ゲームの流れを変えるプレーも見せた森島。敗戦にも光を見出せる試合だった。写真:川本 学

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 キャンプで発揮できたことが、どうしてできないのか。
 
 そんな会話がミックスゾーンで交わされる。でも、現状は想定の範囲内だろう。トレーニングマッチと公式戦との違いもあるし、相手のレベルや対策の有無もある。キャンプから新潟や清水のように完全に引いて守るチームもいない。「ドリブルで突破しようにも、6人も7人も抜けない」というフェリペ・シウバは嘆く。キャンプでは無双だった彼も、Jリーグの守備の徹底ぶりに驚きを隠せない。
 
 だが、それよりも痛いのは、キャンプで絶好調を維持していた柏好文と青山敏弘が清水戦で不在だったこと。柴崎晃誠やアンデルソン・ロペス、佐々木翔。誰よりも広島のことを分かっているオーガナイザー=森崎和幸も、清水戦の先発ではなかった。つまり、広島は本来、ピッチに立つべき6人もの選手を欠いていた。
 
 もちろん、離脱者は言い訳にはならない。清水も竹内涼や河井陽介といった主力を失っていた。とはいえ、広島はあまりに多すぎる。特に今季は前線の3人が完全に入れ替わり、しかもアグレッシブな守備を森保監督は求めている。戦術も人も変わっている状況で、主力も欠く。これほどの試練はない。
 
 ただ、こういう厳しい時こそ新星が飛び出してくるもの。森島司。まるでミッキーマウスのような笑顔を持つ癒やし系だが、ピッチに立つと様相が変わる19歳だ。
 
 清水戦で彼はボランチに入った。圧力をかけられる中でボールを失わず、守備でも人に強くいってボールを奪うこともできていたが、「ゆっくりとした展開になると相手も中を閉めてくる」(森島)状況の中で、何ができたか。バックパスが多くなり、大きな展開や攻撃のリズムを作れない。
 
 彼が輝きを放ったのは、やはり57分、トップ下に入った後だろう。もっとも位置が変わった後の5分間、森島はボールに一度も触っていない。狭い場所でどうボールを引き出すか、周りをどうサポートすればボールに触れるのか、そこは学ばないといけない。
 
 だが68分、水本裕貴から柴崎晃誠、稲垣祥を経由したボールを受け、スルーパスを工藤の飛び出しに合わせた場面は秀逸。シュートにこそ至らなかったが、バイタルエリアで二人のDF間を精密に通したパスは、それまでの広島になかったアイデアだった。中を閉められているから外へ、ではなく、あえて中を突く。若者らしい挑戦心が、ゲームの流れを変えた。
 
 さらに69分、柴崎からのボールを受けた19歳は、果敢に攻める。「少年時代はサイドハーフでスピード系だったんです」という彼の言葉を裏づけるように、一気のドリブルでふたりを置き去りにした。新潟戦の「5人抜き」を思わせる突破に、スタジアムの熱量は上がる。シュートを撃とうとスピードを少し落としたところで松原后のハードタックルに捕まってしまったが、こういう場面も前半にはなかった。
 スタジアムが興奮に酔いしれたドリブル突破の直後に交代してしまったが、19歳の若者が作った空気のまま広島はチャレンジシップを取り戻し、塩谷司や工藤の決定機を生み出したのだ。
 
「ボランチの時もよくボールを受けてくれていたし、全体的にはよかった」と森保監督も評価する。
 
「Jリーグのスピードを、今は体感している時期。だから判断のところで遅くなって、相手に突かれたりボールを奪われたりすることもある。ただそこは、彼が成長するための過程であり、必要な経験だから」
 
 3月7日から彼は、U-20日本代表合宿に入る。アジア最終予選の時は怪我で離脱中だったが、ボランチでも攻撃的な位置でもやれるポテンシャルを、Jリーグの舞台で証明した。四中工や広島での先輩・浅野拓磨(シュツットガルト)のハングリーさとは違う、「よく『ゆとり世代だろう』って言われます」と本人が言うほどの大らかさ。だが、一人でゲームの色彩を変えるという爆発力を持っていることは、共通している。
 
 U-20も、そして広島も、森島司という大きなジョーカーを手にしつつあるのかもしれない。
 
取材・文:中野和也(紫熊倶楽部)