ジュビロ磐田のMF中村俊輔【写真:Getty Images】

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試合2日前に背番号10が語った攻撃の形

 4日、2017シーズンの明治安田生命J1リーグ第2節ベガルタ仙台戦を迎えたジュビロ磐田。ホーム開幕戦となった同試合では、前半こそ速攻から何度も好機を作ったが、後半は手詰まりの状況に陥った。トップ下で2試合連続先発となったMF中村俊輔は、前週のセレッソ大阪戦とはポジショニングを変えてプレーしていたが、位置取りの最適解を導き出すにはまだ時間を要しそうだ。(取材・文:青木務)

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 別室でのTVインタビューを終え、中村俊輔がミックスゾーンに現れた。ホームで勝ち点を落としたことに悔しさを滲ませつつ、この試合で見つけた収穫と課題に言及していく。チームとして、個人として乗り越えるべきポイントについても語られた。『名波ジュビロへの新エースの融合』は一歩一歩、少しずつ進んでいくことになりそうだ。

 3月4日、明治安田生命J1リーグ第2節、ジュビロ磐田はベガルタ仙台をヤマハスタジアムに迎えた。ホーム開幕戦ということもあり、スタンドは14,554人の観衆で埋め尽くされた。

 仙台にポゼッションを譲りながら、何度か速い攻めを披露。セットプレーはゴールの匂いが漂い、実際に川又堅碁には何度か決定機が訪れた。効果的な攻撃がほとんどなかった前節・セレッソ大阪戦に比べればポジティブな要素は少なくない。

 アダイウトン、太田吉彰の両翼がスペースに走り、ムサエフはチームに躍動感をもたらした。ヤンマースタジアム長居ではサポートを得られず孤立した川又も、味方とのいい距離感を維持。彼が楔を受け、周囲が前向きにプレーする場面もあった。

 試合2日前、仙台について中村俊輔はこう述べている。

「今年から3-4-3になって、4-1-5で(ボールを)回してサンフレッチェやレッズのような戦術をとる感じに変わってきている。3バックになる瞬間、早めにその両脇を突くというのが一つの攻撃の形になると思う」

仙台にあり、磐田に欠けていた「オアシス」

 相手からボールを奪い、素早い攻守の切り替えから一気にゴールを目指す。そうした形は前半、随所に見られた。スイッチを入れたのは中村俊輔だ。21分、斜めに走り相手守備陣の隙間に侵入したアダイウトンにパスを通す。直後の23分には味方の粘りからボールを預かると、ダイレクトで右サイドに展開。走り込んだ川又堅碁が中に持ち替えてシュートを放った。いずれも相手にブロックされ決定打とはならなかったが、手数をかけずにフィニッシュに結びつける意図は感じられた。

 しかし、攻め手はそれだけだったとも言える。

 素早くゴールに迫ることはでき、好機を生んだCKも速攻から得たものだった。相手3バック両脇のスペースを「前半は突けたと思う」と中村俊輔は振り返る。ただ、元日本代表はあることに気づいていた。

「取った後のパスが、仙台の方が3-4-3ということもあって一回サイドに散らせる、休み所があった。こっちは休み所がない分、サイドバックが持っても縦しか(選択肢が)なくて。後ろからの厚みあるボール回しの部分で、向こうの方が『オアシス』があったかなと」

 仙台は左右に振って一息つき、周りに味方がいるため局面で人数をかけてパスを繋ぐことができた。中村俊輔が独特な言い回しで表現した落ち着きどころが、磐田には少なかった。時間の経過と共に前と後ろの距離が離れると、それはさらに顕著になった。

前半にはショートカウンターが発動も、後半の攻撃は停滞

 心安らぐ場所を求め、砂漠をさ迷うような心境だったのかもしれない。そして、このレフティーは「(自分が低い位置に)下がってもいいかなという感じもするんですけどね」との考えに至った。自らのプレーエリアを変え、『オアシス』を作り出そうということだろうか。

 C大阪戦では、中村俊輔が相手ボランチのソウザと山口蛍からの縦パスを消すために低い位置を取った。それが奏功し、一発のパスで中央を崩されることもなかった。ただ、そうなると前線に枚数が足りず、攻撃で相手に脅威を与えられなかった。

