バンドじゃないもん!

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 ビビッドなメンバー・カラーで色わけされているアイドル・グループは多い。そうしたグループは、衣装どころかアートワークもサウンドも画一化しがちだ。しかし、そうしたアイドル・グループの群れからバンドじゃないもん!が勢いよく抜けだして、彼女たちのアイデンティティをがっつりと表出しているのが、メジャー1stアルバム『完ペキ主義なセカイにふかんぜんな音楽を♡』だ。

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 別にバンドじゃないもん!は他のアイドルを意識していないだろうし、単に自分たちの好きなものを追求しただけだろう。バンドじゃないもん!は、メンバー6人中3人が楽器の演奏もする、単なる「アイドル」でも単なる「バンド」でもない不思議なグループだ。そんなバンドじゃないもん!のミュージシャンとしての資質がアルバムで結実した結果、アイドルどころかJ-POPシーンの中でも異彩を放つ作品となっているのが『完ペキ主義なセカイにふかんぜんな音楽を♡』なのだ。

 冒頭の「青春カラダダダッシュ!」からして、メンバーのボーカルのパート割のあまりのめまぐるしさに軽く酩酊したほど。また、サビまでの情報量を多くして、サビで一気に開放感を出す手法はアイドルの楽曲で散見されるが、「青春カラダダダッシュ!」は最初から最後まで情報量が多いまま進行してしまう。意外なほど構造が複雑で、意外なほどファンキー。作詞作曲編曲を担当しているQ-MHzは、畑亜貴、田代智一、黒須克彦、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)から成るプロデュース・チームで、彼らは本作にも収録されているシングル曲「キメマスター!」の作詞作曲編曲も手がけている。

 BABYMETALへの楽曲提供でも知られるゆよゆっぺが作詞作曲編曲した「しゅっとこどっこい」も異様な展開をする楽曲だ。ゆよゆっぺは、「タカトコタン-Forever-」や「速い曲」といった、バンドじゃないもん!のライブで重要な「暴れ曲」を提供してきたが、本作では楽曲の構造がさらに複雑化。しっとりと始まったかと思いきや、ロックやラップ、挙句には体操コーナー(!)まで登場する楽曲となった。

 続く「夏のOh!バイブス」もシングル曲で、NAOTO(ORANGE RANGE)がプロデュースしたキャッチーさの塊のような楽曲だ。

 本作でももっとも話題を呼んでいるのは、HISASHI(GLAY)が作詞作曲編曲した「君はヒーロー」だろう。HISASHIが初めてアイドルをプロデュースした楽曲だ。ギター・ロックではあるもののGLAYのイメージとも異なり、どこかせつなさを含んでいる点が余韻を残す。

 DogPが作詞作曲編曲した「結構なお点前で」は和風のメロディーとサウンド。そこから浜野謙太作詞作曲、在日ファンク編曲のシングル曲「YAKIMOCHI」への流れはなかなか強烈だ。なぜなら、「YAKIMOCHI」はまさにJBマナー、つまりジェームス・ブラウンの影響の濃いファンク・ナンバーだからだ。アイドルがここまでストレートなファンク・ナンバーを歌っていること自体が珍しい。「YAKIMOCHI」は、本作にも収録されているはっぱ隊のカバー「YATTA!」と2枚同時にシングルでリリースされたが、チャートでは誰もが知る「YATTA!」よりも「YAKIMOCHI」のほうが上だったことにも驚いたものだ。なお、「YATTA!」は原曲と同じくDANCE☆MANがアレンジを担当している。

 ちなみに、シングル曲でまだ触れていないのは、「YATTjavascript:void(0);A!」のカップリングであった、村カワ基成作編曲の「すきっぱらだいす♡」のみ。アルバム15曲のうち、シングル曲は5曲にとどまり、新曲が10曲を占めるという気合いの入りっぷりだ。

 そしてアルバムは中盤から重要な展開を見せていく。そこには、ライブの熱狂から一歩置いたメロウな楽曲群が存在しているのだ。

 増田武史が作編曲した「ドリームタウン」では、バンドじゃないもん!のリーダーである鈴姫みさこが「みさこ」名義で作詞した歌詞も重要だ。そこで描かれるのは、東京に上京してきた女の子の姿。バンドじゃないもん!の歴史の中では、2012年にリリースされた「Back in you」(ミニ・アルバム『バンドじゃないもん!』収録)から続く、ファンシーでせつない楽曲の系譜に置くことができるだろう。その系譜に、鈴木智貴作曲、出羽良彰編曲の「ロマンティック♥テレパシー」をさらに置くこともできる。ストリングスの音色が響くドリーミーなポップスだ。

 なお、本作で「強気、Magic Moon Night〜少女は大人に夢を見る〜」を作曲している本田光史郎は、「ドリームタウン」を作編曲した増田武史と同じくスマイルカンパニーに所属している作家だ。

 ムラマサヒロキ作曲、山岡広司編曲による「秘密結社、ふたり。」は、哀愁漂う歌謡曲色の濃い楽曲。秘密の恋愛を描いたみさこによる歌詞はここでも冴えている。メンバーごとの声質の個性もよく出ており、ボーカル・グループとしてのバンドじゃないもん!の新生面でもある楽曲だ。

 また、アカシックの理姫が作詞、奥脇達也が作曲し、TSUCHIEと奥脇達也が編曲した「ピンヒール」は、ピアノやオルガンの音色が印象的なサウンド。最後の最後までエレキ・ギターはうなるのを抑えており、驚くほど大人っぽい楽曲だ。

 そして本作の最後を飾るのは、みさこ作詞、ミナミトモヤとKOJI oba作編曲の「エンド・レス」。ミナミトモヤとKOJI obaは、バンドじゃないもん!に最初期から楽曲を提供してきた作家だ。バンドじゃないもん!には「ショコラ・ラブ」という代表曲があるが、その「ショコラ・ラブ」へのアンサーソングが「エンド・レス」なのだ。「ショコラ・ラブ」が初めて演奏されたのは2011年なので、6年後に生まれたアンサーソングということになる。バンドじゃないもん!の歴史が静かに詰まった楽曲だ。もちろん、そんな経緯を知らなくても、メロディが磨きあげられた楽曲として楽しむこともできるはずだ。

 『完ペキ主義なセカイにふかんぜんな音楽を♡』でのバンドじゃないもん!は、特に中盤から終盤にかけて、ときにせつなく、ときにメロウで、ときに大人っぽい表情をこれまでになく見せている。バラエティや大衆性のみならず、深みも驚くほどあるのだ。それゆえに、「ふかんぜんな音楽」と題されたこのアルバムは、アイドル・ファンのみならず、不完全な心を抱えている多くの人々に広く聴かれるべきなのだ。(宗像明将)