従来は複数のフォークリフトが工場内でランダムに動き回る実態を把握するのは困難だった(写真はイメージ)


 IoTによる生産革新は、決して先進的な大企業ばかりが恩恵を得られるわけではない。むしろ限られた人材や設備でものづくりを行っている多くの中小企業にこそ大きな可能性をもたらすものである。

 JMAC(日本能率協会コンサルティング)では、IoTデバイスを使いこなす強い現場つくりを目指すために「現場IoT7つ道具」を提唱している。

 現場IoT7つ道具とは、現場の見える化の対象を「位置(Location )」「作業(Operation )」「場面(Situation )」「稼動(Availability)」「数量(Count)」「品質(Quality)」「危険(Hazzard)」の7つとし、これらの対象をセンシングし、データとして蓄積、解析することで次の生産活動につなげる手法である。

「位置」であれば“Location”の頭文字”L”をとって、「IoL」(Internet of Location)と呼んでいる。今回はそのIoLについて、取り組み事例を紹介しよう。

フォークリフトの移動情報を蓄積

 製造現場において、人・もの・荷役機器などの位置や動線を常に把握することができれば、作業の効率化に大いに役立てられる。

 例えばフォークリフト。広い工場内には、資材あるいは完成した製品などを運ぶ多くのフォークリフトが縦横に走り回り、ものづくりを支えている。従来はこのように複数のフォークリフトが同時刻にランダムに動き回る実態を把握するのは困難であった。

 IoTを活用して1台1台の動きを同時に把握することができれば、以下のようなことが期待できる。

・時間帯別の稼動状況、日別の稼働状況、空運搬比率 → フォーク保有台数の適正化

・動線の状況 → 効率的なルート選択

・地点間移動スピード → 安全作業奨励

・個車別の走行距離 → 保全タイミングの適正化、など

フォークリフトの動線の状況(イメージ図)


 A社では、工場敷地や施設内に「Beacon」(ビーコン)と呼ばれる信号発信機を50個ほど設置し、14台のフォークリフト1台1台に受信機(iPOD touch)を装着している。各ビーコンは個別のIDを持っており、その近くをフォークリフトが通過すると、受信機がその電波を受信し場所と時刻をデータとして蓄積していく(下の図)。

 この技術によって、常時、個々のフォークリフトの動きをトレースし、時間、場所、距離を定量化することが可能となっている。

 データを蓄積することで、1日の中の仕事の濃淡や、週末偏重など、今まで感覚的は捉えていたが定量化できていなかったことや、14台の総稼働時間が実は40%にも満たなかったこと、あるいは空運搬の比率が50%を超えていたことなどが明らかとなった。A社ではこうした見える化をきっかけに一気に改善を進めている。

フォークリフトごとの稼働時間(上)と稼働状況の推移(下)を示したグラフの例


試行錯誤の末に実現

 この技術は、大きく3つの利点が評価され、採用に至った。

 第1に現在使用しているフォークリフトをそのまま使い、後付けが可能であること。第2に安価であること。Beaconは1個2000〜3000円で入手できる。第3に屋内外で使用可能であることだ(GPSは屋内使用が不向き)。

 原理的には単純であるが、実際に使用可能な状態にするためには、いくつかの課題があった。まず、Beaconの数を増やすと、受信機側が同時刻に複数の発信情報を記録してしまうことがあった。そこでBeaconの設置場所や間隔、発信電波強度などをチューニングしなければならなかった。また、常時Beaconからの信号を受信する受信機のバッテリーが半日も持たず、その電源確保が1つのネックとなるなど、試行錯誤の末の実現であった。

 A社の「IoL」は、フォークリフトの動きを捉える「センシング技術」、その膨大なデータを処理する「ビッグデータ技術」、処理情報をストレスなく分析加工可能な「ソフトウエア開発技術」を組み合わせることで実現された。

 人や、フォークリフト、カゴ台車など、複数台が同時にランダムに動いていても、それぞれが受信機を持つことにより、同時間帯におけるそれぞれの動きを把握することができ、応用範囲は広い。どのようにデータを取るか、どのように組み合わせるかは人間の想像力と腕の見せ所である。

 次回は人の「作業(Operation )」のIoT化についてお伝えする。

筆者:毛利 大、袖嶋 嘉哉