無許可の「闇民泊」が増え、一大市場を形成しつつある(写真はイメージ)


 ここは東京都中野区の一角。戸建てを中心とする静かな住宅街に、スーツケースを引きずるゴロゴロという音が響きわたる。

 スーツケースの持ち主は、旅行者と思われる中国系の2人連れだ。手にはスマートフォンを持っている。どうやら予約した宿泊先を探しているようだ。

 彼らが探しているのは民泊に違いない。なぜなら、そのあたりは第一種中高層住居専用地域(以下「第一種住専」)に分類され、ホテルは立地できないエリアだからだ。

民泊の多くは“モグリ”経営

 筆者の生活圏であるJR中野駅前と周辺商店街では、個人旅行者らしき外国人たちがしょっちゅうスーツケースとスマホを持ってウロウロしている。この1〜2年でそうした旅行者たちが急に増えた。

 おそらく近所にいくつも民泊があり、外国人旅行客が集まってきているのだろう。そこで中野区役所に「区内の民泊は何カ所あるのでしょうか?」と問い合わせてみた。すると、返ってきたのは意外な答えだった。

「中野区では、民泊を含む簡易宿所としての登録は5件しかありません」

 民泊を営むには旅館業法の「簡易宿所」としての条件を満たすことが必要とされ、ハードルは高い。しかも、現時点では第一種住専で民泊は営めないことになっている(国交省が提出する「民泊新法」が国会を通過すれば、住居専用地域でも民泊実施が可能になる)。

 では、一体だれが民泊のホストなっているのか。

 担当職員はこう続けた。「中野区で未登録の民泊を運営しているのは大半が日本人ではない可能性があります」 つまり、中野区の民泊の多くは、外国人が“モグリ”で経営しているということだ。

過熱する中国人の民泊投資

 ある不動産業界団体は、「都内のタワーマンションの中には中国人オーナーによって民泊として使われているところがあり、問題になっている」と明かす。今、日本では、私たちの目に見えないところで、中国人による闇民泊経営が活発化しているようだ。

 中国では日本の民泊が高収益を生む投資先として注目されている。「東京五輪に向けて日本政府が民宿経営の環境整備に乗り出す」というニュースも中国に伝えられ、関心を呼ぶ原因となっている。「日本の不動産に投資するなら、賃貸運用ではなく民泊経営だ」と言い切る中国人もいる。

 日本に住む中国人も民泊経営に熱い視線を注いでいる。実際に、筆者の中国人の知り合いの何人かが、自宅を民泊にしたり、民泊用に新たに物件を仕入れたりして、民泊経営に乗り出している。

 中国で立ち上がった民泊サイト『自在客』には、すでに1万3000件を超える日本の民泊の登録がある。中国の「参考消息網」は「そのほとんどが中国人による経営」だと伝えている。確かにサイトにアップされている部屋の画像を見ると、インテリアのセンスはいかにも“大陸好み”だ。

 日本の民泊市場の開拓は、もはや中国人が先導していると言っても過言ではない。民泊物件を提供するのも中国人、それを利用するのも中国人、という形で、いつの間にか水面下で大きな市場が出来上がりつつある。

掃除の仕方も中国流

 中国人による中国人向けのサービスでは、物件の管理も中国流となる。それを象徴する出来事があった。

 李佳さん(仮名)は東京在住の中国人女性だ。ある日、友人からこんなアルバイトを紹介された。

「ハウスクリーニングなんだけど、2時間で2000円もらえるの。悪くないと思わない?」

 李さんが現場に行ってみると、それはいわゆる民泊だった。

「中国人のオーナーが民泊物件を複数所有していて、ハウスクリーニングの一切を業者に任せていました。その業者も中国系でした」

 面接後、李さんはすぐにハウスクリーニングの実働部隊に組み込まれ、リーダー格の中国人男性に民泊物件に連れて行かれて仕事の手順を教えもらうことになった。

「俺がやるようにやってくれればいいから」 そう言って、中国人男性はクリーニングの指導を始めた。

 中国人男性は床に落ちている使用済みのバスタオルを拾い上げ、ユニットバスの水滴を拭き始めた。洗剤は使わないでただ拭くだけだった。次に、同じバスタオルを使って便器の外側を拭き始めた。さらに何食わぬ顔で便器の内側も拭き始めた。しかも李さんが驚くことに、フローリングまでも同じタオルで拭いているのだ。

「さあ、これで終わり」と男性はiPADで現場の写真を撮影した。そして、バスタオルをそのまま物干し竿に掛けて、李さんを引き連れて現場を去った。

「あのバスタオルを、客が使うのか」と思うと、李さんは「さすがに良心がとがめた」と言う。その直後、李さんはアルバイトを辞めた。

 ただし、中国では、その男性の掃除の仕方はけっして特殊ではない。上海でも高級ホテル以外は、1つのタオルで床とコップを一緒に拭くことはよくある。中国人なら誰でもそのことは知っている。

 とはいえ、ここは日本。日本でこんな「中国式」がまかり通っているとは、中国人訪日客も夢にも思わないだろう。

 日本人の知らないところで一大市場が形成されつつある「中国人による中国人のための民泊」。日本の民泊はどこに向かうのだろう。健全な市場を取り戻せればいいが。

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筆者:姫田 小夏