「つくづく『この人は持ってるな』と思い知らされた」

 第10回全農日本ミックスダブルスカーリング選手権(3月1日〜5日・北海道北見市)で優勝した『チーム阿部』の阿部晋也は、大会をそう振り返って控え目に笑った。パートナーの小笠原歩を評してのコメントだが、おそらく技術、勝負強さ、強心臓、スター性など、彼女のすべてを称えてのことだろう。

 小笠原は大会を通して、ミックスダブルスのベースとなるカムアラウンド(ガードストーンの後ろに回り込むショット)、フリーズ(ハウス内のストーンにぴったりとくっつけるショット)といったショットを次々と決めていった。もちろんミスがなかったわけではないが、「いちばん大事なドローは絶対に外さないから、しっかりエンドセーブできる」と、指導者としても、選手としても経験豊富な阿部に、そう言わしめるだけの勝負強さを見せた。


日本ミックスダブルスカーリング選手権を制した阿部&小笠原ペア ただ、決勝の相手となった『チーム青木』(青木豪&藤井美香ペア)には、その前に一度敗れている。予選リーグの最終戦、高校生カーラーの青木に、得意の速いテイクから4点を奪うヒットロール(相手のストーンを弾いて、自身が投げたストーンも狙った位置に運ぶショット)を2度も決められ、全勝対決で完敗。阿部&小笠原ペアはリーグ2位で決勝トーナメントに進むことになる。

 その結果を受けて、青木は「即席で組んで勝てる競技ではない」と、大会直前にJCA(日本カーリング協会)による推薦出場が決まった強化委員会推薦ペアをけん制した。しかし、青木よりも20歳年上のベテランペアは、「(敗北は)まったく気にしていない」(阿部)「(ストーンを)置きたいところに置けば、結果はついてくる。それだけ」(小笠原)と、自分たちのパフォーマンスを上げることだけに専念。すぐに気持ちを切り替えて、先を見据えていた。

 そして実際、阿部&小笠原ペアは、最終日に圧巻のプレーを披露。まずは準決勝で、同じく強化委員会推薦ペアの『チーム松村』(松村雄太&吉村紗也香ペア)を、終始高いパフォーマンスを発揮して退けた。

 その勢いのまま、再戦となった青木&藤井ペアとの決勝でも、序盤から小笠原、阿部がともに好ショットを連発。「予選で(青木に)いいテイクを決められていたので、『難しいドローを強いるような形にしよう』と(小笠原と)話をしていて、それがうまくいったと思う」と阿部。してやったりのハウスマネジメントで、青木&藤井ペアを追い詰めた。

 特に第2エンド、第3エンドとラストロック(後攻のチームが最後に投げるストーン)を持った青木には、いわゆる「投げさせられるショット」しか残されていなかった。その結果、青木のウェイトも決して悪くなかったものの、ドローを決め切れずに序盤からスティール(先攻のチームが得点を奪うこと)で失点を重ね、実績と経験で勝るベテランペアに屈した。

「プレッシャーのかかる舞台での経験は、私たちのほうがある」

 小笠原のその言葉が、すべてを物語っているのではないだろうか。日本選手権のような注目度の高い中での戦い方や、長丁場でのピーキングについては、阿部&小笠原ペアのほうが明らかに長けていた。

 慣れないミックスダブルスの戦術や、刻一刻と変化するアイスにも、予選リーグ、準決勝と8試合をこなす中でアジャストし、決勝にきっちり照準を合わせてきた。同時に、一度敗れた相手に対しても有効な対策を練って、それを実践して頂点に立った。

 まさに阿部&小笠原ペアの、経験や技術、思考力といった総合力、”カーリングIQ”とも呼べる能力を改めて示した優勝と言えるだろう。

 阿部&小笠原ペアは今後、『チームJAPAN』として4月22日からカナダ・レスブリッジで開催される世界選手権に挑む。

 大会には、39カ国が出場。まずはベスト16入りを決める、8チーム、あるいは7チームによる予選リーグ突破(グループ3位以内)が必須となるが、日本の入ったグループAはそれほど難しい組み合わせではない。フィンランド、ハンガリーなどの中堅国はいるものの、比較的戦いやすい相手が多いのではないだろうか。

 それでも、平昌五輪出場枠を獲得するには、最低でもベスト4以上の結果が求められる。早速、JCA強化部は札幌での強化合宿の日程を組んだ。そこで、阿部&小笠原ペアはナショナルコーチのリンド・ジェームスとともに、ミックスダブルスの戦術をさらに深め、研究していく。

「(ミックスダブルスの世界選手権に挑むには)時間も、経験もまだまだ足りない。正直、(五輪出場枠を得るのは)簡単ではないし、若干のプレッシャーを感じている。でも、それぐらいの(感覚の)ほうがいいかもしれない。世界選手権では、ベストを尽くします」(阿部)

「夢を追えるチャンスがあるのは幸せなこと。(五輪出場の)チャンスがある限り、挑み続けます」(小笠原)

 新種目で夢の舞台へ。日本屈指の経験と技術に加えて、大きな夢を抱いたふたりの新たな挑戦が始まる。

■冬季競技 記事一覧>>