 そうした点を踏まえて、仙台戦では10番があえて高い位置を保ち、川又との距離感を意識した。開始早々の2分には、PA手前で縦パスを受けて前を向くと、最後はクロスにアダイウトンがヘディングで合わせた。

 前半はショートカウンターを何度か発動し、狙ったポイントを攻め立てることができた。だが、「前線の動き出しがなくなったのと、60分前後から受けて考える選手が非常に増え、ワンタッチ、ツータッチのリズムがなくなってきた」と名波浩監督が言うように、後半途中から攻撃は停滞した。推進力を与えていたサイドバックの位置取りが低くなると、前線も単調な動きが目立った。好循環が途絶えると相手のWBを牽制できなくなり、攻め上がりを許す展開となった。

中村俊輔は下がってボールを受けるべきか

 トップ下の中村俊輔は常に厳しい監視に晒されている。フォローがなければ彼の選択肢は限定され、相手にとっては的を絞りやすくなる。よって、チャンスに繋げるようなボールの受け方も難しくなる。そのため「一回下がって、サイドバックを上げてボール回しに厚みが出るのもアリかなと」という考えも頷ける。

 中村俊輔が活動範囲を下げることで得られる恩恵はいくつも見出せる。ボールを失わないため彼を起点にリズムが生まれ、そこに『オアシス』があるから周囲は落ち着いてプレーできるだろう。彼自身も言うようにSBを押し上げ、それによってサイドハーフは中に行く選択肢を得られる。また局面を一気に変える精度の高いキックで前線を走らせ、ゴールまで最短距離、最少人数で迫ることも可能だろう。ボールを握る時間を長くし、不用意なロストをしなければ、相手の攻撃を受ける回数を減らすことにも繋がる。

 開幕2試合はブロックを作りつつ、センターサークル辺りからチームの守備がスタートしている。最終ラインも下がり過ぎず全体をコンパクトにし、相手の攻撃を防ごうとしていた。

 チームとしての守備は上積みを感じさせる。簡単に最終ラインを突破させず、ボランチが中央を留守にしないなど守備陣の対応は適切。時には3ボランチ気味になって縦パスのコースを埋める中村俊輔の貢献も見逃せないのだが、得点を奪うためには10番がある程度CF付近でプレーすることも重要ではないだろうか。

『2017年版ジュビロ磐田』の完成形は?

 仙台戦、相手ゴールに迫ったのはカウンターからで、本当の意味での決定機はセットプレーのみ。とはいえ、前半は中村俊輔が前にいる効果もあった。単純に前方のパスコースが多くなる。そこへボールを付け、レフティーが相手DFラインとボランチの間で受ける場面があった。守備から攻撃に移り、彼がゴールに近いエリアで前を向ければ相手の脅威となり、活かされてこそ真価を発揮するタイプの川又にとっても心強いだろう。

 最初の45分間で見せたサッカーをアベレージとし、チャンスの回数を少しずつ増やしていければ、指揮官の言う「相手ゴール前のスリリングな場面を多く作る」状況を創出できるのではないか。

  問題意識を抱えつつ、中村俊輔は「今日の試合が間違いじゃない」とも話している。チームが向上するために何をすべきかを考えているからこそ、あらゆることに目を向けられる。そして、前線で能力を発揮し攻撃をけん引した事実は間違いなくポジティブな要素だ。

 新トップ下がどのように味方を活かすかという点は、今後もしばらく大きなテーマとなる。下がってゲームを作るのなら、周囲はそれに呼応して空いたスペースへ臨機応変に侵入すべきだ。そうした連係は選手間のイメージの共有が不可欠で、間で受ける意識を強く持たなければならない。

 中村俊輔が前線に留まるにしても、味方との距離感が悪ければ有効な攻撃は繰り出せない。彼のパフォーマンスは勝利に直結するだけに、様々な可能性を排除せず追求したいところだ。

 リーグ戦はすでに始まったが、最適解を導き出すまでとことんトライすべきだろう。ポイントは多岐に渡るが、それらをクリアした先に『2017年版ジュビロ磐田』の完成形があるはずだ。

(取材・文:青木務)

text by 青木務