農業振興と地方創生はアベノミクスの重要な柱だが、その進展の妨げとなっているのが人材難だ。そんな中、愛媛県でユニークな取り組みを行うプロジェクトがある。みかん産地である八幡浜市で、農家の人手不足を都市部からの有償ボランティアで解決しようという「八幡浜お手伝いプロジェクト」がそれである。

 県庁所在地である松山市をはじめ、愛媛県内外の都市部在住者にワーカー登録してもらい、10月から2月ごろまでの収穫シーズンを中心に農作業に協力してもらう。「有償」と言っても報酬は現金ではなく、地元の商店等で使えるクーポン券で支払われる。これにより生産者と消費者、地元の距離が縮まり、農家の人手不足解消と地域活性化を実現する仕組みとなっている。

◆参加者の善意に頼らないボランティア

 ボランティアといえば、どうしても参加者の善意頼みになって一過性の取り組みに終わるケースが多くなりがち。しかし、同プロジェクトは2012年の実行委員会発足以来、今シーズンで5年目を迎え、1月末現在で登録数はワーカー132人、農家82軒、クーポン利用店29軒と、いずれも当初目標をクリアして拡大中である。加えて、上場企業や地元金融機関がCSR活動の一環として定期的に参加しており、都市と地方を結ぶ先進的な取り組みとして注目度も上昇している。

 しかし、有償ボランティアの仕組みを回すためには、当然ながら資金的な裏付けが必要となる。具体的にはどのように運営しているのだろうか。プロジェクトリーダーである北川裕子さんに聞いた。

◆「お手伝いプロジェクト」運営者を直撃

「プロジェクトの収入源は、登録農家さんからの拠出金と、地元JAや関係自治体で構成される支援組織『西宇和みかん支援隊』からの委託金です。そこから、通常1日8時間の作業でワーカー1人あたり5,000円のクーポンが支払われ、差額からスタッフの人件費等の経費を捻出しています」

 北川さんには、当初から「お金を回さないと続かない」という意識があったという。

「農家さんはビジネスとしてみかんを作っています。ですから、たとえお手伝い程度の作業だとしても、働く側には一定の責任感が求められます。報酬が生じることで責任感は生まれますが、現金を渡してしまうと副業禁止規定に引っ掛かる人もいる。そこで有償ボランティアという仕組みを考えました」

 お金が絡むということで、農家側から反発はなかったのだろうか。

「このプロジェクトの前にもボランティアを組織化しようという試みがあったようですが、みかん狩り気分の人が多く、上手くいかなかったようです。だから農家さんからは、人手不足が解消できるのであればお金は出したいが、『これで本当に人が来てくれるの?』という不安の声が大きかったです。成功させるためには意識統一が不可欠だという厳しい意見もありました」

◆結婚相談所がみかんづくり!?

 そんな困難を乗り越え、社会貢献の意識とビジネス感覚を上手く融合させてプロジェクトを軌道に乗せた北川さん。その手腕は見事だが、それもそのはず、本業は松山市内でご主人とともに地元密着の結婚相談所『VOCE(ヴォーチェ)』を経営する女性起業家なのだ。

「お手伝いプロジェクトに関わったきっかけは、結婚相談の仕事を進める過程で八幡浜の若い人たちと出会ったことです。本業ではないので、かえって上手くやれている部分はあると思います。でも、それは農家さんやワーカーさんにも言えること。プロジェクトの趣旨をよく理解し、頼む側にも行く側にも余裕があるからこそ続いているのではないでしょうか」

 評判を聞きつけて、近隣の自治体や農林水産省からも問い合わせが入るという同プロジェクト。運営は順調に見えるが、北川さんによればまだまだ課題は多いという。もっとも改善したいことは平日の稼働率を上げること。やはりワーカーの就労希望日は土日に集中してしまうので、平日の収穫作業では十分に農家の希望に応えられていない。また、当初期待した若者の参加が思ったより少ないことも今後改善していくべき課題だ。

 現在では、収穫作業のほかに、前述の『西宇和みかん支援隊』から委託され新規就農者支援事業も手掛けるようになった。農業が成長産業になると言われて久しいが、現場では依然として人手不足が続いている。このコラムを読んで農業に興味を持った方は、まずはワーカー登録から始めてみかん農家の仕事を体験してみるのもいいかもしれない。

『八幡浜お手伝いプロジェクト』HP
http://www.yawatahama-otetsudai.com/

<文/多田稔>

【多田 稔】
中小企業診断士、経営アナリスト。「多田稔中小企業診断士事務所」代表。経営コンサルティング・サービスに携わる傍ら、「シェアーズカフェ・オンライン」などで企業分析・会計に関する記事を執筆