2日に一度は殺人事件!?『名探偵コナン』のコナンは、あまりにも事件に遭遇しすぎではないか?

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 『名探偵コナン』の人気はすさまじい。この原稿を書いている時点で、「週刊少年サンデー」での連載は20年を超え、コミックスは90巻まで発売されている。

 高校2年生の工藤新一が、謎の薬を飲まされ、小学1年生の江戸川コナンとして活躍するようになって20余年。現実の時間とともに年を取ったとしたら、コナンは高校生の年齢を超え、いまや30歳くらいになっているはずだ。だが、劇中のコナンはずっと小1のまま、毎週のように事件に巻き込まれ、次から次にそれを解決している。

 ということは、コナンはたった一年のあいだにモノスゴク大量の事件に遭遇していることになるではないか。しかもその多くが、殺人事件……!

 コナンがどれほど多くの事件に遭遇し、解決しているか、具体的に考えてみよう。

2日に一度は殺人事件!

 90巻までのマンガを全部読んで、コナンがどれだけ事件に遭遇しているかを数えてみたところ、次のとおりだった。

事件に関わった日数 322日
関わった事件の数  270件
そのうち殺人事件  181件

 これはもう、多いなどというレベルではない。一年365日のうち、事件に関わらなかったのは、たったの43日。一週間に平均5・2回も事件に遭遇し、そのうち3・5回が殺人事件なのだ。

 2日に一度も殺人事件に関わるなど、殺人事件担当の刑事より多いのではないか。たとえば、東京の安全を守る警視庁で、殺人事件を扱うのは刑事部捜査第一課。『君は一流の刑事になれ』(久保正行/東京法令出版)によると、警視庁の警察官4万3273人のうち、捜査第一課に所属するのは約390人。そのうち、東京で起きた殺人事件は12の殺人捜査係がチームで捜査にあたる。2012年に警視庁が発生を認知した殺人事件は118件。つまり、一人の刑事は、一年におよそ10件の殺人事件を担当することになる。コナンの181件とは、その18倍だ!

 コナンは、なぜこんなにたくさんの殺人事件に遭うのだろうか。彼が関わった181件の殺人事件は、遭遇のきっかけが大きく2つのパターンに分類できる。

 まず、コナンが積極的に事件に関わったパターン。これは、コナンが探偵活動をやっている限り、仕方がないだろう。コナン自身が解決を依頼された事件が41件、毛利探偵事務所に依頼された事件にコナンが関わるケースなどが19件で、合計60件だ。

 では、残りの121件とは、どうやって遭遇したのか。信じられないかもしれないが、偶然なのだ! しかもそのうち85件は、レジャー! 旅行に行ったり、海水浴に行ったりして楽しんでいると、不意に殺人事件に遭遇するのである。少年探偵団と山に遊びに行って、歩美ちゃんが座るための石を拾い上げたら、それはガイコツだった! などという衝撃的すぎる事件もあった。

 わずか一年で、偶然に121件もの殺人事件に遭遇するとは、すごい確率だ。一つの殺人事件に巻き込まれる人数を、被害者、家族、目撃者、参考人、現場の所有者などを含めて、平均20人と仮定すると、日本人が一年のうちに、なんらかの形で殺人事件に巻き込まれる確率は0・017%=6千分の1。これが「一年に2件以上」となると7200万分の1、「3件以上」が1兆4千億分の1。地球の人口は73億人だから、一年に3件以上の殺人事件に巻き込まれる人は、まずいないという計算になる。

 すると、真実は一つ。コナンは、常軌を逸して殺人事件に巻き込まれやすい体質なのだ! もしあなたが街へ出かけたときに、半ズボンに蝶ネクタイで大きな眼鏡をかけた小学生を見かけたら、とっととその場を離れたほうがいい。ボヤボヤしていると、あなたも殺人事件に巻き込まれます。

殺人事件が追いかけてくる!

ここまで殺人事件に遭遇しやすい体質だと、コナンといっしょにいることの多い毛利蘭ちゃんや、少年探偵団も、事件に巻き込まれる機会が増えてしまう。彼らのためにも、コナンはできるだけ事件に遭わないように努力すべきではないか。

 最大の鬼門は、レジャー。コナンはまず、旅行を控えるべきだろう。この一年、コナンが出かけた泊まりがけの旅行は41回。そのすべてで事件が起こり、40回は殺人事件が起きている。だいたい、一年に41回なんて、旅行に行きすぎなんだよ!

