米国・ロサンゼルスの街並み。講演に集まった日本人の聴衆は慰安婦問題の行方を懸念していた(資料写真)


 韓国・ソウルの日本大使館前に設置された慰安婦像の存在が、日韓関係の改善を阻む大きな要因となっている。その慰安婦像の存在が米国在住の日本人たちにも実害を及ぼし、懸念の対象となっている実態を、現地で改めて痛感した。

 3月3日から4日にかけて米国・ロサンゼルスを訪れた。地元の日本人、日系米人の組織「日系と友人たち」に招かれ、講演するためである。

「日系と友人たち」はロサンゼルスの日本出身の長期居住者たちが主体となり、日本の政治や歴史を勉強しながら相互の友好を深める団体だ。2年ほど前に結成され、半世紀前よりハワイやカリフォルニアに在住する実業家の片山隆夫氏が代表を務めている。

今も続く像の撤去を求める戦い

「日系と友人たち」は慰安婦像設置に反対することを目的とする政治的な組織ではない。今回の私の講演も、慰安婦問題を直接的に論じる内容ではなかった。だが、米国での慰安婦像の設置に反対する人たちがこの組織に多いことはすぐに分かった。

 例えば「日系と友人たち」の活動を中核となって支えている経営コンサルタントの今森貞夫氏は、ロサンゼルス近郊のグレンデール市の慰安婦像設置の動きに反対してきた。

 グレンデール市では2013年7月30日に地元の日本人、日系人の反対を押し切って旧日本軍の従軍慰安婦像が建てられた。像には「日本軍が20万人もの女性を強制連行して性的奴隷にした」という虚偽の記述が碑文として刻まれていた。

 像が設置されると、元ハーバード大学教授の目良浩一(めら・こういち)氏を中心に地元住民らは撤去を求める訴訟を2014年に起こした。慰安婦像の存在が地元在住の日本人、日系人の名誉を不当に傷つけ、住民の間に敵意や憎悪を生むという訴えだった。原告側は、外交問題である慰安婦問題に地方自治体が関わること自体も不当だと主張した。

 しかし、地方裁判所、高等裁判所のいずれにおいても住民側が敗れた。現在は最高裁判所へ上告中である。地元の日本人としては、自分たちを不当に貶める慰安婦像を放置しておくわけにはいかない。撤去を求める戦いはまだまだ終わっていないのだ。

 日本政府も米国での慰安婦像設置の動きを問題視しており、つい最近、政府として米最高裁に異例の意見書を送り、原告の目良氏らの主張が正しいと訴えたことが伝えられた(2月下旬の産経新聞)。

慰安婦問題を懸念する参加者たち

 私が依頼された講演のタイトルは「どうなる激動の世界」である。トランプ新政権の米国が今後どんな対日政策を取るのか、特に慰安婦問題のような歴史問題が今後どうなっていくのかについての予測も語ってほしいという要望だった。

 3月4日午後、講演には100人ほどの人たちが集まった。主催はあくまで「日系と友人たち」だったが、会員ではない前述の目良氏も参加した。またロサンゼルスの日本総領事の千葉明氏も足を運んでくれた。

 私は、トランプ氏を大統領に当選させた米国および世界の潮流や、トランプ政権の対日政策について語った。そのうえで、米国における、歴史問題をからめた反日運動の系譜や構造を説明した。中韓の政治勢力は今後も米国を舞台に日本を攻撃し続けるだろうが、トランプ政権はオバマ政権よりも歴史問題に関して日本に批判的な態度をみせることはないだろうという予測も述べた。

 講演後の質疑応答では「韓国の慰安婦像はどうなるのか」「トランプ政権は日本の歴史問題をどう扱うのか」といった質問が多く寄せられ、参加者たちが慰安婦問題に高い関心を持ち、懸念していることが伝わってきた。

日本側が反論した画期的な公聴会

 考えてみれば、参加者たちの慰安婦問題への関心の高さは当然と言ってよい。参加者のなかには、2013年7月にグレンデール市当局が開いた慰安婦像設置の是非を考える公聴会に出て反対意見を述べた当事者たちが何人もいたからだ。

 その公聴会は画期的だった。慰安婦像設置に反対する日本側の意見が草の根の公開の場で初めて表明され、米側のメディアにより広く報道されたからだった。

 公聴会では証人27人のうち20人までが像の設置に明確な反対を述べた。その大多数は同市内外に住む日本人だった。それまで米国の公式の場で、日本人が慰安婦問題について反論したり反撃することはほとんどなかった。

 公聴会を傍聴した今森氏は当時、以下のように報告していた。

「日本人証人たちは韓国側の慰安婦を性的奴隷と決め、日本の謝罪も賠償もすんでいないとする主張に対し、商業的な売春であり、国家間の清算がすんでいることを中心に反論しました。外国政府間の案件に米国の地方都市が関与することの不当性も強調しました」

「韓国側の慰安婦についての主張は捏造だ」と断言した目良氏の証言は、米側メディアによって幅広く報道された。

 例えば米国メディアは公聴会について以下のように報道した。

「反対派の証人は、慰安婦たちが志願した売春婦であり、性的奴隷ではなかったと述べた」(NBCテレビ)

「証人の1人は日本軍が女性を強制連行したことはなく、米国の市が日韓問題に関わるべきでないと主張した」(ロサンゼルス・タイムズ)

「日本人の女性証人からは、碑の設置は戦時の憎しみをあおりたて、子供たちに悪影響を残すだけだとの意見が出た」(NPRラジオ)

 以上のような報道にもかかわらず、グレンデール市議会は慰安婦像設置を認める議決を下した。しかし公聴会での日本人証人たちの反論は、近くのブエナパーク市で2週間後に開かれた公聴会に影響を与えた。同市でも韓国系勢力が慰安婦碑の設置を目指したが、グレンデールでの反対意見が持ち出され、審議にあたる市会議員5人のうち3人が設置反対に回ったという。

 こうした経緯を踏まえると、今回、私が顔を合わせた日本人たちが慰安婦像問題に真剣な関心と懸念を向けているのは極めて自然なことである。慰安婦像問題が米国内でも私たちの同胞たちの生活に黒い影を落としているという現実を忘れてはならない。私はロサンゼルスで今森氏や目良氏らと語り合って、改めてその点を痛感した。

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筆者:古森 義久