アルガルベカップを戦っているなでしこジャパンは3日、アイスランドとの第2戦に2-0で勝利した。高倉麻子監督が就任して約10カ月、公式戦5戦目にして、なでしこジャパンは初勝利を掴んだ。


2ゴールを決めて、高倉ジャパンの初勝利に貢献した長谷川唯 初戦のスペイン戦から、7名のメンバーを入れ替えて臨んだ第2戦。守護神は山下杏也加(日テレ・ベレーザ)、センターバックの熊谷紗希(リヨン)の相方に中村楓(アルビレックス新潟L)、ボランチは宇津木瑠美(シアトル)と川村優理(アルビレックス新潟L)で安定させ、両サイドには右に千葉園子(ASハリマ)、長谷川唯(日テレ・ベレーザ)の機動力のある選手を配置。初戦で唯一のゴールを挙げた横山久美(AC長野)を2トップの一角に据えた。

 スペイン戦の轍(てつ)を踏んではならない。相手のハイプレスに一気に飲み込まれたスペイン戦では、主導権を奪回できずに試合が進んでしまったことを受け、修正をかけた。この日は前線からのプレスのタイミングと、2列目のサポートとのバランスが開始早々からハマり、開始3分、横山の強烈なシュートで流れを得た日本は11分に先制点を挙げる。

 宇津木からパスを受けた長谷川が反転して放ったシュートは、前に出ていたGKの指先をかすめてゴールネットに吸い込まれた。その3分後には、宇津木のミドルシュートのこぼれ球を横山がゴールライン際からマイナスへ。待ち受けていた長谷川がしっかりと決めた。初戦では、長谷川が横山のゴールをアシストしたが、ここは横山がお膳立て。今後、さらなるコンビネーションを期待できる2人のプレーだった。

 しかし、後半になるとアイスランドが攻勢に出る。日本は、宇津木に代えて中里優が入り、ボランチのペアが変わったところに、56分には北川ひかる(浦和レッズL)の負傷退場も重なってしまう。距離感の立て直しが必要な状況になり、徐々に劣勢に追い込まれた。

 60分、熊谷のファウルでペナルティアークからのFKを与えてしまうが、ここは千葉がブロックして最大のピンチを切り抜けた。残り17分には、ケガからの復帰戦となる岩渕真奈(バイエルン)と中島依美(INAC神戸)が投入された。岩渕は持ち前のドリブルでゴール前に切り込もうとするも、アイスランドDF陣にすぐさま取り囲まれてしまう。それでも終了間際には強引にシュートを放ち、自らそのこぼれ球に詰めたが、最後までゴールを奪うことはできなかった。

 プレッシングにいくかどうかの判断が適切だったこの試合の前半で、セカンドボールを支配することに成功した日本は、かなり余裕を持って攻撃を組み立てることができた。

 そこには攻守にバランスを取りながら攻撃の起点になる宇津木の存在が大きい。ボランチの距離感が決まれば、おのずと周りの間合いが決まってくる。守備面でも高さ、裏へのケアを一つひとつ丁寧にクリアできた守備陣が初完封した。

 前半の日本は、攻守において貴重な成功体験を手に入れたのではないだろうか。それだけに、後半の劣勢後に流れを取り戻したラスト15分でゴールにつながる攻撃パターンが見いだせなかったことは残念だ。とはいえ、日替わりペアでトライしていることを考えれば、今後が楽しみな人材も現れたことは大きな収穫といっていい。

 その筆頭として、今最もストレスフリーでプレーできているのは長谷川に違いない。ポルトガルに入って好調をキープしていた長谷川は「(初戦のスタメンが)あるかもしれない」と密かに期待を寄せていた。

 実際には後半スタートとなったが、横山のゴールを引き出すパスを配球するなど、ポテンシャルの高さを見せつけた。そしてこのアイスランド戦では、さらに長谷川らしさが花開いた。左サイドハーフでありながら攻撃となれば、中央はもとより、この日は右サイドにまで進出。

「あれは個人の戦術で獲ったゴール」と指揮官にも絶賛された長谷川の初ゴールは、常に練習しているパターンだ。「あのタイミングなら前に出ているはず」と長谷川が言うように、身に染みついているタイミングだからこそ、GKの位置は見ていなかった。これもまた、中央エリアまで入り込む意識があったからこそ生まれたものだ。

 この動きは長谷川の特長であり、昨年のFIFA U-20女子ワールドカップでも、この機動性から幾度も好機が生まれていた。プレースタイル自体を変えることなく、なでしこデビューでここまでフィットしたのは、この世代では彼女だけだろう。「本当に自由にやらせてもらっていると思います」と言うが、”自由”は意外に縛りにもなるもの。言葉通りに”自由”にプレーできる選手はそうはいない。

 それを可能にしているのは、長谷川が的確な判断力、巧みなボールコントロール、プレスをかけられる前の動き出しの早さを兼ね備えているからだ。

 また、多彩な攻撃に目がいきがちだが、守備にも注目してもらいたい。自らが出る攻撃の際のリスクを自ら補うことも当然のようにやってのける。自分がピンチを招いたのなら、全速力でのプレスは当たり前。156cmという身長を感じさせない、スケールの大きなサッカーをする選手だ。

 しかし長谷川のプレーはひとりでは成し得ない。初戦、第2戦とタテの相棒が長年ともにプレーしてきた北川だったことで、長谷川は迷いなく飛び出すことができた。長谷川が出張中のスペースは、しっかり北川が攻撃参加をするというウィンウィンの関係が出来上がっている。

「唯さんの守備範囲はわかっているので」という北川との連係が長谷川のプレーを後押ししていた。

 さらに指揮官との信頼関係も大きく影響している。U-17世代から指導にあたっている高倉監督は、長谷川の好不調を知り尽くしている。「高倉さんだからこそ、これほどの自由を許されているんだと思います」という長谷川の言葉通りだ。

 本来であれば、自分のチャレンジをまるごと受け止めてもらえる環境は、選手それぞれになくてはならないもの。全員がこうした信頼関係を築くことができたら、長谷川のように思い切ったプレーが生まれるはずだ。しかし、このチームにはまだ、互いを理解し合う力が足りていないようだ。

 若手とベテランが徐々に融合し始めている気配はしてきた。あと2戦、つかみかけている何かを手応えに変えるために何ができるのか。1戦も無駄にはできない。

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