借金まみれのスペインリーグはいかにしてよみがえったか〜ハビエル・テバス氏

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Jリーグの全試合を配信するにあたり、DAZNが2100億円もの放映権料を払ったことが話題になっている。プロサッカーリーグを運営するにあたり、放映権料ビジネスにどう取り組むかは非常に大事、と話すのは、スペインのプロサッカーリーグ会長のハビエル・テバス氏。財政破綻寸前のクラブもあり、リーグ全体も赤字だったという危機的状況をわずか2年で立て直し、黒字にした人物だ。

海外で超一流サッカー選手が移籍するとなれば、100億円以上の移籍金が動くこともある。移籍金を支払うのはもちろん、移籍先のクラブだ。どうやってそんな大金を稼ぐのかというと、試合の入場料や、放映権料が主な収入源となっていることが多い。

ちょうど日本では2017年シーズンから、Jリーグ全試合放送が、スカパー!によるテレビ中継から、DAZN(ダ・ゾーン https://www.dazn.com/)の独占生配信に変更になった。DAZNを提供する英Perform GroupがJリーグに支払った放映権料は、10年間で2100億円。これまでJリーグがスカパー!などと契約していた放映権の4倍以上と言われている。放映権料が増えるにつれて、リーグやクラブ経営にとって、放映権ビジネスにどう取り組むかは非常に大きなテーマになっていく。

FCバルセロナやレアル・マドリードといった名門クラブが所属するスペインのプロサッカーリーグ「ラ・リーガ」(リーガ・エスパニョーラ http://www.laliga.es/)は、2010年代初頭、財政破綻目前という状況にあった。国に借金をし、巨額の赤字を垂れ流し、選手への給与を滞納し、八百長問題に揺れていたラ・リーガを立て直したのが、2013年に会長に就任したハビエル・テバス氏だ。ラ・リーガの財政再建にあたって大きなポイントとなったのが、放映権ビジネスをどう展開するかだったという。

テバス会長の経験は、日本から見ても参考になる部分が多い。試合がネット配信されることで、リーグはどう変わるのか。テバス会長はどのようにラ・リーガを立て直したのか? テバス会長へのインタビューをお送りする。

■FIFAワールドカップ参加国増加には反対

――ヨーロッパでも日本でも、クラブが健全に運営できるためには、すべての選手がサッカーに”健やか”に集中できることが必要だと考えます。2022年以降ワールドカップ参加国が32カ国から48カ国に増えるとの報道がありますが、スペインほか、各リーグへどのような影響があると考えていますか?

※注:インタビュー後にFIFAから正式に決定が発表された

【ハビエル・テバス氏(以下、テバス)】決定には大変不満です。まずその決め方に異議があります。ワールドカップに出場する選手の75%はヨーロッパの大きなリーグの選手のため、FIFAのこのような決定は、選手たちそして各リーグに大きく影響します。そのため、各リーグが意見を述べる機会が必須だと思います。スポーツやビジネスの政策方針や放送権に関する案件を決定する機関のひとつでしかないFIFAが、各リーグとのコンセンサスなしで決めていい問題ではありません。

我々ラ・リーガはこの決定について、EUの「競争総局」(Directorate-General for Competition)や、スイスの管轄機関などに訴えようと考えています。参加国増加は試合数増加も含め、世界中のプロサッカー業界に悪影響を及ぼします。ラ・リーガはもちろん反対していますが、この状況をじっくり検討する必要があります。この決定が実行に移されるまでにはまだ時間はありますが、私たちはできるだけ早く対応するつもりです。

■DAZNのネット配信開始で、Jリーグはどうなる?

――日本のサッカーについて聞かせてください。クラブ・ワールドカップの複数回の開催、2002年の日韓ワールドカップの実施という実績はありますが、日本のホスト力についてどう見ていますか。

【テバス】サッカーのみならず、日本という国はスポーツ産業が盛んです。私自身が見た限りでは非常にうまくいっていると思います。今後はラグビーのワールドカップ、2020年のオリンピックとイベントが続きます。こうした組織だった部分は非常に上手いという印象です。

――イギリスのPerformグループが、10年2100億円という巨額を支払って、Jリーグの放映権を取得しました。これにより、ネット中継、テレビ放映などメディア側には、どのような変化があると思われますか?

