札幌での冬季アジア大会は、日本が金メダル27個で韓国や中国を抑えて1位となり、来年の平昌冬季五輪への大きな弾みとなった。運営面でも小さなトラブルはあったが、全体的には関係者の満足度は高く、成功裏に終わったと言える。

 開催直前には、中国がアパホテルに備えつけている「南京大虐殺」や「慰安婦の強制連行」はなかったとする書籍(『本当の日本の歴史 理論近現代史学供戮世噺世錣譴襦砲療欝遒魑瓩瓩討た。

 これに対しアパグループ代表は「(中国)政府が一民間企業の活動を個別に批判することに対しては疑問を感じる。書籍を撤去しない方針に変更はない」とコメントした。

 日本に対する歴史認識では中国と共同歩調をとってきた韓国も、「右へならえ」の姿勢で中国に1日遅れで同様の要求をしてきた。

 しかし、アパグループは大会の会場にあるホテルでの撤去に応じただけで、小の虫を殺し大の虫を生かしたという点で、本当の成功者はアパグループであり、また「真実の歴史」の勝利であったと言えよう。

国家主導の「言論統制の輸出」

 中国政府が一民間の所業にクレームをつけ、応じなければ選手団の宿泊をキャンセルすると脅しをかけてきたことは、中国人民にこうした本が見られて中国共産党や政府のウソがばれることを恐れたわけで、図らずも「南京大虐殺はなかった」という真実が暴露されたことを意味している。

 アパグループの元谷外志雄代表は撤去しない旨を公言したうえで、「日本は『押せば引く国』という悲哀を味わってきたが、本当のことを向こう(中国)の方にも知ってもらう必要がある」と指摘した。

 同時に、「(リスクを避けるため)どの国の人でも(全利用者の)10%以内にしていこうとやってきた。その規制に達する前のいいタイミングで今回のことは起きた」と、運営上からも中国人に偏らない方が望ましいとした。

 「爆買い」に煽られて店舗の拡張や商品の大量入荷をした営業が、翌年には中国政府の一声で成り行かなくなる悲哀を経験したばかりであった矢先で、営業上からも素晴らしい判断と言えよう。

 中国が政府主導で中国国内の旅行会社やインターネットの予約サイトに、アパホテルのサービスと広告を取り扱わないよう求める行動に出たことはこれまでもしばしばあったことで意に介することではなかった。

 しかし、日本の企業にまで中国式言論統制を強要してきたのである。新聞などのマスコミが「他国の特定企業に対するボイコットを強制するのは極めて異例」と書いていたのも当然であろう。

 中国本国の動きに呼応するように、日本で生活している中国人企業経営者、会社員、留学生などが中心となって、抗議デモを行う「中日民間友好委員会」を立ち上げ、約300人が新宿でデモ行進を行ったことは注目された。

 「注目された」というのはほかでもないが、中国政府の威令が在日中国人にも徹底することを示す好例であるからである。日本の災害時などの非常時連絡網以上に、中国の連絡網はしっかりしているのではないかと思わせる事象はすでにいくつかあった。

 2008年の北京オリンピックに因んで長野でトーチリレーが行われた時、在日中国大使館の呼びかけに応じて集結した中国人留学生約4000人が長野市内を畳大の五星紅旗で埋め尽くした。長野市はあたかも中国人に占領されたかの観を呈したとも言われた。

 当時の中国は平和のオリンピック祭典を演出・喧伝しながら、他方ではチベットなどの少数民族の弾圧を続けていた。

 これに抗議した小規模の地方議員団のデモに、中国人留学生数人が暴行する事件も発生した。長野県警は圧倒的な中国人に怖気を成したのか、日本人を犯人に仕立てる仕儀であった。

 東日本大震災時は中国大使館が準備した大型バス数十台で、日本に永住を決めたはずの一般永住者や日本人の配偶者、また日本社会に親しんでいるとみられた中国人留学生や技能実習生など約24万人が短期日に日本を脱出して、学校や企業・農業経営などに大きな混乱をもたらした。

 このような行動は他の国にはほとんど見られなかったことで自然発生的なものではなく、明らかに本国からの指令が在日中国大使館経由でもたらされたか、あるいは中国大使館が自ら指示した国家ぐるみであることが分かる。

