時間はかかっても、自分のやりたいことを見つけたい。

現在、美容と健康のために正しいオイルの使い方をアドバイスする「オイルソムリエ」として活躍するAKI(あき)さんが、本当にやりたいことを見つけたのは40代になってから。

リポーターやMCとして地元メディアで活躍した20代、体調不良に悩まされ、治療に専念した30代を経て、今に至るまでの試行錯誤の道のりを聞きました。

〈AKIさんがやりたいことを見つけるまで〉

20〜24歳:短大卒業後、地元・北海道の銀行に勤務。結婚を機に退社。
25〜34歳:司会業、テレビリポーター、情報番組のMCとして活躍。
34歳:原因不明のめまいに襲われる。
38歳:夫の転勤にともない上京。
42歳:美容オイルの世界に飛び込む。46歳で「オイルソムリエ」の資格を取得。

24歳で寿退社、やりたいことを探し続けた20代、30代

テーブルにズラリと並んだオシャレでカラフルなボトルたち。実は、その正体は、“飲む”美容オイル。お客さんの体調や好みをヒアリングしながら、専用スプーンにオイルを垂らしてテイスティングを促していきます。

「その人にあったオイル選びのアドバイスをするのが私の役割。オイルを通じて、いろいろな人をハッピーにしたいんです」

笑顔で話すオイルソムリエのAKIさんですが、彼女が本当にやりたいことを見つけ、自分らしい働き方を手にしたのは、40代に入ってからでした――。

地元の短大を卒業後、銀行で4年間働き、24歳で寿退社。その後は、イベントやブライダルの司会業をしながら、リポーターや情報番組のMCとしても活動。刺激的で充実した日々を過ごしていた彼女に異変が訪れたのは、30代に突入して間もない時期でした。

「疲れが抜けない、むくみがひどいといった症状に始まり、朝目が覚めると、めまいで天井がグルグル回って起き上がれないという状態に。いろんな病院に行っても病名が分からず、“これが老化の始まりなんだ、慣れるしかないのかな”と、半ば諦めかけていました」

体調不良を克服してきた経験から、「体が本来持つ力を高めることの大切さ」を痛感しているというAKIさん。オイルを日常的に取り入れることで、血管や血液のケアに繋がり、内側からキレイになっていく。

薬を飲むと一時的に症状はおさまるけれど、一向に治る気配はなし。不安で気持ちが沈む日々が続きました。病院での治療に疑問を持ち始めたそんな頃、“体のめぐりをよくして免疫力を高める”という東洋医学に出会います。

治療に専念すべくいったん仕事を断念。鍼や気功に通いつめ、処方された漢方を飲み続けること1年あまり――。あれほど悩まされためまいがピタリと治まっていました。

気力を取り戻したAKIさんは、美容外科の受付として働きだすことに。当時、ブームだった美容整形のビフォーアフター番組に衝撃を受けたことがきっかけでした。

「このスゴイ技術をこの目で見てみたい!と好奇心がうずいたんです」

その後、38歳で夫の転勤に伴って上京すると、今度は、日本に普及したばかりのレーシックに興味を持ち、ここでもまた「このスゴイ技術をこの目で見てみたい!と好奇心がうずき専門眼科の門を叩きました」とAKIさん。“経験してみないとよさが伝えられない”と、自ら手術も受け、4年ほど勤めます。

エステサロンを開業するも、開店当日に被災

オイルとの出会いは、ちょうどその頃。ひどい肌荒れに悩まされ、オールハンドのエステに通っていた時に、オイルマッサージを受けて肌がみるみる元気に。

実は、それまでオイルに対し、「べたつく」「酸化して肌が老けるのでは?」といったマイナスイメージを抱いていたAKIさんでしたが、“いい水といいオイルさえあれば、肌が健やかになって強く育つ”いうシンプルな理論を自らの肌で実感。オイルの持つ力に魅了されていきます。

本格的にオイル美容の世界に踏みだしたのは、42歳の時。レーシックの眼科に勤める傍ら、通っていたエステサロンで施術を学んだAKIさんは、横浜でサロンを開業することを決意します。しかし、オープン初日に東日本大震災が勃発。予約はすべてキャンセル、電気も水も止められて、営業の見通しが立たない状況に。

そんな時に使ったあるホホバオイルに、「心が掴まれた」というAKIさん。

「使い心地や潤いが、これまでのものとまったく違っていたんです。ホホバオイルは脇役にすぎないという考えが覆され、“本物に出会ったんだ”と心が躍りました」

いったいどうやって作られているんだろう。この目で現場を見てみたい――。

そんな思いに突き動かされ、「ここで働かせてください!」とメーカーに直談判。そこで出会った創業者の娘さんであるYUKIEさんから、「食と美容オイルの「良質なオイルの選び方や効果的なオイルの摂り方など学べる環境(協会)を作り、オイルソムリエを育成する学校を作りたい」という話を聞きます。

「オイルブームで巷には商品が溢れているのに、体系的な正しいオイルの知識を持つ人はほとんどいませんでした。プロを育成することが大切だというYUKIEさんの思いに賛同し、協会の立ち上げを手伝うことにしたんです」

「正社員じゃなきゃダメ」と囚われていた自分

2014年に協会を発足すると、みずからも1期生としてソムリエ資格を取得。現在は、オイルソムリエとしての活動をしながら協会の講師も務め、自分のサロンワークも行うという“3足のわらじ”生活を送るAKIさん。いくつもの仕事を派生させていく理由は、「楽しく自由に働きたい」という思いから。

「昔は“正社員じゃなくちゃダメ”と考えていた時期もありました。でも、立場に関係なく、自分がワクワクできる仕事に関わることで、毎日がハッピーになって心が自由になる。すると、本当にやりたいことが見えてくるんです。そう思えるようになったのは、40代に入ってからでしたね」
 
自分のなかの“ワクワク”を無視していると、次第に感覚が鈍って心が枯れ、“何を好きで何がしたいか”が、わからなくなってしまうもの。とはいえ、一歩踏み出す勇気が持てず、躊躇してしまう人が多いのも事実です。

AKIさんの“軽やかに飛び込む勇気”はいったいどこから――?

「知りたい、見たい、やってみたいと思ったら、経験せずにはいられない性分(笑)。どうしようかなと迷っているうちにチャンスを失って、後悔するのがイヤなのでしょうね」

しかし過去には、職を転々とする自分にコンプレックスを抱いたこともあったといいます。

「ひとつの道に没頭している人を見ると、“やりたいことを見つけられてうらやましいな。それに比べて自分はなんて飽き性でダメなんだろう”と自信をなくしたこともありました」

さまざまな仕事を経験が自分の幅を広げたと、前向きに考えられるようになったのは、オイルソムリエとして活動するようになってから。

「いろんなお客さんの気持ちに共感でき、いろんなアプロ−チができる。これまでの経験がムダじゃなかったんだと思えるようになりました」

“やりたいこと”で生きていく――。それを見つけるヒントは、自分のなかの“ワクワク感”にフタをせず、素直でいること。AKIさんの満ち足りた笑顔がそれを物語っています。

「もしも踏み出してダメだったら、元の場所まで戻ればいいだけ。行動する前は、頭でっかちになってしまいがちだけれど、実は失うものなんてそこまでないんじゃないかなと思うんです」

西尾 英子