【テバス】(ネットの)ストリーミング(配信)が中心という形ではあるかもしれませんが、それ以外のところの戦略を進めていくと思われます。PayTV(有料放送)を始め、恩恵はさまざまなメディアにおいて出てくるのでは。OTT※という形もあるでしょう。テレビやストリーミングだけでなく、全体的な形、あらゆる媒体で普及していくのではないかと思います。

※OTT……Over The Topの略。HuluやNetFlixのように、通信企業ではないが動画コンテンツをユーザーに提供する企業を指す。

――なるほど、放映スタイルが従来のテレビ放送に限らずいろんな形で広がっていくということですね。先程述べた巨額の放映権料は、Jリーグ全体の収入となります。放映権収入が増えることでJリーグはどのようにそれを使うべきなのか。そしてクラブはどのような経営を行っていくべきでしょうか。

【テバス】スタジアムでサッカーの試合を開催するだけでなく、それ以外でも経済効果を見出していく必要があります。また持続的な形を進めていかなければなりません。たとえばクラブは選手の育成などさまざまなことを行う必要があります。支出では税金対策もそうです。クラブが健全な財政を保てる状況にする。これは日本のリーグも同じだと思います。このようにクラブの競争力や持続性を保つことは、リーグの方で進めていかなければならないことです。特に経営面において、(クラブが)赤字や債務超過を続けないということを、Jリーグ側でマネジメント、コントロールするのは基本的なことだと思います。

■海外、特にアジアに目を向ける

――ラ・リーガについていくつかお聞きします。会長がラ・リーガの財政的状況を大幅に改善したのはよく知られるところですが、そもそも着任時にどのような問題があったのでしょうか。

【テバス】2013年に会長に就任した時、スペイン自体が厳しい経済危機にありました。その中でいくつかのサッカークラブは多くの借金を抱え、税金の支払いが遅れたり、選手に支払いができなかったりしていました。一方、放映権収入は各クラブが(ラ・リーガに)交渉する仕組みになっていたため、利益はバルセロナやレアル・マドリードの2クラブに特に集中してしまっており、他のクラブの収益は少なく、うまく分配されていませんでした。

――その上で2つ質問があります。1つ目はラ・リーガにおいても八百長というキーワードが賑わせたこともありました。これについてどう対処したのかを教えてください。2つ目は、ラ・リーガの放映権収入の問題、クラブ経営の改善に対して、会長はどのような手を打ったのでしょうか?

【テバス】2つ目からお話ししましょう。社内に問題を抱えた多くのスペイン企業が行ったのと、同じことを私はしました。つまり、海外へと目を向けたのです。ラ・リーガの試合コンテンツは、海外へ輸出できる大きな力を持っています。スペイン国内に限らず、市場を世界にすることで改善すると考えたのです。しかし、アジアや他の地域の視聴者に楽しんでもらうためには、試合の時間帯を変更する必要がありました。スペインではなぜか、誰もそこに手をつけたがりませんでした。なぜなら、スペインには昔ながらのサッカーの試合時間があり、それを変えることはタブーだと考えられていたのです。しかし、これについても最終的には柔軟に対応し、土曜日13時キックオフ、16時キックオフ(日本時間21時、24時に相当)など時間を変えることで、アジアのファンも観戦しやすい時間にすることができました。試合の八百長については、もし私たちがそれを根絶できなければ、観客にラ・リーガの試合が質の高いものだと信じてもらえない、と説きました。

最終的にはスペイン政府に働きかけ、各クラブに対して、放送収入をラ・リーガに一度まとめて収めることを義務付ける法律を作ってもらいました。その収益を皆で分けることで、バルセロナ、レアル・マドリード以外のチームにも収入がきちんと入るようになり、全クラブの経営が改善できたのです。それによりグラウンドの改善や、各クラブの下部組織や、女子サッカーへ投資するお金もできたのです。

■プレミアリーグを超えるのが目標

――なるほど、テバス氏が2013年に会長に就任されて3年ですが、こうした改革によってラ・リーガは大きく変わったわけですね。これから直近数年での展望はいかがでしょう?

【テバス】状況は大きく変わりました。先程申し上げたように、試合開始時間が午後1時になるなど、スペイン人にとってはなじみのない時間にキックオフするケースもできました。スタジアムで観戦する観客の人数は以前と変化ありませんが、テレビでの視聴率も高まり、収入も増えました。最初の数年で、放送権の収入が6億ユーロから10億ユーロに増加しました。

しかし、ラ・リーガには世界トップクラスの選手やクラブがあるものの、財政面ではまだ、(イギリスの)プレミアリーグに負けています。私の目標は、2020年までにラ・リーガの収入を20億ユーロに増やし、アジアでの視聴者数を現在の2億人から4億人に増やすことです。その目標に向けて日々尽力しています。

――なるほど。とはいえ、放映権収入が大きくなることのデメリットやリスクもあるのでは?

【テバス】あまりに大きくなりすぎると危険性があるかもしれませんが、成長率を測るという点では、収入を伸ばしていくことが大事です。現在の成長率なら大丈夫かと思います。スペインリーグは大変な収入が見込まれるリーグです。他のリーグとの競争力を考えても、今は問題は顕在化していないと思います。

――プレジデントオンラインは、日本の社長や管理職が多く読む媒体です。最後に経営に悩む方々へ、規模に関係なくできることについて、アドバイスやメッセージをお願いします。

【テバス】「国際化」というところが大きなキーになると思います。成長しつつ競争に打ち勝つには、国際化に合わせる必要があります。たとえばデジタル化に対応するなどですね。デジタルとは、Webやソーシャルネットワークだけではありません。AIなども利用して改善を行い、国際化を図っていくことが重要だと思います。

(文=金子 雄太郎)