三菱商事本社 photo by Kakidai CC BY-SA 3.0

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 女性社員の過労死問題の紛糾から労基署の強制捜査が行われ、図らずも「働き方改革」の象徴のような企業となっている電通。昨年はトヨタなどのクライアントに対して、ネット広告の効果を不正に水増しして伝えていたという不祥事も明るみに出るなど、厳しいニュースが相次いだ。

 しかし、2016年度12月期の決算は当期利益が835億円と、昨年度の726.5億円を上回った。テレビ広告を柱とする国内の事業が堅調に推移したのと、海外事業が買収によって伸び続けたからだ。

 だが、同社の有価証券報告書を読むと、「当期包括利益合計額」という指標はなんと342億円もの大赤字。これは一体、どういうことだろうか?

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 また、資源価格の暴落により多額の減損損失を出し、昨年度は創業以来初の赤字転落という屈辱を味わった総合商社最大手の三菱商事。

 今年度は第3四半期までで3715億円もの四半期利益を計上、昨年度純利益でトップに立った伊藤忠商事から再び首位を奪還する勢いだ。しかし、三菱商事も「四半期包括利益合計額」を見ると、四半期利益からほぼ半減の2160億円となっている。「包括利益」とは何なのか?

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 包括利益とは、企業の資産に占める負債以外を示す「純資産」が一定期間において増えた額のうち、資本金や資本準備金以外によるものの額を表している。図示すると以下のようになる。

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 企業の純資産とは、ざっくり言えば「返済しなくていいお金」だ。そのため自己資本とも言われる。この純資産は資本金や資本準備金といった「株主のお金」と、一定期間に企業が稼いだお金(収益ー費用)を示す「当期純利益」、そして「その他の包括利益」からなる。

 この「その他の包括利益」は、保有する土地や株式の含み益・含み損や、先物取引やオプション取引によって生じる繰越ヘッジ損益、海外子会社への投資後の為替変動による損益、金利変動によって生じる退職給付にかかる調整額などからなる。

 要するに、当期純利益が出ていても包括利益がマイナスとなるのは、金利や為替、保有する資産の評価額の変動によって「その他の包括利益」が大幅に赤字となった場合だ。

 実際に電通と三菱商事の例を見ていこう。

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 電通の損益計算書に記載されている「その他の包括利益」の内訳を見ると、「在外営業活動隊の換算差額」という項目で1336.7億円もの赤字が計上されており、当期純利益の黒字分を吹き飛ばしている。

 売上から原価を引いた「売上総利益」ベースでは海外事業の割合が約54%に達し、2017年度には55%にするという目標を達成することがほぼ間違いないほど、海外展開に積極的な電通だが、海外子会社の資産には多額の含み損が出てしまっているということだ。その結果、昨年度期には1.1兆円を超えていた自己資本は1兆円を割り込み、9820億円ほどとなっている。

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 三菱商事の「その他の包括利益」も見てみよう。

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 三菱商事も電通と同じく、「在外営業活動体の換算差額」においての損失が大きく、790億円ほどの赤字が出ているが、それを上回る1468億円の赤字となっているのが「持ち分法適用会社におけるその他の包括利益に対する持分」だ。

 投資会社として様々な会社の株式を保有している三菱商事だが、そちらはまだまだ本調子ではないらしい。

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 ちなみに3月12日発売の拙著『東大式 スゴい[決算書の読み方]』で、実は三菱商事を上回る最大の総合商社として挙げたソフトバンクは「その他の包括利益」として475.7億円の黒字を稼いでいる。

 日本企業の有価証券報告書に「包括利益」が表示されるようになったのは近年になってからである。

 あくまで一時期における収益と費用の差額を見る当期純利益を重視する考えもあるが、海外企業の出資・買収によって成長を実現しようとする日本企業が増えていく中にあって、「包括利益」の概念は重要性を増していく。保有している土地や株式に含み損が出ていないかどうか、チェックが必要だ。

<文/大熊将八>

おおくましょうはち○国内外の企業分析を行い、「週刊文春」「現代ビジネス」「東洋経済オンライン」「ハーバービジネス・オンライン」」などに寄稿。東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。3月12日には新刊『東大式 スゴい[決算書の読み方]』を発売予定。twitterアカウントは@showyeahok