パスをつなぐスタイルを表現する意図は伝わったが、連係の熟成には時間が必要だ。(C)J.LEAGUE PHOTOS

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 甲府はJ1・2節の鹿島戦を0-1で終えた。ウイルソンが90+4分のPKを成功していれば勝点1は獲れたわけで、最下位候補が王者に善戦したという評価もあるだろう。シュート数は2本に止まったが、4つのCKを含めてセットプレーの見せ場はあった。チームとして意図する「形」は作れていた。
 
 吉田達磨新監督は「僕たちがアントラーズを相手にそんな沢山のシュートを打てるとは思っていない。失点するまではスペースを見つけて走って、奪って前に出してというところを出せていた」と展開を振り返る。甲府は監督が変わっても、J1にいる限りはボールを「持たれる」ことが試合運びの前提となる。攻撃では当然、カウンターが最大の狙いだ。
 
 新加入のFWウイルソンはボールを「運ぶ」ところに強みがある。鹿島戦後も「もう少しゴール前で耐えるべきだったのではないか?」という質問に対して、彼はこう答えていた。「自分のボールをもらう動きもすごく良かった。ボールを迎えに行くスタイルだし、相手が食いつけばスペースが生まれると思った」(ウイルソン)。
 
 ウイルソンと2トップを組んでいた堀米勇輝もこう振り返る。「良い縦関係とかで前半は何本かチャンスを作れていた。そこをもう少し突き詰めていきたい」。
 
 一方でウイルソンがボールを運んだ「その次」の精度や連係には課題がある。個の能力についてはもう永遠の課題だが、数週間、数か月で修正可能な部分もある。
 
 キャプテンの山本英臣はこう説く。「行けるならそのまま行けばいいし、行けないのであれば攻撃をやり直すというところも必要だけど、(味方が)セカンドボールを拾える位置を取れれば攻撃の選手ももっと仕掛けられる」。
 
 確かに甲府の攻撃は単発で終わってしまうことが多かった。それを二次攻撃、三次攻撃につなげるためにはセカンドボールを取らなければならない。個の判断に加えて、全体が連動して押し上げるオーガナイズも必要になるだろう。
 
 加えて甲府にとって数年来の課題が「失点後の落ち込み」だ。吉田監督は「身体がボールに反応していなかった。ボールを欲しがらなくなったところがあった。それではいけない」と表情を曇らせる。新加入の兵働昭弘、小椋祥平も首をひねる。
「ボールに絡むという意識でプレーすれば、回せたと思います。味方の距離感が悪かったり、パスが雑になったりというところで、ボールが前に進まなかった」(兵働)
 
「たかが1点だし、0-2で負けようが0-1で負けようが結果は変わらない。取り返すんだという気持ちをチーム全体で表せられればもっと良かった」(小椋)
 
 耐えてロースコアで勝ちをもぎ取る甲府のスタイルにとって、確かに失点は重い。ただ「ひとつの失点から大きく崩れる」という悪弊は克服しなければならない。
 
 吉田監督は失点後の流れをこう振り返る。「裏にバーッと行けば開放されるからそれを選ぶんだけど、みんながボールから離れて走っていっちゃうようになっていた」。そして指揮官は続ける。「これは習慣ですから。下手じゃないんです。前半を見ていてもやれるし、練習を見ていても全然やれる」。
 
 成功体験の欠如から生まれるメンタル的な部分もあるのだろう。これは日々の練習から積み上げて、徹底的に習慣化するしかない。
 
 前半のカウンターが成功したようにロングボールが活きる場面はあるし、甲府のようなスタイルを実行するためには「シンプルにプレーを切るしたたかさも必要」(吉田監督)であることも事実。とはいえビハインドを負い、相手が守りを固めているならば、ボールをつないで押し込まなければ得点も生まれない。
 
 鹿島戦は90+4分に幸運なPKを得たとはいえ、63分の失点後に攻撃が機能しなかった。山本もやはり「チームとしてバラバラになる時間帯が少しでも長くあったことは残念」とラストの30分を悔いる。
 
 チーム作りの大まかな設計図が見えたことは収穫と言っていい。とはいえセットプレー、カウンターの質、ボールを受ける動きといったすべてが甲府の課題。J1残留に向けて取り組むべき作業は「富士山級」に山積みだ。
 
取材・文:大島和人(球技ライター)