「高梁市立図書館 HP」より

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 岡山県高梁市に2月4日、レンタル大手TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を指定管理者とする新しい市立図書館がオープンした。

 人口3万人余りの山あいの町に建造された4階建ての複合施設。開放感あふれる吹き抜けと高層書架が演出するスペースに、オシャレなカフェや新刊書店が併設された、全国で4例めとなる“ツタヤ図書館”が入居することで、オープン直後から「町興しの起爆剤になる」と手放しで持ち上げる地元メディアの報道が多かった。

 しかし、これまでツタヤ図書館の問題点をたびたび報じてきた当サイトでは、高梁市についても、昨年11月、自らの在任中にCCCを指定管理者に決定した高梁市教育委員会の委員長が新図書館の館長に内定していた事実をスクープした。市教委側の人物がツタヤ図書館の館長に就任するのは、宮城県多賀城市に次いで2例めだ。「あからさまな天下り人事ではないか」との批判も多い。

「仕事を依頼する側の責任者が、仕事を受ける側の責任者に就任する」ことで、市教委が厳しくチェックせずにCCC本位で進められる、癒着構造の危うさがそこにはある。

 ところが、まだオープンして1カ月もたたないうちに、早くも懸念が現実になる事件が起きた。

「ツタヤ図書館ではTポイントが付かないとしていたはずでないか」

 同館オープン前日の2月3日、インターネット上でツタヤ図書館に関して、疑問の声が上がった。リニューアルされたホームページ上に公開された新図書館の「ご利用ガイド」には、はっきりとこう書かれている。

「Tカードで自動貸出機(セルフカウンター)をご利用いただくと、Tポイントが1日1回3ポイント付与されます」

 事情をよく知らなければ「無料の図書館で本借りて、ポイントがつくなんてオトクだ」と驚かれるかもしれないが、これは2013年に全国初のツタヤ図書館として大きな話題を呼んだ佐賀県武雄市図書館でも導入された仕組みだ。

 だが、武雄市図書館がこの仕組みを導入した際には、公共サービスである図書の貸し出しに私企業のポイントが付くことの是非が問われた。特に、図書館利用の事実や読書履歴などの個人情報が外部の私企業に送信・保管される恐れがあることに対して、専門家をはじめ多くの市民たちから疑問や批判の声が渦巻いた。

 CCCはその可能性を否定しているが、その後にオープンした神奈川県海老名市、宮城県多賀城市のツタヤ図書館では、いずれもTカードを図書利用カードに採用してはいるものの、個人情報保護の面でより不安の大きいことなどから、貸出時にポイントは付与されないことになっている。

 CCCグループの主力事業であるTカードは、会員数が全国で5477万人(CCCが高梁市に提案書提出した15年7月当時)を誇る。Tカードを提示してコンビニエンスストアやカフェなどの加盟店を利用した会員は、支払額の0.5%または1%のポイントが付与され、そのたまったポイントを加盟店の支払いに利用できるため、特に若い人の間で普及率が高い。だが、ポイントが付与される代わりに、会員のありとあらゆる消費行動がCCCサイドに捕捉・保存され、その個人情報が本人の知らないうちに利用されたり、外部に漏洩したりする危険性をはらんでいる点を指摘する声は以前から根強くある。

 先行する3市のツタヤ図書館では、そんなTカードのデメリットが十分に告知されないまま運営されている。新規に図書館利用カードを作成する人のうち、9割以上がTカード機能付きを選択しているという事実を心配する声は絶えない。

 そんなTカードで、ポイントシステムが公共図書館の貸し出しにまで採用されることになれば、市民の個人情報保護の面での大きな不安を抱えることになると警告する識者は少なくない。

 もともと図書館の世界には、利用者の思想信条の自由を守るため、「利用者の読書事実を外部に漏らさない」という大原則を堅持してきた歴史がある。貸出データは一時保存されるものの返却後は廃棄されるため、図書館が貸出履歴を保持することはない。

 そのような事情があるため、どこの自治体であっても、図書館の外に利用者データが送信されることを前提としたポイントシステムの導入について慎重になるのは当然といえる。

●議会で「Tポイントは付かない」と明言

 実は高梁市も、海老名市や多賀城市と同じく、ツタヤ図書館にTカードを採用することは決まっていたが、Tポイント付与に関しては見送ることになっていた。

 高梁市が新図書館についてCCCと基本合意を交わした直後に開催された市議会で、Tカードの個人情報について議員から質問された際、教育次長は次のように回答している。

「Tポイントカードにつきましては、以前、図書の貸し出しにTポイントを付けるのかというようなご質問もあったと思いますが、高梁市ではそれは採用いたしません」(15年第1回定例会 3月12日開催)

