見やすいエクセル&ショートカットキー18

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評価されるのは見やすく説得力のあるエクセル。誰もが瞬時に理解できる表作成の手順と、時短を加速させるショートカットキーとはどんなものか。『外資系投資銀行のエクセル仕事術』の著書がある熊野整氏に聞いた――。

■「格好よさ」より「見やすさ」

かつて私がモルガン・スタンレー証券の投資銀行部門で働いていた5年間を振り返ると、エクセルを使って収益計算ばかりしていたように思います。数字をひとつ間違えれば大きな損失を招く可能性があるわけで、完璧なエクセル計算は、社員に求められる重要なスキルでした。

作業をこなす中で気づいたのは、「見やすさ」がいかに大事かということです。プレゼンを想定して「格好よさ」に走ってしまうビジネスマンも少なからずいます。しかし、見にくいエクセルは、伝えたいポイントを把握するのに時間がかかり、ストレスがたまり……と悪いことだらけ。そうしたエクセルを作っている人は、計算ミスを繰り返し、数的思考能力が上がらないままです。

投資銀行で評価されるのは見やすく説得力のあるエクセルで、「見やすさ」を重視したフォーマットのルールが定められています。スーツに気を使うように、資料も見映えのよさが肝心。誰もが瞬時に理解できる表を作成し、顧客や仲間からの信頼を獲得しましょう。

■【数字、文字をきれいに見せたい】

[1]数字はArial、文字はMS Pゴシック
エクセルの標準フォント「MS Pゴシック」は、半角英数字のキメが粗いため、文字の線の太さが均一で数字のキメが細かい「Arial」に設定。表中のフォントサイズは統一すること。

[2]数字は右揃えで桁を合わせよう
文字は左から読むが、数字は右から1、10、100……と桁数を数えて読むもの。そこで右を起点に揃えれば数えやすく、一目見ただけで大体のボリュームも認識できる。

[3]罫線はグレーで横に点線を引こう
表を見やすくする秘訣は、線をなるべく減らすこと。文字を左に、数字を右に揃えれば、縦に線を入れる必要がなくなる。横線はグレーで点線にし、上下だけ太めにすると、メリハリがつく。

[4]行の高さは18に揃えよう
初期設定の行の高さ(縦幅)「13.5」のまま作った表は、行間に余裕がなく、見ていてストレスに。「18」に変えて上下にゆとりを作るだけで、洗練された印象を与える。

[5]単位はセルを独立させ1列に揃えよう
「売上(円)」「客数(人)」など、単位が統一されていない表は、見づらい。必ず専用の単位列を作る。項目も内訳を横幅1つだけ右にずらすことで、計算の流れが一気にわかりやすくなる。

[6]表の背景色は要所だけ薄く入れよう
濃い色の背景は、表の主役である数字が目立たなくなってしまうので、カラーパレットの一番上の列にある薄い色を選択。青系、オレンジ系の2種類ほどに絞るとなおよい。

[7]ベタ打ちは青、計算式は黒の数字に
計算結果が表示されるセルの中に、ベタ打ち(直接入力)の数字が入るのは、混乱のもと。その2つの数字は色分けを。どれが変更可能な数字か、すぐわかる効果もある。

■【複雑な表をスッキリさせたい】

[8]比較資料は、商品名を横軸に
表の作成で悩むのが、どの項目を縦軸と横軸に入れるか。横に長い表は、どこまでも続いていきそうで締まらない印象だ。縦長で横幅が短いほうがまとまって見える効果があるので、基本は「項目が多いほうを縦軸・少ないほうを横軸」。通常の比較資料は、縦軸に比較項目、横軸に商品を置くといい。

プレゼン資料はA4(縦1:横1.4)に代表されるように基本的にやや横長。縦横比は、縦2:横3ぐらいが理想と覚えておこう。

[9]集計データは、項目を縦軸に
項目が縦・横にちらばっている表は一見してわかりにくいうえ、入力し忘れるリスクも高い。そこで印刷したりパワーポイントに貼り付けたりする必要がない集計データは、項目を縦1列に並べて、入力・集計しやすさを優先。SUM関数を使えば数値の合計も縦にまとめて計算できる。

