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●日米の資産運用の考え方の違い
日本発のFinTech企業であるWealthNavi(ウェルスナビ)は、富裕層や機関投資家が使う金融アルゴリズムを提供するロボアドバイザーサービスを提供している。同サービスは、ポートフォリオ理論に基づき、国際分散投資を行うというもの。ユーザーが目標金額とリスク許容度を設定すると、それに合った上場投資信託(ETF:Exchange Traded Funds)のポートフォリオが組まれ、ニューヨーク証券取引所に発注される。いわば、全自動の資産運用サービスだ。

さらに同社は、クレジットカードや電子マネーによって買い物した際の端数を自動的に積み立て、500円に達するとその都度投資を行うというサービスを今春にも提供開始する。同社が目指すFinTechサービスとはどういうものなのだろうか。CEOの柴山和久氏に話を伺った。

ウェルスナビ CEO 柴山和久氏プロフィール
2000年に東大法学部を卒業後、財務省に9年間勤務。
ハーバード大学にて金融取引法を学んだ後、日英の財務省で予算、税制、国際交渉に参画。
INSEADで金融工学を学んだ後、2010年にマッキンゼーに入社。
ウォール街に本拠地を置く機関投資家に対する10兆円規模のリスク管理・資産運用プロジェクトに携わる。資産運用プロセス・ガバナンスの見直しやリスク管理に基づく戦略的資産配分(SAA)の 策定を実施。
2015年3月に退社し、TECH::CAMP第6期に入学。わずか5週間でサービス開発。
卒業直後に、次世代の金融インフラを構築したいという想いから、2015年4月にウェルスナビを創業。ニューヨーク州弁護士登録。

--マッキンゼーで、ウォール街の機関投資家に向けた10兆円規模のリスク管理とアルゴリズムに基づく資産運用に携わっていた際に起業を決断されたと伺いました。きっかけは何だったのでしょうか。

大規模な資産運用は、数式をベースに行われています。しかしそうであれば、10兆円規模でも10億円規模でも10万円規模でも変わらないはずです。なぜ、こういったアルゴリズムに基づく資産運用サービスが富裕層だけに限定されているのだろうかと、マッキンゼーで業務を行ううちに疑問を持つようになりました。富裕層向けの金融サービスを誰でも使えるようにしたいという考えが、起業の"縦糸"としてあります。

--では、"横糸"となるものは何でしょうか。

アメリカ人の義理の母から「自分の資産がきちんと運用されているのか確認して欲しい」と相談を受けた際、その資産の額に驚きました。私の両親と義理の両親を比べると、同じような年齢・学歴・経歴なのにも関わらず、金融資産に10倍くらいの差があったんです。

義理の両親が勤めていた大企業には、若手社員のころから完全にお任せで資産運用ができる福利厚生制度があったようです。現在のウェルスナビのようなサービスを、長い間受けていたということになります。「私の両親が若いころに、日本でもこういった誰でも使えるサービスがあれば良かったのに」という"横糸"の思いと、"縦糸"の思いが合わさったことで、起業に至りました。

--ウェルスナビ設立の直前の2015年3月にマッキンゼーを退社されていますが、このころにはすでにウェルスナビの青写真はできていたのでしょうか。

青写真はありましたがモノができていなかったので、プログラミングキャンプに通い、自分でサービスのプロトタイプをAmazon Web Services(AWS)上で開発しました。これをベンチャーキャピタルの方に見てもらうことで、資金調達を行いました。ビジネスプランだけでなく、実際に動いているモノがあるというところが評価されたのだと思います。

--ロボアドバイザーのようなサービスが日本で成功するポイントは、どこにあると考えられたのですか。

まず、アメリカのサービスをそのまま日本に持ってきても、資産運用の考え方が全然違うのでうまくいかないと思いました。アメリカの人たちの銀行預金の割合は、資産の1〜2割程度でしかありません。「自分の資産がどれくらいありますか」と聞かれたら、アメリカの人はまず年金基金、投資信託、株をあげて、最後に銀行預金について答えます。一方、日本の人は、真っ先に銀行預金を思い浮かべるのではないでしょうか。こういう状況ですので、日本においては、預金とサービスをどれだけうまく連動させられるかというところが要になってくると考えています。

--日本でも、ユーザーがきちんと理解すれば、預金を投資に回していこうという機運が生まれてくるのでしょうか。

間違いなくそうなると思います。噴火する寸前のマグマが、すぐそこにあるという意識でいます。退職金や年金制度は少子高齢化が進むと維持できないので、将来的にはおとぎ話のような制度になっていくのではないでしょうか。こういった状況のなか、若い世代を中心に漠然とした不安感が広がっています。

