スノーボードUSオープンで見た日本人ライダーたちの五輪ロード(女子編)

 2月27日〜3月4日、スノーボード最高峰の大会である「BURTON USオープン」がアメリカ・コロラド州ベイルで開催された。USオープンは、いわゆるFIS主催のW杯や世界選手権などとは一線を画したプロトーナメントであるが、大会レベルそのものはX GAMESと並んで間違いなく世界トップクラスのカテゴリーに属する。


世界での位置を確認することができたUSオープン 今大会は特に1年後に迫った平昌冬季五輪を見据えた時期ということもあり、男女ともに各国の有力選手たちがずらりと出揃い、例年以上にハイレベルなコンテストが繰り広げられた。そんな「五輪前哨戦」とも言える今回のUSオープンの開催期間中、現地ベイルにて、平昌五輪での活躍が期待される日本人選手たちに話を聞くことができた。

 女子は「スロープスタイル」に注目。前回のソチ五輪から正式種目として採用された同種目は、ジプと呼ばれるレールやボックス、複数のジャンプ台からなるコースを滑りながら、技の難易度やエアの高さを競う採点競技である。そのスロープスタイル女子において、平昌五輪出場に最も近い日本人選手が今回のUSオープンで5位に入賞した鬼塚雅(おにつか みやび)だ。スロープスタイルの選手たちは平昌から採用される新種目「ビッグエア」への出場も見込まれるため、2種目でのメダル獲得も期待されている。

 2015年に史上最年少で世界選手権優勝を果たし、一躍注目を浴びた熊本出身の18歳はその後も着実に成長している。今大会も予選を4位で突破すると、決勝では66.6と思ったほど得点は伸びなかったものの、難度の高いルーティンを1本目からミスなく決め、持ち前のエアの高さも発揮。全体的にまずまずのパフォーマンスを披露しての5位フィニッシュとなった。しかしながら彼女自身、五輪で勝つためにはここからさらなるステップアップが必要と実感している。


スロープスタイル、新設のビッグエアと2種目でメダル獲得を目指す鬼塚雅「小さい頃にUSオープンやX GAMESに出たいと思ってプロを目指しましたが、五輪もやはり大切な存在。前回ソチに出られると思っていたのに出られなくて、だからその分、平昌にかける思いは自分の中でも強いです。ただ、周りの女子ライダーたちのレベルがぐんぐん上がってきていますし、平昌で勝つためには今年の4月、5月で2段階くらいレベルアップしなくてはいけないと思っています。正直、今の自分は『頑張って3位』の選手。1位を取れる技を持っていないので、この春に開花させないと。詳しい内容は秘密ですけど(笑)。勝てるルーティンを身につけられるように練習のプランを立てています。4月は国内で、5月はもしかしたらスイスのナショナルチームの合宿に参加させてもらうかもしれません」

 USオープンを制したアンナ・ガッサー(オーストリア)、2位のジェイミー・アンダーソン(アメリカ)は、現在のスローブスタイルにおける絶対的な2強で、間違いなく五輪でも鬼塚の前に立ちはだかる存在。そして、今大会は予選敗退となったが、1月のX GAMESで大技「CABダブルコーク1080」を女子で初めて決めてビッグエア種目を制した16歳のヘイリー・ラングランド(アメリカ)もまた、ライバルになってくるだろう。

「私にとって、問題はなんといってもアンナですね。ジェイミーやヘイリーは自分の滑りが100パーセントできれば勝てない相手ではないと思っていますが、アンナには、今の私では勝つのは難しい。この春夏の練習にかけます」 海外選手たちの実力を認めつつも、「今の私では」という前提での分析が印象的だった。裏を返せば、1年後はわからないよ、というメッセージにもとれる。

 USオープン終了直後、今週末に行なわれるFIS世界選手権出場のためにコロラドから成田を経て、今度はスペインへ飛んだ鬼塚。小さな身体でタフに世界を飛び回る18歳。彼女の今後の成長曲線から目が離せない。

 女子スローブスタイルには、藤森由香もいる。彼女の名前はすでにご存じの方も多いだろう。スノーボードクロスで2006年トリノ、2010年バンクーバー、2014年ソチと3大会連続で日本代表に選出され、トリノでは7位入賞を果たして一躍ニューヒロインとしてメディアを賑わした。


自身4度目の五輪出場を狙う藤森由香 レース競技からフリースタイルに転向してまだ2シーズン目ではあるが、彼女もまた、1年後の平昌を視野に入れながらの大会出場が続く。このUSオープンでは、セミファイナル前のインタビューでこう語っていた。

「クロスからスロープに転向して、1シーズン目は難しい部分がたくさんありましたが、今シーズンはその経験を踏まえ、ここまで一つひとつ技術をしっかり作り上げてこられている感じがして、非常にいい時間を過ごせている実感がありますね。スロープスタイルは個人競技ではありますが、いい技を決めた時なんかは他の選手もハイタッチをしてくれたり、今のよかったよ!って一緒になって盛り上がってくれるんです。そうやってみんなから評価されて、また映像や写真に作品として残せるところも魅力のひとつだなと思います。とくにUSオープンは昔から憧れの大会でもありますし、いい滑りをすると世界からの注目度が一気に上がるステージですので、頑張って決勝に残りたいですね」

 結果は予選8位。惜しくも上位6人に入ることができず、決勝進出とはならなかった。しかし内容を見てみると、1本目は全体4番目となる65.35というスコアを出している。ポイントアップを狙った2本目、難易度を上げたトリックを繰り出した際に着地に失敗したことで涙をのんだが、紙一重だったし、大いに今後への可能性を感じさせるライディングを見せてくれた。

「クロス時代から、スロープやパイプも大会の出場経験がないだけでやってはいました。だからまるっきりゼロからのスタートではないんですよ」とは言うものの、転向2シーズン目でそれだけのパフォーマンスを見せられるところに、やはりアスリートとしてのポテンシャルの高さを感じさせる。

「五輪に関して今の段階ではなんとも言えないですけれど、これからの1年、出場するために十分な成績を収めていきたいとは思っています。ただ、よく五輪は私にとってどういう存在なのかと聞かれますけど、『憧れの大会』としか言いようがないですね。それは今回のUSオープンや、いつか出場したいと思っているX GAMESも同じ。よりレベルの高いところで活躍していたいという気持ちだけです。五輪に限らず、世界のいろんな大会で表彰台に乗ることが目標です」

 ここから1年後に照準を合わせてトレーニングを積んでいく上で、大舞台での豊富な経験も彼女の大きな武器になるだろう。

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