項目を縦1列に並べれば、比較したい対象(この表の場合、別店舗の集計結果)を隣の列に置くことができ、違いがわかりやすくなる。

[10]財務表は、年月を横軸に
財務諸表は、縦軸に売り上げなどの項目を、横軸に年月を記載することが一般的。左表を見て、違和感を抱く人はいないはず。世間に受け入れられているフォーマットは、捻りをくわえることなく、オーソドックスに使用するのがベストである。

横に時系列で並んでいるため、数字の増減がイメージしやすい。このまま折れ線グラフに変換してもわかりやすく伝わる。

■【大きな表を1枚に印刷したい】

[11]####を数字に戻そう
横幅に収まらない長い数値を入力してしまうと、「####」とエラー表示されてしまう。横幅を直せば正しく表示できる。日付や時刻のセルに負の数値を入れても「♯」になるので、正の値を入れ直そう。

「#」表示された列番号の見出し右端(赤丸印、ここではDとEの境界線)をダブルクリック。すべての表示が見えるように自動調整される。

[12]表をコンパクトにしよう
全く余白のない表は見ていて息苦しいが、全体のスペースが限られているのであれば、空白は詰めておきたい。空白(赤丸印)の原因を作っている項目の行を変えて配置すると、横幅が詰まるので効果的だ。

行を分けたことで、背景色を変えて項目を強調できるメリットも。どこか詰められる余白がないか、目を配る習慣をつけよう。

[13]長い文章をセル内に収めよう
セル内の文字情報が長く、いびつに見えるときは、改行してまとめたい。セルを選び、右クリックして「セルの書式設定」を表示。そこで「配置」タブにある「折り返して全体を表示する」にチェックを入れればOK。

改行したことで、隣のセルの文字(この場合「役職」)が中間に位置してしまう際は「セルの書式設定」→「縦位置」→「上詰め」を選択するとスッキリ。

[14]1枚に印刷する設定にしよう
1ページにする予定が、印刷すると2ページに……。長い表をA4用紙に収めるとき、よく起きるトラブルだ。以下の方法で対処できるが、大きめの表を自動収縮すると見にくかったり、PC画面と印刷物で表示が異なることがある。一度試しにプリントアウトして、読めるかどうか確認を。

「ページレイアウト」タブから印刷範囲を指定し「ページ設定」→「次のページ数に合わせて印刷」をクリック。横縦の数を「1」に。

■【月別・商品別に同じ表をアレンジしたい】

[15]数字だけコピペしよう
ある表からフォーマットの異なる別表に数字をコピーする場合、普通に貼り付けると、罫線などのフォーマットが一緒にコピーされて、その部分だけが別物のように浮いて見えてしまう。表の統一感を保つには、フォーマットを崩さず、数字だけコピーすればよい。

まずは対象のセルを選択してコピー(1)。貼り付けるセル(2)を選んだら、そのままペーストせずに、「ホーム」→「貼り付け」→「形式を選択して貼り付け」をクリックしていく。下の画面が出てきたら、「値」(3)をチェックする。

【完成】意図した通りに数字だけがコピーされ、完成。目ざわりな縦線がないので、資料に集中することができる。

[16]フォーマットだけコピペしよう
新しい表を作成した後、古い表の「フォーマットに変えたい」と思うことがある。しかしそのままコピーして貼り付けると、当然ながら数値も置き換わってしまう。エクセルはフォーマットのみをコピーすることも可能なので、その機能を利用しよう。

フォーマットを使いたい表をコピー(1)し、次に貼り付ける表(2)を選択。「ホーム」→「貼り付け」→「形式を選択して貼り付け」を選んで、「書式」(3)にチェックを。このやり方を身につければ、同じ形の表を複数作成できる。

