金正恩党委員長の異母兄・金正男(キム・ジョンナム)氏殺害事件の捜査を巡り関係が悪化していた北朝鮮とマレーシアが、互いに自国内にいる相手国民の出国禁止措置を取り、緊張が高まっている。

収容所と公開処刑

スパイ容疑などのある相手国の外交官の追放措置ならば、米国とロシアもよくやり合っているが、出国禁止にして「人質に取る」という話は、イスラム革命(1979年)直後のイランで起きた米国大使館占拠事件くらいしか、筆者は思い出すことができない。もっとも、今回は先に動いた北朝鮮にマレーシアが対抗した形であり、常識はずれの「奇手」は金正恩流と言える。

今回、両国で出国禁止とされたのは、マレーシア人の国連関係者を含め外交官とその家族たちだけのようだ。

気になるのは、彼らがどういう状態に置かれるかである。いずれに国でも軟禁状態には置かれておらず、通常通り自由に行動できるという。

しかし「自由」とは言っても、北朝鮮とマレーシアとではそもそもの国柄が違う。マレーシアは立憲君主制による議会制民主主義国で、言論の自由があり、海外メディアの目も行き届き、経済は2020年の先進国入りを目指して4パーセント台後半の高いGDP成長率を維持している。

方や、北朝鮮は世界最悪の独裁国家のひとつだ。民主主義は存在せず、国民が「言論の自由」を主張しようものなら政治犯扱いされ、収容所での虐待やひどければ公開処刑が待っている。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

経済成長率は一応、プラス基調にあるとされ、カネの力でやりたい放題の富裕層もいるが、外国人が楽しめるような娯楽は少ないだろう。

こうした点を考えると、出国禁止により受ける心理的負担は、マレーシア側の方が格段に大きいと言えるだろう。

ちなみに、昨年7月に韓国へ亡命したテ・ヨンホ元駐英北朝鮮公使によれば、北朝鮮の外交官の月給は「駐在国によって異なるが、大使は月給1000〜1100ドル(約11万4000円〜12万5000円)、公使は700〜800ドル(約8万〜9万1000円)程度」だという。

ネットで調べたところ、マレーシア人の平均月収は5000リンギット(約12万8000円)だというから、大使の収入がどうにか同水準といったところだ。ただ、北朝鮮の外交官は皆、副業を持っており、大使館内で共同生活をしていることを考えれば、それほど悪くない暮らしをしている可能性もある。

それに何より、出国禁止が長く続けば、自由な外国暮らしの末に本国へ呼び戻された時の、憂鬱な心配事も遠のくことになる。

マレーシアに駐在する北朝鮮外交官の中には案外、出国禁止にホッとしている面々もいるかもしれない。