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早稲田大学(早大)は3月7日、光とナノ粒子で筋肉をワイヤレスに活性化する新しい手法を開発したと発表した。

同成果は、早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所 鈴木団主任研究員、新井敏次席研究員、Hou Yanyan研究補助員、イタリア技術研究所、シンガポール国立大学らの研究グループによるもので、1月20日付けの米国科学誌「ACS Nano」オンライン版に掲載された。

筋肉の細胞を刺激したり、筋肉の収縮を誘導したりするための方法がこれまでに開発されてきているが、その多くは電気刺激によるものであった。しかし電気刺激を用いる手法では、細胞外溶液に設置された電極の周囲に生じる電場が不均一になる、電極での電気分解で細胞毒性が起きるなどといった課題がある。一方、同研究グループは過去の研究で、光学顕微鏡下で水に良く吸収されるレーザー光を集光して局所的な温度勾配を形成することで、心筋細胞を熱で収縮させられることを示していた。

今回の研究では、シリカ(SiO2)の核が10nmほどの薄い金で包まれた平均直径約120nmの金ナノシェルとよばれる粒子に着目。同粒子では、約800nmの近赤外光をプラズモン効果によって高い効率で吸収し、光のエネルギーを熱へ変換することができる。この波長の近赤外光は、生体試料の主成分である水への吸収が少なく生体の奥にも届くため、金ナノシェルのある場所だけを加熱することができると考えられる。

そこで、同研究グループは、多核細胞である筋管に金ナノシェルを取り込ませ、温度イメージングを行いながら同細胞の応答を観察した。この結果、光をあてた金ナノシェルから生じた熱で細胞内の温度が上がり、同時に筋管が収縮することがわかった。また、生理的な収縮あるいは電気刺激による収縮では必須となる細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が起こらない新しい収縮過程であることが示唆された。これは、近赤外光を受けた金ナノシェルが熱を発生させ、細胞内の温度が上昇し、それが収縮するタンパク質のスイッチをONにして、筋管の収縮を引き起こした結果であると考えられる。

さらに、金ナノシェルを取り込んだC2C12という培養細胞を筋管へ分化させながら5日間にわたる断続的な近赤外光刺激を与えたところ、熱の負荷に対する耐性を向上させる遺伝子とミトコンドリア産生に関わる遺伝子の発現量が顕著に増加していることがわかった。この結果は、骨格筋の分化成熟過程にとって、ゆるやかな熱刺激が有効であることを示唆するものであるという。

同研究グループは、今回の成果について、多くの細胞を同時に刺激することが求められる組織工学、再生医療や生体工学分野の実験系への広い応用が期待されると説明している。

(周藤瞳美)