【詳細】他の写真はこちら

Base Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。今回は、妻夫木聡と満島ひかり出演のミステリー「愚行録」。原作小説を読んでいた小出部長はその映画化っぷりに驚いたという……。


活動第33回[前編]「愚行録」

参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子(チャットモンチー)、世武裕子



 


えっ、この再構成めっちゃうまくない?


──「みんなの映画部」第33回。今回は貫井徳郎の傑作ミステリー小説を映画化した「愚行録」です。まずは小出部長、恒例のひと言からよろしくお願いします。


小出 めっちゃよかったです。


一同 (拍手)


小出 原作を読んでいる人間からすると「えっ、この再構成めっちゃうまくないです?」って感じでしたね。


福岡 そうなんや!


──映画用の群像劇として、ものすごくきれいに整理していましたよね。「日本はね、格差社会じゃなくて階級社会なんですよ」とか、映画オリジナルの決め台詞も結構多くて(脚本は「リンダ リンダ リンダ」「聖の青春」などの向井康介)。


小出 そうそう。原作はあるひとりの記者が、一家殺害事件の被害者についていろんな関係者にインタビューしていく、っていう内容なので、登場人物がこちらに向かって語り続けるような文体になっているんですよ。


世武 原作では被害者のことを話しながら、結局、みんな自分で自分のことを語っちゃっているんだよね。だから、みんな自己中で、もっとエグいんですよ。そこの深掘りが私は好きだったから、映画はそのエグみがちょっと削がれちゃったかなと。それなりのエクスキューズが全員にあって、ちょっと普通になっちゃった感がある。


小出 たしかにそれはそうなんですよね。


世武 私は原作者の貫井徳郎さんのドライなタッチがすごく好きで。それに比べると映画はちょっとジメっとしているというか、わりとオーソドックスにジワジワ感を演出していて。ただ原作うんぬんじゃなく、映画単体として観ると、すごくうまくできているなとは思った。


小出 なるほど。たしかに「原作がいいか、映画がいいか?」で議論すると、意見は結構割れるみたいで。僕の場合は、原作のトリッキーな結末がちょっと俗っぽく感じちゃうんですよ。


話は2000年に起こった「世田谷一家殺人事件」という実在の未解決事件をモチーフにして、そこにフィクションをたっぷり肉付けしているんですけど、犯人像についてはやっぱりこういう極端なところにきたかぁっていう印象があって。


映画だと主人公の記者・田中武志(妻夫木聡)がいろいろな関係者に話を聞いていく。彼には育児放棄の疑いで逮捕されているワケありの妹(満島ひかり)がいる。で、兄妹が抱えているらしい問題をほのめかしつつ、田中は取材のなかで殺された一家、特に夫妻の人生や、それぞれの関係者の人生の輪郭を捉えていくと。


そういう意味で映画版では非常にうまく整理されていて、動機についてなるほどと思えるところまで持っていく。原作は、より悪魔的ですよね。


世武 私はまさにそれとまったく同じ理由で、そこも原作のほうがよかったんだよ。


小出 じゃあ悪魔的なほうが惹かれるんだ。


世武 より悪魔的なほうがいいし、想像の余地が残るほうがいい。映画はやっぱり“見えすぎ”ちゃう。そこは視覚表現だから当たり前なんだけど。


──ストレートだな、っていう感じ? 因果関係もはっきりしてますしね。


世武 そう。私は気持ち悪いまま突き放されたかったんですよ。なのに、わりと普通……っていう(笑)。


小出 殺人にちゃんと“理由”があったことがね。


世武 そう。魅力的な不完全体が、わざわざ完全体になっちゃったというか。整えられすぎちゃった。贅沢な不満ですけど。


 


女子同士の嫉妬とか憧れとか。まぁ、べつによくある


──原作を読んでない派のあっこちゃんはどうでした?


福岡 ええと、めちゃくちゃシンプルに言うと、もっと怖かったらよかったなと思った。


小出 あ、本当?


福岡 たぶん印象は世武ちゃんと近くて、腑に落ちすぎる感じというか。例えば「ゆれる」(2006年/監督:西川美和)って、人間の黒でも白でもないところ、グレーな怖さとか曖昧さをしつこく突き詰めていくやん。


でも今回の映画は半分ぐらいで何かわかってきて、最終的にも「やっぱそうなんや」って納得してしまったから。「人間って怖い」っていうほどでもなかったというか。


世武 それね、たぶん、私とあっこびんが女やからと思います。


福岡 ああ、それはあるな。


世武 この映画の女たちの怖さは普通やから。あれぐらい普通だから。


──「マウンティング女子」の世界ね(笑)。


小出 スクールカースト描写もまた残酷でしたな。


世武 「どっちが上か」って値踏みする感じとか、女子同士の嫉妬の仕方とか、もしくは憧れとか。まぁ、べつによくある。


──女子的な見方と、男子的な見方でだいぶ印象が変わるんじゃないかなっていうのはよくわかりますね。


世武 特に映画だと原作よりもそれが強く出ちゃうと思う。


福岡 うん。あと登場人物たちの大学内のエリート意識みたいなのが強烈で。そこはすごい世界やな、と思った。


──映画では「文應大学」という架空の学校名になっているけど……。


小出 原作では慶応と早稲田ってハッキリ出てる。あと、原作は舞台がバブルの時代なんですよ。


福岡 そうなんや?


小出 バブル期だからカーストもより派手に感じるよね。大学の放課後に男がエスコートして飯食いに行くなんて、今はちょっと考えにくいじゃない(笑)。いくらあんなお嬢様お坊ちゃま学校だとしても。


世武 映画もバブル感は漂っているんだよね。でも普通にiPhoneを持っていたりするから、そこはちょっと曖昧だった(笑)。


福岡 でも、あの「内部生」(附属校から大学に来た組)と「外部生」(大学から入った組)の階級差みたいなのって壮絶やなって。この大学特殊やな〜と思った。


世武 私は京都やけど、そういう感じの学校やったんですよ。実際、内部生はイケてる子、お金持ちの子が多かった。だからすっごいリアルにわかったよ。


福岡 そうか。でも外部生やのに内部生の中にいつの間にか馴染んでしまう、夏原(松本若菜)さんみたいな美人の子は、私の周りにも実際おった!


世武 いるよねぇ〜。


──彼女は「あるある」なんだ(笑)。


福岡 おるおる! この子、すごい食い込んでいっとる! みたいな(笑)。


世武 ああいう感じで食い込む!


福岡 フワッと行って階級差を消していく感じ。すごい家柄の子たちの中にも全然ひるまないで自然体で入って、知らん間に輪の中心になってるような。


小出 その夏原さんと、エリート大学生から勝ち組社会人の道を歩んでいく田向浩樹(小出恵介)が結婚するんだけど、実はその経緯って全然描かれてないでしょ。


世武 そうなの。原作でも映画でも、ふたりがどういう流れでくっついたのかよくわからない。


小出 でもこのふたりがくっつくのって、めっちゃ納得できるんだよね。そこの説得力は原作も映画もすごい!


TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)



観賞後、感想会の場となる喫茶店に向かう部員たち。集合時は大雨。またしても悪天候だった連載取材でした。


[後編](3月7日配信予定)につづく