クロネコヤマトの宅急便の配送車(「Wikipedia」より)

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 ヤマト運輸の労働組合が、2月中旬に行われた今年の春季労使交渉で、宅配便の引受総量の抑制を会社側に求めた。会社側は申し入れを真摯に受け止め、対策の検討に入った。

 検討されている対策のなかには、無料再配達などの現在の手厚いサービスの見直し、運賃の値上げ、そして宅配ドライバ-など従業員の働き方改革などが含まれている。私たち市民の便利な宅配生活に影響が出る可能性があるので、成り行きが注目されている。

 しかし、ヤマトの問題は実は上記のような総論での対策によるよりも、企業戦略的な選択で解決すると私は見ている。それはずばり、顧客としてのアマゾンの放逐だ。

●アマゾンというババをヤマトに引かせた佐川

 ヤマトの「苦悩の元年」は2013年だった。インターネット通販の市場規模は15年に約13.8兆円に達したのだが、12年には約9.5兆円だった(経済産業省調べ、以下同)。10年からは年率10%程度伸びていたが、13年に約11.2兆円と対前年比で17%の伸張を果たし、「階段を上った」年となった。

 ネット通販の雄といえばもちろんアマゾンだが、13年まではアマゾンの宅配は佐川急便1社のほぼ独占的な取り扱いだった。しかし、アマゾンからの一個あたりの配送手数料の採算性が悪い状況を受け、あまりの宅配個数の伸張のために、佐川は手数料値上げの要請という交渉により、実質的に取り扱いを停止した。

 宅配業界は、佐川のほかにはヤマトと日本郵便が大手3社を形成している。15年の宅配便シェアはヤマトが46.7%、佐川が32.3%、日本郵便が13.8%と3社で90%を超えている(国土交通省調べ)。

 佐川がアマゾンから撤退したのを潮時にヤマトと、一部日本郵便がアマゾンの宅配を受任して現在に至っている。

 売上シェアを追ったヤマトと、利益を尊重した佐川、どちらが戦略的に賢い選択をしたのか。

●賢かった佐川急便、ぬか喜びしたヤマト

 アマゾンと取引した最終年に当たる12年3月期の佐川のデリバリー事業は、売上が7,664億円だった。アマゾンとの取引を中止したことで、14年同期の売上は7,094億円へと7.5%減衰し、16年3月期に至っても7,215億円とアマゾン時代まで回復していない。

 ところが、佐川のデリバリー事業の営業利益は、12年の253億円から14年には363億円へと急伸張し、16年3月期は384億円と、対売上営業利益率5.3%で着地している。アマゾンを手放したことにより、収益が大いに改善した。

 佐川の場合は、「儲からない最大顧客」を果敢に放逐し、獲得した余剰経営資源で新しいビジネスセグメントに打って出た。すなわち、企業間物流であり、国際物流だ。宅配便から手を引いたということではないが、軸足を移した、ということだ。そして、それは成功している。アマゾン問題を含み、佐川は戦略的に賢い立ち回りをしたと評価する。

 一方、ヤマトの通信簿(財務)を見ると悲惨だ。

 アマゾンと取引開始直前の12年3月期のデリバリー事業は、売上が1兆145億円だった。アマゾンを獲得したことで、14年の売上は1兆987億円へと842億円のオンを果たしている。この2年間に佐川は売上を570億円減らしたので、ヤマトはアマゾン分の売上が増加し、さらにその他のビジネスが積み上がったと見ることができる。

 ちなみに16年3月期のヤマトのデリバリー事業の売り上げは1兆1119億円と、売上的には大問題を起こすほどの伸張にはみえない。しかし、そこに同社の経営戦略的な問題が潜んでいる(詳細は後述)。

 さらにヤマトのデリバリー事業の営業利益に目を移すと、12年の410億円から、アマゾンとの取引が開始された14年には359億円へと急落し、16年3月期は382億円程度と推定されている(「週刊東洋経済」<東洋経済新報社/2017年3月4日号>)。

 トップが伸びたのにボトムが悪化する、このような状態を「悪手の経営」と呼ぶことができる。

●ヤマトの取り扱い個数の2割がアマゾン

 ヤマトのデリバリー事業のなかで、アマゾンがどれだけの企業内シェアをもっているのか。13年にアマゾンとの取引を開始した時の売上伸張が、当時の年商の4.2%程度だった。これが、そのまま当時の「ヤマト内アマゾンシェア」とみることができる。