私が起業した時、日本では、ハイ・イールド債やFXなど、海外の投資家であれば購入をためらうであろうハイリスク・ハイリターンな金融商品が売れていました。私も金融工学を学ぶ前は、自分の知っている有名な会社の株を購入して損をしていたのでよくわかるのですが、将来が不安なので自分で調べて投資をしてみてもうまくいかない。投資に対する成功体験がないので、ハイリスク・ハイリターンな商品を求めてしまうのです。一方で、資産の大部分は預金にあるという、両極端なことになっているのが現状です。

そうではなく、給料数カ月分の預金をとっておいて、残りはリスクを分散してコントロールしながら投資するのがあるべき姿なのですが、起業した当時、日本には我々のようなサービスが存在していなかったので、そこに対するニーズはあるという思いが強くありました。

●FinTechのサービスが日本できちんと普及していくポイント
--「Fintech」という言葉ができてから何年も経ちますが、日本ではなかなかサービスが出てこないという印象があります。一方、中国ではコンシューマー向けのサービスがどんどん出てきているように思います。海外と比較して日本のFintechの特徴はどこにあるのでしょうか。

Fintechという言葉が出てきたのは、シリコンバレーなどいわゆるスタートアップの世界からで、金融機関側から出てきたものではありません。そういう意味では、アメリカでも割りと最近の動きだと思います。日本の場合、Fintechは3つの要素から成り立っていると考えています。それは、スマートフォンとクラウド、金融APIです。Fintechについて、私は「金融の民主化」という言い方をしています。大企業向けのサービスが中小企業や個人事業主でも使えるようになったり、富裕層向けのサービスが普通の人でも利用できるとうになったりというところが特徴だと思うのですが、この3つの要素がそれを可能にしているのです。

証券取引システムのすべてをAWS上で自社開発しているのは我々が日本初なのですが、このガイドラインができたのは、サービスをローンチする半年前の2015年秋ごろでした。それまでは、証券取引システムをクラウド上に置くシステム安全基準がなかったんです。金融機関として、テクノロジーを使ってイノベーションを起こしていくという意味でのFintechは、環境が整備されてまだ1年程度しか経っていないということですから、まさにこれから出てくるのではないかと思っています。

--ウェルスナビのサービスを利用する人たちは、具体的にどういう人たちですか。

30〜50代の働く世代が圧倒的に多いですね。20〜50代がユーザーの90%を占めています。また、投資経験のある人が全体の8割以上だと思います。我々は、年収が高く、また投資経験がある人をあえて狙っています。

--それはなぜですか。

まずは、厳しい目を持っている人たちに選んでもらいたいという理由からです。投資の初心者は、投資経験のある人たちに選ばれているサービスを使いたいと思うのではないでしょうか。ですので、あえてウェルスナビでは最低投資額を100万円に設定しています。

また我々は、Webサイトでアルゴリズムを公開しています。投資・資産運用の初心者には理解できないかもしれませんが、資産運用のプロの方や、大学で金融工学などを専攻している方であれば、これを見ればウェルスナビが正しいことをやっているかどうかがわかるはずです。そういう部分をガラス張りにすることで初めて、お任せサービスが成り立つと考えています。従来の金融サービスに比べ、手数料やアルゴリズムなどの透明性や情報開示などの水準を自主的に高く設定していかなければなりません。

--FinTechのサービスが日本できちんと普及していくポイントは、どこにあるとお考えですか。

Fintechのサービスで日本の社会が良くなるかどうかだと思います。そのためには、金融サービスが金融サービスでなくなることが必要だと思っています。たとえば我々は、買い物した際のお釣りを投資にまわせるサービスを今年の春に始める予定です。これにより、投資は自分とは関係ないものであるとか、お金持ちがやるものであるとか、なんとなく怖いといったような心理的なハードルを下げることができると考えています。日常生活の生活必需サービスのひとつに溶け込んでいくことが、サービスの普及には必要です。

仕事柄、投資のセミナーなどに呼ばれることも多いのですが、そこで「LINEやFacebook、Amazonが金融サービスや資産運用サービスを始めたら使いたいですか」という質問をすると、8割くらいの方が手をあげます。これらのサービスがなぜそこまで信頼されてるかというと、生活必需品のなかに溶け込み、いつも寄り添っている感覚があるからだと思います。我々のようなFintech企業がそういう域まで達するか、それとも生活必需サービスがFintechに参入してくるか、どちらが早いかの勝負ですね。

いずれにせよ、日本の金融サービスは変わると思いますし、Fintechサービスは普及すると思います。ただ、そのときのFintechサービスの提供者が、我々スタートアップも含む金融機関なのか、それとも現在では金融業をやっていないネット企業なのか、どちらなのかはわかりません。当然、我々は自分たちでやりたいと思っていますので、今後もサービスを成長させていくつもりです。

(周藤瞳美)