自虐史観的知識人の造成

 日本人が長い間、東京裁判史観や自虐史観といわれる自国を貶める考え方に縛られているのは、自己検閲の習性に取り付かれた人士がマスコミや政財界、教育界や学界などで指導的立場にいて隠然たる影響力を持ち得たからだとみられる。

 GHQの占領下で、戦争犯罪周知計画(War guilt information program)が推進された。

 国際法を無視した事後法で東京裁判が行われ、また教科書などでは黒塗りや改竄が施されて、日本は建国以来、悪逆非道を重ねてきた国であるということを国民に植えつけることが行われた。

 南京攻略戦で起きた戦闘に伴う事件を極悪非道の大虐殺に改竄したのは、東京・大阪などの無差別爆撃や原爆投下という非人道の大量殺戮を相殺する目的とともに、日本人の犯罪性を主張するための捏造であったことは言うまでもない。

 他方で、日本が良いことをしたという歴史の事実は抹殺され、日本人には暗黒史観が植え込まれていった。これはGHQが行った「検閲」で進められたが、戦後70年が過ぎた今日においても呪縛が解けないほどの成功を収めた。

 実際に検閲を行ったのは、英語を得意とした高学歴の5000人とも1万人とも言われた日本人である。彼らは戦後の荒廃した日本で運よく就職し、占領軍が進めた日本罪悪化・無力化の仕事に破格の待遇で貢献した。日給1000円、月給換算3万円は今日の1000万円超で、億万長者となり得たのだ。

 疚しさや後ろめたさはあっても家族を養っていくうえでの生活には代えられず、心理的葛藤を克服して東京裁判史観を受け入れ、日本は犯罪国家であると自己正当化せざるを得なかったに違いない。

 思想信条にこだわっている場合でなかったことは、ほんの一握りの人が検閲官として働いたことを告白している事実からも了解できる。

 新聞人や放送関係者、著作家たちも検閲を受け入れない限り、出版物を出すことができなかった。そこで、検閲官と被検閲者である言論人はお互いに検閲指針に従うように自主規制する癒着とも共犯とも言われる関係を築いていくようになっていく。

 江藤淳氏は『閉ざされた言語空間』で、彼らが検閲を受容するだけでなく、日本の伝統的な価値体系を破壊する危険分子に変質し、自己増殖した被検閲者が現在も日本の言語空間を支配していることを指摘した。

 70余年にわたって自虐史観が排除できないのは、このような言論空間の支配構造があるからである。

アパグループのもう1つの快挙

 アパグループには、もう1つの快挙がある。それは検閲官と被検閲者によって雪だるま式に太り続けてきた歪んだ言語空間を抉り出そうとしたことである。2008年から始まった「真の近現代史観」懸賞論文募集であり、見事に応えたのが田母神俊雄氏の論文であった。

 しかし、田母神論文の論旨や主張よりも、受賞者が航空幕僚長であったこと、また応募に当たっての上司への申請という手続きなどのTPOが主たる問題となり、論文内容の膾炙は当人の退職後の講演行脚や著書出版に譲ることとなった。

 自衛隊の計画や運用など職務に関わることであるならば、規定による手続きが必要であったが、歴史観の披瀝は自衛隊とは全く関係ないことであったが、シビリアン・コントロールの名のもとに、言論封じが行われたのも同然であった。

 「歪んだ言語空間」が依然として日本に存在していたからであろう。

 その後の東京都知事選で、当人が60万票以上の支持を得たこと、しかも若年層の支持が多かったことは、自虐史観から抜け出さないと日本そのものが解体されかねないと感じている若者が日本に育ちつつあることを示した。

 元外交官の馬渕睦夫氏は『国難の正体』で、「田母神事件の教訓」として、GHQの検閲に協力した日本人検閲官と、それを暗黙の裡に受け入れてきた被検閲者の共犯関係という黙契があったのを打ち破ったという点で歴史的快挙と述べ、「将来歴史家は戦後日本の分岐点として田母神事件を取り上げるのではないか」と書いている。