 その後、アマゾンジャパンの売上は13年に約7,500億円、15年に約1兆円と推定されている(同)。15年の伸び率は16年にはさらに加速しただろう。アマゾンのこの成長がそのままヤマトにおける宅配個数の伸びとして考えられる。

 実際、「ヤマトの売り上げに占めるアマゾンの割合は1割を超えている」(同)、あるいはヤマトに潜入取材したジャーナリスト、横田増生氏のように、「ヤマトは現在、年間17億個超の宅急便を配達する。アマゾンの荷物はその2割にあたる約3億個」(「週刊文春」<文藝春秋/ 2017年3月9日号)という見方もある。

 問題は、その最大顧客の単価が群を抜いて安い、ということだ。ヤマトの平均運賃単価である570円台と比べると、アマゾンのそれは約250円と、半額以下とされる(横田増生氏)。もちろんこれより安い大口顧客はいないとみられる。ヤマトの顧客シェアとして、個数ベースで約2割、単価が平均の半額なので金額ベースでは約1割となるというのは整合性があるので、両方とも信じられる。

●手ぬるいヤマトの対応策

 2月に入り、ヤマトはついに労働組合から眦(まなじり)を決した申し入れをされてしまったわけだが、経営陣の言い分としては、これまで何もしていなかったわけではない、というところもあるだろう。

 というのは、14年から値上げを断続的に行ってきた経緯があるのだ。しかし、その都度競合との価格競争に巻き込まれ、長期的な単価引き下げと営業利益率低下のスパイラルとなってきてしまった。

 組合からの申し入れを受けて、今回会社が検討に入ったのが、冒頭に掲げた諸策なのだが、私に言わせればそれらにより状況が解決されるとは思えない。

 というのは、ヤマトの根本的な問題というのは、利用顧客のすべてに展開して解決すべきものではないのだ。そして解決できることでもない。

 問題となっているのは、ヤマトにとって最大不良顧客アマゾンただ1社なのである。この構造は、ちょうど1980年代に日米貿易摩擦問題が勃発したときに、分析してみれば日本の対米貿易黒字のほとんどは自動車業界だった、というのと似ている。ヤマトはアマゾン問題を解決しない限り前に進めないことを、肝に銘じなければならない。

●アマゾンをヤマトは返上すればいい

 どうすればいいか。現在のアマゾン特別価格250円を、少なくとも500円に訂正する。

 この値上げがアマゾンに受け入れられる場合を、「ケースA」としよう。ケースAなら、アマゾン取り扱い個数が年間約3億個なので、約750億円の増収が見込まれる。ヤマトは黒字会社であり、かつこの増収に対して何の新規業務が発生しないのでこの750億円は「限界利益」となり、そのまま増益に回る。

 750億円は、約5万4000人いるセールスドライバーの待遇改善にそっくり回す。一人当たり139万円の年収改善余資となる。中小型トラックドライバーの年収平均は388万円で、全産業平均の489万円より低い(15年、厚生労働省調べ)。仮にヤマトのセールスドライバーの年収を388万とすると、139万を改善すれば527万円となり、ヤマトの運転手不足は一気に解決に向かうだろう。

 値上げがアマゾンに受け入れられない場合を「ケースB」としよう。

「アマゾンの売り上げを失ってもいいという覚悟で望む必要があるが、実際に失うと今後は人手がだぶついて、赤字になってしまう可能性がある」(「週刊東洋経済」<東洋経済新報社/3月4日号>より、ヤマト幹部のコメント)

 今がすでに業務的にパンクしているのだから、業務を個数ベースで2割減らすのは理にかなったことだ。前述したように、金額ベースでは1割ほどのことだ。そして、ケースBの有効性は13年に佐川で実証されたことでもある。

 労働組合から改善を求められている諸問題は、実は年間取り扱い個数を現状で頭打ちにするということでは解決できない。現状ですでに過大なサービス残業などが発生しているからだ。問題を解決するためには、現状で個数凍結するのではなく、減らさなければ駄目だということを直視すべきだ。

 ヤマトがアマゾンとの取引を停止したら、アマゾンをはじめとするインターネット通販、そして「配送無料」などはどうなるだろうか。

 そんなものはどうにでもなるし、状況が動けばビジネス機会をものにする企業は必ず出てくる。また、ヤマトの経営陣はそんなことまで考える義務はない。

「小手先のことより抜本的なことを」――。それが経営戦略的なアプローチであり、選択だろう。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)