 なかでも、殺人事件に遭いやすい土地というものがある。群馬で13件、静岡で12件、神奈川で5件、大阪で4件。とくに静岡では、12件の殺人事件のうち5件が伊豆で発生しているから、もう絶対に近寄らないほうがいい。

 とはいえ、地元の米花町にいても油断はできない。探偵事務所1階の喫茶店「ポアロ」をはじめ飲食店で13件、遊園地や映画館など娯楽施設で8件、プロレスなど興行関係で3件、図書館など文化施設で3件、学校でも3件。電車に乗っても、デパートに行っても、書店に行っても、野球や仮面ヤイバーごっこをやっていても、とにかく生活のあらゆる場面で殺人事件が待ち構えている。もはや彼にとって「生きる」とは「殺人事件に遭うこと」といっても過言ではない。

 コナンはいったい、どうすればいいのだろう。家でじっとしているべき? いやいや、住んでいる毛利探偵事務所で殺人が起きたことさえある。殺人事件でこそなかったが、自宅も、阿笠博士の家も、事件の現場になっているのだ。江戸川コナン、この世に安息の場所なし!

鍵を握るのは、目暮警部

 しかしコナンは、遭遇した事件をすべて解決している。なぜそれが可能なのか? 

 ある警察関係者に話を聞いてみた。実は『コナン』が大好きという関係者は、正体を明かさないことを条件に、「コナンが遭遇する事件の特異性」をいくつか指摘した。

「いつも死体が現場に残っていますね」。通常、殺人犯は死体を隠そうとするそうだ。
「その結果、人定も容易です」。人定とは、被害者が誰で、いつ、どこで、どのように殺されたかを明らかにすること。この段階で、犯人像が浮かぶことも多いという。

「凶器も現場に残っていますね」。そう、被害者の背中に包丁が刺さっていたり!
「犯人が逃走しませんね」。確かに、いつも「犯人はこのなかにいる」という状況だ。
「流しの殺しもありません」。流しの殺しとは、被害者と無関係な犯人による行きずりの殺人だという。なるほど、それは犯人の特定が難しいだろう。

 つまり、コナンが遭遇する殺人事件は、現実に起こる殺人事件とはかなり様相が違うらしい。死体はある、人定も完了、凶器も確保、犯人も現場にいる。ただし、誰が犯人なのか、それだけがわからない!

 そして、この警察関係者は重大な指摘をした。「いつも同じ警部が臨場しますね」。あっ、言われてみれば、確かにそのとおり。現実の捜査一課には12人の殺人犯捜査係長がいるのだから、いろいろな人が来てもよさそうなものだが、『コナン』で東京の事件現場に来るのは、いつも目暮十三警部だ。そして筆者が思うに、この目暮警部こそが『コナン』の世界の最重要人物である。

 警察関係者は語る。「警察が民間の方を現場に入れることは、決してありません。あるとしたら、鍵屋さんとか、大学の先生など鑑識の専門家くらいです」。この点、目暮警部は柔軟だ。「ダメだよ、部外者が現場に勝手に入っちゃ」と言いながらも、現場を推理勝負に提供したりする。だからこそ、コナンは事件を解決できるわけだ。

 もし目暮警部が、民間人立ち入り禁止の鉄則を守り抜いたら、コナンは現場にさえ入れず、事件を解決できなくなる。そうなったら、この名探偵は、異常に事件に遭いやすく、周囲の人々をやたら巻き込むだけの迷惑なヤツになってしまう……。

つまり『コナン』の物語が成立しているのは、目暮警部のおかげなのである。

『空想科学読本 3分間で地球を守れ!? (角川文庫)』(KADOKAWA)

◆著者プロフィール
柳田理科雄
空想科学研究所主任研究員。代表作に「空想科学読本」シリーズ。また、各地での講演、ラジオ・TV番組への出演なども精力的に行っている。

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公式ツイッター:@KUSOLAB