市場規模4414億円! 薄毛の悩みから解放される日

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育毛剤やカツラといった薄毛マーケットの市場規模は4,414億円とも言われる。再生医療は薄毛に悩む1,800万人を救い、巨大市場を掴めるか─。

薄毛に悩む男性は、日本全国で1,800万人以上いると言われている(「男性型脱毛症診療ガイドライン2010年版」)。彼らをターゲットに育毛剤やカツラ、増毛術など多種多様なビジネスが展開されていて、ヘアケアの市場規模は14年度で4,414億円に上る(矢野経済研究所調べ)。

カツラ1つとってみても、年間100万円を支出する人もいる。こだわる人は、1週間ごとにカツラを変えるという。いつも同じ髪型をしていては、不自然というわけだ。こうした人々が40歳でカツラを付け始め、60歳まで年に1度のペースで作り直せば生涯支出は2,000万円にのぼることになる。

こうした薄毛マーケットに再生医療技術で挑むのが、オーガンテクノロジーズの杉村泰宏社長だ。杉村はビジネス環境をこう語る。

「潜在マーケットがさらに大きいのがアメリカで、市場規模は日本の10倍程度と推定されています」

毛髪の”面積”を増やせる画期的なサービス

脱毛症に対する医療的治療法には現在、「自家単毛包植毛術」がある。これは後頭部など毛髪の生えている頭皮を切り取り、毛根を傷つけないように髪の毛を一本ずつ切り離した上で植毛するというもの。ただし、植毛した数以上に髪の毛が増えることはなく、手術による人体への侵襲性の高さが問題だ。

医学的に発毛効果の認められているミノキシジルや、脱毛抑制効果が認められているフィナステリドなどの薬品治療もあるが、残っている毛髪以上に数を増やすことは不可能。こうした欠点を解消し、毛髪の絶対数そのものを増やすサービスが、オーガンテクノロジーズの提供する毛包器官再生による脱毛症治療である。

同社が保有する世界特許技術の器官原基法では、髪の毛を生み出す器官「毛包」のもととなる2種類の幹細胞を大量培養して毛包原基を再生し、頭皮に移植する。再生に必要な毛包の採取はごく少量で済むため、植毛手術と比べてはるかに低侵襲で、髪の毛を複製できるので絶対数そのものを増やせると言う。

「将来的にはiPS細胞の活用も視野に入れており、そうなれば先天性脱毛症などの解決になる可能性があります」(杉村)


再生毛包原基による毛包再生治療モデル:器官原基法では、髪の毛を生み出す器官「毛包」のもととなる2種類の幹細胞を大量培養して毛包を原基を再生し、頭皮に移植する。(出所=理化学研究所)

同社がこの技術開発に取り組み始めたのは08年。当時、東京理科大学の教授だった辻孝氏のグループが起業し、10年後の実用化を目標に事業を開始した。その後、辻氏が理化学研究所発生・再生科学総合研究センター器官誘導研究チームにリーダーとして迎えられ、研究に弾みがつく。資金調達も完了し、18年からの人を対象とした臨床研究、20年の実用化を目指している。

ビジネス展開としては、医療機関をクライアントとした2つのアプローチが予定されている。

一つは細胞加工技術と細胞加工機器をセットで医療機関に提供し、院内で毛髪培養から移植までを手がけるもの。もう一つは、同社が院外での毛髪培養を請け負い、再生した毛髪を医療機関に提供するというものだ。

いずれにおいてもカギを握るのが毛髪培養の機械化だ。培養法自体は同社と理研の間でほぼ確立されており、残る課題は品質の安定化と大量生産の両立である。これを担う細胞加工機器開発の強力なパートナーとして京セラが参加し、基礎技術、生産技術、事業展開の三本柱が整った。今後は国で決められた手続きを経た上で、自由診療として毛髪再生ビジネスを展開する運びとなる。

ユーザーからすればコストが気になるところ。杉村はこう説明する。

「初期には高額診療となると思います。将来的に患者数が増えていくことで治療コストを抑制していけると考えています」

毛髪の次は、歯の再生を目指す

同社の描くゴールは、毛髪再生技術の実用化だけではない。目指すのは三次元の器官再生である。器官再生医療は、世界中の研究者が取り組みながら未だ成功には至っていない。その実用化には器官再生のみならず、再生器官の保存、さらには移植技術など解決すべき課題がいくつもある。これらをクリアするため、同社はすでに毛髪の次のターゲットに取り組んでいる。歯の再生である。

加齢により歯を失う高齢者は多い。食に関する器官の損傷は、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を著しく低下させるばかりか、歯周病が糖尿病に直結するリスクも指摘されている。

では、オーガンテクノロジーズはどのような治療法を目指すのか。杉村は言う。

「歯の喪失に対する歯科治療については、世界的にも歯の喪失部位の骨にチタン製のインプラントを埋入する治療が行われ、治療法として確立してきました。しかしながら最近はインプラントの不適切な治療やインプラント性歯周炎など、社会的にインプラント治療が問題になってきています。これはインプラントが歯周組織を持たないことが原因と考えられています。そこで私たちが、次のビジネス展開として目指しているものが、歯の生理機能に重要な歯根膜付きのインプラント治療です」

歯の生理機能を持つインプラントを骨に埋め込むことができれば、それはまさに本人の「歯」として機能し、知覚機能や免疫機能も回復する。実現すれば健康寿命の延長に大きく貢献するだろう。同社は歯の再生医療についても、毛髪再生と同時期の実用化を目指している。ただし、あくまでも最終目標は三次元の器官再生だ。杉村は言う。

「毛髪から歯へとスケールアップしていく中で培った技術を活用して、さらに大きな器官を再生する。器官保存技術も既に特許を取得しており、器官の保存機器をメーカーと共同で開発中です。私たちは器官の構築だけでなく、器官のデザイン、維持育成までを視野に入れた器官再生医療を実現したい。それを通して多くの方々の健康と福祉へ貢献すると共に、残された成長分野の一つである再生医療分野の発展により、日本発の産業革命に貢献したいと考えています」オーガンテクノロジーズが究極のゴールに到達するとき、医療は新たな次元に入りそうだ。

杉村泰宏(すぎむら・やすひろ)◎1978年、大阪府生まれ。京都大学経済学部卒業後、モルガンスタンレー証券等に勤務。2009年、企業研修サービスのシンク・アンド・アクトを設立、15年オーガンテクノロジーズ代表取締役就任。理化学研究所、京セラとともに毛包再生技術による脱毛症治療の実用化を目指す。