映画『かもめ食堂』『めがね』などで知られる荻上直子監督の最新作『彼らが本気で編むときは、』が公開中です。

母親に家に置き去りにされた少女・トモが、トランスジェンダーのリンコと、トモの叔父でリンコの恋人のマキオと過ごす時間を見つめた人間ドラマ。第67回ベルリン国際映画祭で、LGBT(セクシュアル・マイノリティ)をテーマにした上映作品の中で優れた作品に与えられる“テディ審査員特別賞”を、日本映画として初めて受賞。生田斗真さん演じる主人公・リンコの美しさも評判を呼んでいます。

この話題作で、トモを置いて家を出てしまう母ヒロミを演じているのが、女優のミムラさんです。「役者として存在感をどう出すか」に心を砕いたというミムラさんに話を聞きました。

未完成だからこそ「挑戦になった」


――シングルマザーのヒロミ役をオファーされたときはいかがでしたか?

脚本を読んだ時、自分がヒロミ役だということ以前に、荻上監督作品にヒロミのような生々しい人が投入されていることに驚きました。役を託していただいたことは、素直にありがたいです。この作品には魅力的なキャラクターはいっぱいいますが、ヒロミはひどい人ですよね(苦笑)。それにサークル(円)の関係が多いなかで、ヒロミとトモに関しては終わりきっていなくて未完成。そうしたものを託されるのは役者としてうれしいです。

ただ、このお話しは丸くして終わらせようみたいな考え方をしてしまうとおかしくなる。役者としては起承転結をつけたくなりますが、それをつけないで終わらせないといけないという意味で個人的な挑戦、プラス、それを投げていただいたという喜びがありました。

――演じるうえで心がけたことは?

ヒロミは登場シーンとしてはそんなに多くないんです。その上で、役者として存在感をどう出すかということを考えました。作中ずっと、トモちゃんはお母さんがいないという不在感を抱えているんです。

お母さんはどんな人なの? お母さんは私のことを嫌いだったの? とずっと考えているのが描かれている。常に作品の上に、トモの考えている母が乗っかっている。母であるヒロミの存在感が薄いとキツイので緊張しました。限られたシーンでの表現をしっかりやらないとと思いましたね。

外から入ってくる空気の大切さ

――完成した作品をご覧になって感じたことは?

ヒロミの母親、トモのおばあちゃんの生き方が、耐えることを飲み込んじゃった人なんです。それをヒロミは嫌だと拒絶したことによって、今度は耐える子(トモ)を生んでしまった。

凸と凹が永遠と続いていく怖さを感じました。親子であることよりも、片方では終われない関係性の怖さ。でも納得もできる。トモちゃんがこの先、どう生きていくかという不安が沸きましたが、でも希望も感じたんです。

――希望というのは?

トモは賢さゆえに我慢がどうしても出てしまう。悟っているというか。ヒロミは刹那的すぎて、自分も相手も傷つけてしまう。ただトモちゃんがよかったところは、おばあちゃんがああで、お母さんがこうでというところにプラスして、リンコさんがこうという、たくさんの女性を見られたことだと思います。

だからトモちゃんだったら、もっといい答えが出せるのかなと。血縁じゃない人の功績というのも大きいですよね。外から入ってくる空気の大事さを感じました。

リフレッシュのために体の移動は効果あり

――ミムラさんご自身が、壁にぶち当たってもがいているとき、気分転換でされること、リフレッシュのためにすることは何ですか?

緑が好きなので、山にドライブに行ったり、河原に行って本を読んだりします。日常とはまったく違う場所に行く。休みが1日しかない場合も、前だったら「行って帰ってくるとそれだけで疲れちゃうからやめておこう」と思っていたのを、今では無理にでも行って、2、3時間でもぼけっとして戻ってくる。それで全然違います。体の移動というのが、思いのほか効果があるというのがよくわかりますね。

――作品を楽しみにしている人にメッセージをお願いします。

私の役はちょっと生々しくて、眉をひそめちゃう女性ですが(苦笑)、作品としては、脚本を読んだときに感じた以上に荻上テイストが生きていて、「おとなのぬりえ」みたいな、可愛らしいキレイなところがたくさんあります。でもそれだけではなくて、胸を突くようなチクっとしたところもある。テーマをいろいろ抱えている作品ですが、元気になれる、もうちょっとがんばろうと思える映画だと思います。

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

●ミムラさんが出演する『彼らが本気で編むときは、』は新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほかで公開中。

(望月ふみ)