動しているんです。そこに本質があります。特に「無意識のとき、何に時間を使っているか」。そのときの行動に本当のニーズがあるんですよ。

こんなふうに仮説をできる限り立てたら、後は確率の高いものから実行していくだけ。迷ったら、子どもや若い女性など、直感力のありそうな人に「これ、どう思う?」と聞いてみるといい。誰も乗ってこないようなら、順位を下げる。間違ってもおじさんに聞いてはダメですよ。肩書があって捨てられないものが多い人は、既成概念にとらわれがちで、直感力も鈍い。LINEのときも、おじさんから「やめとけ」って、さんざん言われましたから(笑)。

■命運を分けるのは、やるかやらないか

研究し仮説を立て、検証する。これはやろうと思えば誰でもできること。なのに成功する人としない人がいるのは「やるかやらないか」の違いです。

これだけの変化の時代ですから、先が見えなくて誰もが不安になる。だからといって、じっとしていてもいいことは何一つない。不安を解決するためには行動するしかないんです。

今は、砂漠にいるようなものです。生き残る方法を100通り考えたけれど、確率が高いものでも10%しかない。だけど何もせずに死んでしまうより、10%にかけて行動したほうが、ずっとましです。

大事なのは、可能性をできる限り挙げてみること。そして確率の高いものから試すことなんです。ビジネスの場合は、そこに競争が加わりますから、できるだけ早くやったほうがいい。悩んでいる時間があるなら、全部試すことに時間を使ったほうがいいんです。

成功には時間がかかりますが、失敗はすぐにわかる。市場に出してみて、全く反応がなかったら、まず失敗ですからね。だから、ちょっとやってみて、失敗だと思ったら、すぐ次に行けばいい。言い出しっぺは認めるのに勇気がいりますから、第三者に見極めを任すというのも手です。こだわりがないので、あっさり失敗の烙印を押せます(笑)。

■すぐ撤退できるよう、費用と時間はかけない

一つの事業を始めるとき、費用と時間をかけすぎないのもコツです。昨年「C CHANNEL」というスマートフォンに特化した女性向け動画配信事業を立ち上げましたが、思いついたのは1年半前です。そこから人とお金を集めて、3カ月でサービス化しました。それくらいのスピードがないと変化の早い時代にビジネスをやるのは難しいと思っています。

日本人は始めるのもやめるのも遅い。そのことが足を引っ張っている場合が多いんです。明らかにもうダメだと思っているものを何とかしようとするのは、みんなにとって不幸です。

今、必要なのは、“無責任力”。笑って「失敗しました!」と言えるような力です。そもそも10回に1回ぐらいしか成功しないのですから、失敗なんて気にしなくていい。むしろ失敗しても立ち止まらず、成功するまで試行錯誤を続けるのが、本当の意味で「責任を取る」ということじゃないかと思いますよ。

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C Channel社長 森川 亮(もりかわ・あきら)
1967年、神奈川県生まれ。89年、筑波大学卒業後、日本テレビ放送網に入社。コンピュータシステム部門に配属され、ネット広告、映像配信、モバイルなどの新規事業立ち上げに携わる。MBAを取得後、2000年にソニー入社。03年にハンゲーム・ジャパン(現LINE)入社。07年、同社代表取締役社長に就任。15年3月、同社代表取締役社長を退任し、顧問に就任。同年4月より動画メディアを運営するC Channel代表取締役社長。

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(高嶋ちほ子=構成 和田佳久=撮影)