村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング

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〈S君からの相談〉
僕はなにか目標とか計画みたいなことに縛られるのがいやです。もちろん、学校で出された宿題はやるし、親から頼まれた手伝いもやります。でも、それ以外は自由にのんびり過ごしていたいです。ゲームをしたり、音楽を聴いたり、友達とスマホでおしゃべりをしたり、毎日の自由時間はそれなりに楽しいです。母親からは「なにかに打ち込みなさい」とよく言われますが、いま、特に打ち込んでいることとか、目指していることはありません。だいいち、自分がなにに打ち込めばいいかが思い浮かびません。こうやって過ごしていてはダメなんでしょうか?

〈Rさんからの相談〉
わたしは成績がごく普通の生徒です。がんばって勉強しても、平均点を取るのがせいぜいです。なので、人に言えるような立派な目標は立てられないし、立ててもできなければ自信をなくすことになるので、目標はなるべく立てないようにしています。目標って生きるために必要なものですか? そして、こういう考え方をするわたしはよくないですか?


前回に続き、S君とRさんの相談から「目標」について考えましょう。今回は次の3点について書きます。

 □ 越えるべきもっとも高い壁は「心の壁」
 □ 小さな目標の積み重ねが、自分を「健やかに・高く・遠くまで」行かせる
 □「目標をもたない生き方」を自分が美しいと思うかどうか

なにか目標をかかげようとするとき、そしてその達成に向かうとき、わたしたちの前に壁が現れます。やる気をなえさせる壁です。この壁には4つの種類があります。それは───

 1)能力の壁
 2)財力の壁
 3)環境の壁
 4)心の壁 です。


1つめは「いまの自分にはそれをやる能力がない」という壁。2つめは「お金がないから難しい」という壁。3つめは「自分の置かれた環境が不利だ(たとえば、不便な地域に住んでいるとか、親が教育熱心でないなど)」という壁。そして4つめは「失敗がこわい、めんどうくさい、なんとなく不安だ」という壁です。

なにかに挑戦しようとするとき、能力がない、お金がない、環境がよくない、といった理由は、たしかに自分のやる気をしぼませます。しかし、歴史上の偉人の本を読んでみてもわかるとおり、彼らにとって、そうした能力的・物理的困難は最終的な障害物にはなっていません。挑戦するにあたって、こえるべきもっとも高い壁は、実は自分のなかにつくってしまう心の壁です。おそらくRさんも、この壁が気持ちを消極的にさせているのでしょう。

Rさんは立派な目標は立てられないと言います。そもそも目標は立派でなければならないと思うから、心の壁も大きくなるのです。目標は小さなことでかまいません。小さくとも自分で目標を立てて取り組んでいく。それを繰り返す「心の習慣」をつくることが、いまいちばん大事です。

あなたのまわりには「難度10」の目標をどんと打ち立てて派手にやってしまえる人がいるかもしれません。しかし、自分はそうはできない。ならば、「難度1とか2」の目標を立てて、それを何回も積み上げていく。それでよいと思います。むしろ、それをやれる人が最終的には、健やかに、高く、遠くへ到達することになります。


プロ野球の世界で活躍するイチロー(本名:鈴木一朗)選手は、数々の大記録を打ち立てています。たとえば、米国メジャーリーグシーズン最多安打262本(2004年に記録)、日米通算4000本安打(2013年時点)など。これらは今後、他の選手が容易に追いつける数字ではありません。それほどまでに、イチロー選手は高く、遠くまでのぼっていったのです。

けれどイチロー選手とて、この大きな数字をいきなり目標にしていたわけではありません。「次の目標は、次のヒットです」と本人が言うように、あくまで1本、また1本という目標達成の積み上げによって、偉業はなされたのです。彼はこうも言います───「ちいさいことをかさねることが、とんでもないところに行くただひとつの道」と。


ですから、Rさんは小さな目標を立てるところから始めたらどうでしょう。それをだれが見ていようと見ていまいと地道に続けていくことです。それを「心の習慣」にしてしまえば、負担に思うことはなくなります。そして何年か経ったときに、ふと振り返ってみてください。自分が結果的にとても大きな壁を乗りこえたほどの位置に来ていることに気づくはずです。「心の習慣」がそうやってふつうの人を、健やかに、高く、遠くまで行かせたのです。目標を立てることを避けてきた人やサボって来た人には、もうとうてい到達できないようなところまで行ってしまえるのです。

最後に3点め。S君もRさんも、目標をもたない過ごし方はよくないかどうかを気にしている様子です。これは他人によいわるいをきく問題ではありません。自分が決める問題です。目標を立てずに過ごしていく生き方をあなた自身は、美しいと思うか、思わないか、です。あるいはこう考えてみるのもひとつです───なにかの病気であと1年しか生きられない状況になったとしましょう。そのときあなたは、なにかをめざさずにだらりと1年を過ごすでしょうか───?

[文:村山 昇|イラスト:サカイシヤスシ]