金正日氏(左)と金正恩氏

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日韓など各国メディアが金正男氏殺害事件を巡り騒然としていた2月16日、北朝鮮は、彼の父である故金正日総書記の75回目の生誕記念日(光明星節)を迎えた。北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは、全国各地で金正日氏の銅像に花束が捧げられる様子を放送した。

大きな花輪を持った代表者を先頭に銅像に向かい、人々は花束を捧げ、お辞儀した。しかしどの動画を見ても、人々は微笑んでもいなければ、悲しんでもいない。ひたすら無表情だ。

「喜び組」の醜聞

これが当局の演出によるものなのか、自然なものなのかは定かではないが、北朝鮮の人々の金正日氏に対する感情が現れていると言えるだろう。それほど人気がないのだ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、平壌の錦繍山太陽宮殿で金正日氏の遺体と対面したが、「出てきたのは涙ではなく冷や汗だった」と述べた。

地域の労働者組織・職業総同盟で表彰を受けた情報筋は、その褒美として平壌に行く機会を得た。そして、故金日成主席と金正日氏の遺体が安置された錦繍山太陽宮殿を見学。金日成氏の永生ホール(遺体が安置された部屋)に入り、亡骸を見た際には自然と涙が出てきたという。

一方、金正日氏の永生ホールでは涙が出なかったと述べた。周りの人々は、周囲の視線を気にして泣くふりをしていたが、この情報筋は涙が出ず、後で当局者から注意を受けたとのことだ。政治犯扱いされるのではないかと、冷や汗をかいたという。

「参拝時間はわずか1分ほどだったが、早く時間が過ぎてほしいとばかり思っていた」(情報筋)

1994年7月に金日成氏が亡くなったときには、国中が悲しみに包まれ、ショックの余り亡くなる人もいた。人々は心の底から悲しみ、泣いていた。ところが、2011年に金正日氏が亡くなったときには、北朝鮮の人々の様子が異なったと、脱北者であるデイリーNKのカン・ミジン記者は伝えている。

残酷な独裁体制を作った張本人ではあれど、国を興した「国父」のイメージが残る金日成氏を、北朝鮮の人々は多かれ少なかれ畏怖している。一方で、多くの人を餓死に追いやった大飢饉「苦難の行軍」をもたらした金正日氏は、尊敬の対象にはなっていない。そのうえ「喜び組」の醜聞や労働者に流血の弾圧を加えた話も少なからず出回っている。

(参考記事:将軍様の特別な遊戯「喜び組」の実態を徹底解剖

いくら思想教育をしても、人間の感情の根本までは変えられないということだ。

金日成氏と正日氏の遺体の保存には莫大な予算が投じられている。正確な額は不明だが、金日成氏の遺体の永久保存処理に100万ドル(約1億1300万円)、管理費は年間80万ドル(約9050万円)ほどかかっているものと、専門家は見ている。単純計算すると、2人分でこの2倍かかっているということになる。

北朝鮮の庶民は「こんなきらびやかに飾り立てているから、一般の人民は貧しいのだ」 「生きている人が苦労して稼いだお金を死んだ人のために使うなんて、昔の奴隷主みたいだ」などと不満を口にしているという。