政治家こそ戦争を知る必要がある

 憲法9条があるから日本が戦争に巻き込まれることはないという政治家を見ると、「こんな人物に政治を任せていいのか」という疑問が沸いてくる。

 力の弱いフィリピンやベトナムなどが領有権を主張する南シナ海の諸島を中国は九段線で囲い込み自国領に編入しようとしている状況に鑑みても、憲法9条を守護神とみる主張を変えないのであろうか。

 中国は領海法で尖閣諸島を自国領としており、他国の侵略を力で排除する「核心的利益」とも称している。このことは尖閣諸島の「領有化宣言」であり、その先には沖縄も視野に入れているとみられている。

 観念平和主義の政治家を支える国民も少数ながらおり、しかも組織的なデモなどを繰り返して、ノイジイー・マイノリティとなって、あたかも日本国民の多くがそうであるかのような示威行動を繰り返している。

 今の自衛隊を取り巻く法体制では自分の国が明確に侵害されて初めて行動できるわけで、国民の被害を前提にしている。況や、領土に侵入して連れ去ったことを北朝鮮が認め、日本政府が拉致被害者と認定しても国家権力で取り返すことができない状況である。

 主権・領土・国民が国家成立の要素であり、存立の基本はそれぞれをしっかり守ることである点からは、主権の侵害を許し、拉致された国民を取り返せない日本は、国家の体をなしていない。

 国民さえ救えない状況をもたらしているのは、一に政治家の責任である。政治家は選挙民の要望に応えるという側面がある一方で、大所高所から国家・国民の安寧を確保することに関しては、反対する国民をも説得する義務を有している。

 スイスに憧れる日本人は多いと聞く。アルプスを擁する風光明媚なこともあろうが、永世中立で戦争と無関係な国という認識の国民が多いようである。しかし、それはとんでもない間違いである。

 自国で兵器を生産し、日本を含めた外国に輸出している。自国産の兵器で武装した国であり、国民は男女を問わず軍事訓練を受け、核兵器対処のマニュアルが各家庭には配布されており、月ごと、年ごとに相当の訓練を行なっている、国民皆兵を甘受している国である。

 クラウゼヴィッツが言うように、戦争は政治の一部であるわけで、戦争を知らなければ政治家は務まらないはずである。こうしたこともあり、スイスの政治家は軍務で良好な成績を上げた軍人から選ばれる国なのである。

 前出の馬渕氏は「憲法9条主義者のように、戦争を勉強してはいけないということは、自衛隊を有効にコントロールすることが出来る政治家を育ててはいけないといっているに等しく、このような態度こそ戦争に巻き込まれる道を開くものだという逆説に気づいて欲しい」と述べる。

おわりに

 古森義久氏のJBpress投稿記事「アパホテルに言論弾圧、中国政府がこれまでしてきたこと」によると、国際ジャーナリスト連盟(IFJ)が奇しくも中国がアパにクレームをつけた同じ日に、「中国政府による言論やジャーナリストたちへの弾圧に関する年次報告書」を発表したそうである。

 2016年の出来事を総括したこの年次報告書は、「メディアを絞殺する=中国が締め付けを強める」と題して、「中国政府は、中国本土と香港のメディアや記者、そして中国内外で活動する外国人記者に対してまでも、自国政府への批判を抑え、報道の内容を統制するために不当な法律や恣意的な規則の適用、記者たちの拘束、秘密の尋問、強制的な公開『告白』、検閲、監視、インターネット介入、記者の追放、脅し、記者の家族の拘留などの方法をとってきた」という凄まじい内容であるという。

 中国(および韓国)は今後も自国の正当化と戦後補償を求めるために、改竄した歴史認識の踏み絵を日本や日本企業などに迫るであろうが、両国とは国交回復時の基本条約などで最終的に決着している。

 この事実を重く受け止め、安易な妥協をしないことが肝腎であることを、今回の一件は教えている。

 アパホテルが中国の言論統制に屈しなかったことは、日本人に一縷の燭光を与えた。

 なお余談であるが、アパホテルには個人的に忘れ難い思い出がある。京都に出かけた折、投宿したアパホテルがダブルブッキングで他の人を部屋に入れてしまう事案があった。

 結果的に東京から再度京都に出かけることになったが、今回の書籍に関して見せた毅然とした対処と同様に、私的事案への処置が見事であった点だけを付記して本稿の締めとしたい。

筆者:森 清勇