 このとき教育次長は、はっきりとTポイントは採用しないと宣言していた。それにもかかわらず、蓋を開けてみたらTポイントが付与されることになっていたわけで、いわば「騙し討ち」したかたちだ。

 なぜ、このような事態になったのか。

「Tカードを貸し出しに使えるようにしたのは知っていますよ。えっ、ポイントが付く? そんな話は知りません。初めて聞きました」

 高梁市の市議会関係者に話を聞くと、初耳であると言い、驚きを隠さない。さらに、別の市議会関係者も「併設のカフェでコーヒーを飲んだらポイントが付くのは知っていましたが、本の貸し出しにまで付くとは聞いていません」と言う。その後も複数の関係者に話を聞いたが、一様に寝耳に水だと言う。

 では、CCCは議会の承認も取らずに独断でTポイント付与を決めたのだろうか。別の自治体関係者は、こう断罪する。

「もし、こんな重要なことを議会も通さずに受託事業者が勝手にやったとしたら、うちの市だったら、即指名停止処分ものです。議会イコール市民ですから、市民に説明なしに勝手なことをやったら完全にアウトです」

 だが、別の地方のある図書館関係者は、独断で導入した可能性は低いとみる。

「市からなんの同意も取り付けずに、CCCが勝手にポイント付与を始めるということは考えられません。なんらかの文書があるのではないでしょうか。しかし、議会で一度は入れないとされた制度を密かに入れることにしたというのは、やり方としては姑息だと思います」

 そこで、高梁市教育委員会に確認してみると、「その点につきましては、現在調査中ですので、今は答えられない」と返答があった。議会での承認を得ているかどうかだけでも確認させてほしいと伝えたが、「それも含めて現在調査中」の一点張りだったため、あらためて質問状を送付して回答を求めたが、期日までに回答はなかった。

 事の経過を調べたという市議会関係者が、こう明かす。

「当時の現場責任者に経緯を聞いたところ、(Tポイント導入に関して)やりとりした記憶はないみたいです。ただ、おぼろげながら、自動貸出機を導入するのに1台当たり数百万円もの費用をかけているので、利用者をそちらに誘導するために、自動貸出機を使用したときにだけTポイントを付けることを検討したと覚えていました。ただし、それがCCCと協議した内容なのか、それとも内部での話し合いだったのかは定かでないようです」

●CCCが議会を軽視している表れ?

 CCCとの交渉にあたった担当者が、こんな重大なことを覚えてないというのは腑に落ちない。

 そこで、高梁市図書館長を務める藤井勇氏に話を聞いた。同氏は、CCCを指定管理者と決定した時点では教育委員会の委員長職にあり、現在はCCC社員として館長に就任しているので事情を知っている可能性が高いと考えたためだ。だが、「まったくわかりません。許可を与えるのは議会であって、教育委員会ではありません」と関与を否定した。

 Tカード採用は議会の承認を得ているものの、Tポイントの付与に関しては導入の過程を市側の誰も知らないということは、CCCは「取り上げる必要もないほど些細な問題」として説明を省いたのだろうか。そうだとすると、あまりにも市民の個人情報保護についての姿勢がいいかげんすぎる。

 どのような経緯で導入されたにせよ、議会で「Tポイントは付かない」と教育次長が明言し、複数の市議会関係者が「聞いていない」と証言していることから、議会への説明・承認手続きになんらかの瑕疵があった可能性が高いと言わざるを得ない。

 市議会関係者に、「CCCの都合で話が進むのは、館長の天下りも影響しているのではないか」と質問すると、「大いに影響していると思う」と認めつつ、こう続ける。

「こんな重大なことを議会の承認なしにやったとしたら、大変な問題だと思います。裁判沙汰になってもおかしくない事案なので、今後議会で厳しく追及していくつもりです」

 図書館関係者たちからは「CCCは、高梁市を侮って無視して進めているのではないか」との見方も出始めている。

さらに調べていくと、図書の貸し出し時にポイント付与することは、議会承認の存否とは別に、市がCCCと交わした基本協定書に違反している重大な問題である可能性が出てきた。その点は、次号で詳しくみていきたい。

 なお、もう一方の当事者であるCCCにも、この件の経緯について説明を求めたが、「市に問い合わせてほしい」として回答を得られなかった。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)