2月1日に「日仏テニス協力覚書」が締結された。日本テニス協会(以下JTA)が、フランステニス連盟(以下FFT)のような外国のテニス中央競技団体と合意文書を結ぶのは初めてのことで、日本テニス界は新しい一歩を踏み出した。

 有効期間は2019年8月までで、具体的な協力事業として、ローランギャロス ワイルドカード(以下WC)選手権の予選を日本で開催。また、FFTトレーニングセンターでの日仏ジュニア選手の合同トレーニング、さらに日本ナショナルチーム選手のFFT施設の使用に関する協力が盛り込まれた。

 協力事業の皮切りとして、「全仏オープン・ジュニア2017 WC選手権大会 in partnership with LONGINES 日本予選」が、2月28日(火)から3月3日(金)にかけて神奈川・横浜カントリー&アスレティッククラブで開催された。


全仏ジュニアWC選手権への出場を決めた白石光(右から2番目)とローランギャロス日本親善大使の滝川クリステルさん(右端) 日本で2度目の開催となる今年も、JTAが選考したジュニア選手男女各8名が予選に出場。男子は、白石光(東京・有明ジュニアテニスアカデミー)が、女子は、永田杏里(愛知・南山高等学校女子部)がそれぞれ優勝して、5月にパリで開催されるWC選手権への出場権を獲得した。ともに16歳の2人は、そこで優勝となれば、WC(大会推薦枠)獲得によって、ローランギャロス・ジュニアの部のメインドローに名を連ねることができる。

 FFTは、WCを与えることを契機にして、レッドクレー(赤土)コートで、世界中の多くのジュニア選手がより多くプレーをできるようにしたいと目標を掲げている。この予選会は2014年の中国を皮切りに、昨年までに合計5ヵ国で開催され、今年は新たにアメリカでも行なわれる。

 さらにFFTには、レッドクレーでのテニスの面白さを伝えるだけでなく、まだまだ日本で少ないレッドクレーのコートサーフェスをもっと普及させたいという狙いがある。

「レッドクレーは、フランスにとってスポーツDNAの一部です。ここ数年で、日本におけるレッドクレーの普及に貢献したい」

 このようにFFTのジャン・ガシャサン元会長(2月18日に会長を交代)は語り、さらにレッドクレーと人工素材を融合させた新開発の”Gクレー”という次世代サーフェスも浸透させたいという別の思惑もある。

 レッドクレーでのテニスでは、表面のレンガの粉によって球足が遅くなり、試合時間が長くなるため心技体すべてが問われる。ヨーロッパや南米と違って、日本では馴染みの薄いサーフェスのため、レッドクレーを苦手にしている日本選手は多く、例えば伊達公子のレッドクレー嫌いは有名な話だ。

 だが、ローランギャロスに限らず、ワールドテニスツアーでは、レッドクレーの大会が多く開催されているという状況を踏まえると、日本選手がFFTの施設を利用してレッドクレーで練習する機会が増えるのは有益で、エントリーする大会の選択肢を増やすことができる。

 2月に、東京で開催された男子テニス国別対抗戦デビスカップ・ワールドグループ1回戦「日本vsフランス」で、日本はエースの錦織圭抜きで戦い、惨敗した。この敗戦を受け、すでに27歳の錦織に続く若手選手、いわゆる”ポスト錦織”の育成は、日本テニス界において急務であることが明白となった。

 現在、世界のトップ100にフランス男子選手は12人(3月6日付け世界ランキング)もおり、日本の2人と比べると、フランスの選手層の厚さは世界屈指であることがわかる。

 日本がフランスのように、選手層を厚くするにはどうしたらいいかという問いに、フランス代表のヤニック・ノア監督は、「フランスに来るべきです」とユーモアを交えて前置きしながら、「フランスには、約200万人の選手がいますが、若い選手を育成する仕組みがある」と答える。

 ノア監督によれば、FFTは、ローランギャロス(全仏オープン)開催による興行収入によって財源が豊かだが、その資金をローランギャロス会場の発展に使うよりも、まず、フランス各地のテニスクラブに還元し、地元テニス選手の強化費に回しているのだという。各地方のテニスが強くなることによって、裾野が広がると同時にレベルの底上げになる。これは、1980〜90年代に活動したフィリップ・シャトリエ元FFT会長(故人)の手腕によるところで、彼がフランステニス界に残した功績は大きい。

 彼は中心地だけの強化システムではなくて、フランス全土のテニスシステムの確立が、必ず強化につながると力説した。今では、地方のトレーニングセンターで有望なジュニア選手が見つかれば、ポワチエ(フランス西部にある都市)にあるジュニアのナショナルトレーニングセンターに呼んで練習をさせている。


 また、日本にとってはツアーレベルで通用する日本人コーチを養成することも急務だ。現在、ごく少数の日本人コーチが、日本人選手の海外転戦に帯同しているものの、現状としては、トップ100の外国人選手から日本人コーチに帯同してほしいというリクエストもなければ、実績もない。日本人コーチの窮状は、厳しい現実を突きつけている。

「テニスに限らず、日本スポーツ界の指導者としてのチャレンジが、まだ足りないと強く感じている」と指摘するのはデビスカップ日本代表の植田実監督だ。

「コーチは本で育つものではなく、選手によって育っていくもの。選手と一緒にその場に行くことが何よりも重要で、そこに行ける回数がフランスチームに比べると、まだまだ少ないかもしれない。日本人コーチの資質が劣っているとは、これっぽっちも思っていない。ただ、これから先はコーチの養成に大きなポイントを置かなければならないと実感している。選手と同じで、毎日の地道な積み上げしかない。簡単に外国人コーチを雇えばいいという問題ではない」

 ワールドテニスの潮流は速く、テニスでの10年はひと昔どころではなく、ひとりの選手生命が終わってしまうほど、かけがえのない時間だ。プロ10年目の錦織の活躍に一喜一憂してばかりいられない日本テニスの現実と未来を、どれだけの人が認識しているだろうか。

 今回の日仏テニス協力関係の始まりをきっかけにして、ワールドレベルで活躍できる日本の選手やコーチが、今後少しでも増えることを願わずにはいられない。

■テニス 記事一覧>>