【完成】一新された表。数値はそのままで、縦線が消え、数字が右揃えに。優れたフォーマットが新しくできたら、古いものを更新していける。

[17]数式だけコピペしよう
計算式をほかの箇所で使いたい場合、そのまま計算結果を表示するセルをコピーして貼り付けると、背景色や罫線など、フォーマットまでコピーされてしまうので注意。エクセルでコピペを使う機会は多く、これらの技術を覚えると作業スピードは一気に速まる。

計算結果を表示するセル(1)をコピー。貼り付けたいセル(2)を選択した後、上記同様のやり方で「形式を選択して貼り付け」に。そこで「数式」(3)を選択すれば、フォーマットはそのままに、計算式がコピーできる。

【完成】背景色などはコピーされず、計算式だけがコピーされた表。数字を見ると、正しく計算されていることが確認できる。

[18]表の縦横を入れ替えよう
表を作成した後、やっぱり縦軸と横軸を入れ替えたほうが見やすいと思うこともあるだろう。だが、一から作り直すのは相当な手間だ。その際、縦と横を入れ替えた表を新しく作るのではなく、コピーしてほかの箇所に貼り付ける表の設定を変更しよう。これで簡単に縦と横が入れ替わる。

縦軸と横軸を変えたい表(1)をコピーし、貼り付けたい箇所(2)を選択。「形式を選択して貼り付け」から「値」(3)を選び、さらに「行列を入れ替える」(4)にチェックを入れる。

【完成】時系列が縦軸の表よりも横軸の表のほうが見やすくなる。

[19]横長の表を縦長にスッキリさせよう
スキル10の「CHECK!」でふれたように、日次などは縦に並んでいたほうが見やすいもの。しかし横に数字を並べたからといって、いちいち1つずつコピーして縦に並べる必要はない。スキル18の「行列入れ替え」を応用すれば、見やすい縦長の表がすぐにできあがる。

日付と数字をすべて(1)コピーし、貼り付けたい箇所(2)を選択。「形式を選択して貼り付け」から、「貼り付け」は「すべて」(3)のままで、「行列を入れ替える」(4)にチェックを入れる。

【完成】完成した表。なおこの章で多用した「形式を選択して貼り付け」は、ショートカットもある。[Alt]→[H]→[V]→[S]の順番でキーを押すと、画面が現れるので利用したい。

■これだけ覚えて!「ショートカットキー」18選

▼Altキーを活用
●背景色を変更――【Alt】【H】【H】
●文字の色を変更――【Alt】【H】【F】【C】
●フォントを変更――【Alt】【H】【F】【F】
●右揃え――【Alt】【H】【A】【R】
●左揃え――【Alt】【H】【A】【L】
●名前を付けて保存――【Alt】【F】【A】
●印刷範囲を指定――【Alt】【P】【R】【S】
●印刷ページの設定――【Alt】【P】【S】【P】
●すべてのエクセルファイルを閉じる――【Alt】【F】【X】

▼Ctrlキーを活用
●書式設定――【Ctrl】+【1】
●行・列を挿入――【Ctrl】+【+】
●上書き保存――【Ctrl】+【S】
●印刷する――【Ctrl】+【P】
●1つのエクセルファイルを閉じる――【Ctrl】+【W】
●文字から文字へ一気に移動――【Ctrl】+【矢印】
●データの端まで選択――【Ctrl】+【Shift】+【矢印】
●他シートへ移動――【Ctrl】+【PageDown】
●参照元のセルへ移動――【Ctrl】+【[ 】

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熊野 整
モルガン・スタンレーの投資銀行部門で、顧客企業のM&A、資金調達案件に携わる。現在は、スマートニュースにて財務企画担当。全国でエクセルセミナーや企業研修を行う。著書に『外資系投資銀行のエクセル仕事術』。

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(熊野 整 文=鈴木 工 撮影=竹井俊晴 写真=平地 勲)