連載「ドキュメント 妻ががんになったら」が書籍化されました!『娘はまだ6歳、妻が乳がんになった』(プレジデント社刊)

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■闘病の闇に呑み込まれやすいのは、心身ともに強い人?

昨年11月、1年2カ月ぶりに元女子プロレスラーでタレントの北斗晶さんが芸能活動を再開され、勇気づけられたがん闘病者とその家族は多いかと思います。わが家もそうでした。術後1年の検査で、ほかの部位にがんの転移が見られなかったことから復帰を決意されたので、希望につながり、前向きになったのでしょう。

それでも一昨年前の9月に手術を終えてから翌年4月まで抗がん剤治療、さらに放射線治療を行い、現在もホルモン治療をされているため、無理のない範囲で元気な姿を見せてくれれば、と思っています。少しでもつらいと思えば無理は禁物です。これは北斗さんのように心身ともに強い人ほど、闘病の闇に呑み込まれやすい、と思えてならないからです。

私は仕事柄、何度かがんの名医を取材したことがありますが、「前向きな人、まじめな人ほど検査の結果が悪かったとき、落ち込みすぎて闘病がうまくいかなくなることがある」という医師は少なくありませんでした。

この点において、北斗さんは当てはまると思います。芸能活動を再開するにあたり、自身のブログで「とにかく一生懸命やる。この一生懸命が、実は1番大切で1番大変な事。自分の物差しでの一生懸命と、人の考える一生懸命は違うから。私自身の物差しを今まで以上に1センチでも2センチでも長く出来るよう、頑張っていけたらと思っています」とつづっていることからもわかります。

このようなことを書くと、北斗さんの決意にケチをつけるのか! と怒りを覚える人もいるでしょうが、北斗さんほど前向きでまじめ、そして心身ともに強い人は、めったにいないと思うのです。尊敬できることなのですが、がん闘病となると心配になります。

一昨年の手術直後もブログでも気丈に「私……決めたんだ、どんな形になるか分からないけど、いつかこの傷も全て世間の皆さんに見せようと思ってるんだ。こんな風になっちゃうんだよ!! って。乳癌撲滅の為に裸を見せる位、役に立てるならいいと思ってる」とつづっています。胸を締め付けられるような決意です。ところが、手術から1週間が経過した時点でも、「まだ観てないのよ……胸を」と告白。これは闘病の闇に呑み込まれてしまっているからでしょう。まずはご自身のためだけのことを考えてほしい。そう願わずにはいられません。

心身ともに強い? と思われる方もいるかもしれませんが、私がここまで北斗さんの心身が強いと思うのも、20年ほど前、女子プロレスラーだった北斗さんが大怪我をしながらも、奇跡の復活を果たしてからの試合を観たからかもしれません。

■首の骨を折りながらも復活したデンジャラスクイーン

北斗さんといえば「鬼嫁」として知られ、強い女性のイメージがありますが、実際に女子プロレスラー時代には全日本ジュニア王座、世界タッグ王座に就くなど、その強さは折り紙付きで、一流選手として活躍されていました。まさに血のにじむような努力を重ね、心身ともに強かったからこその偉業です。

ところが、試合中に首の骨を折り、数カ月間ベッドに寝たまま首を動かせない状態になります。医者からは引退を勧められますが、プロレスを続けたいという強い想いとファンからの後押しで復活。「復帰したら30歳過ぎには後遺症で体が動かなくなる可能性もある」と医者から忠告されての復帰です。この点においても心身ともに強くなければ、プロレスラーで居続けることは不可能だったと思います。

首に爆弾を抱えているというのに、北斗さんはヒールに転身。新たなスタイルを模索し始めます。この頃の北斗さんの試合を私は観ましたが、スピード、パワー、テクニックに驚いただけでなく、首の爆弾を感じさせないほどの圧倒的な強さ、思いっきりのよさ、そして、凄まじいまでの闘志に感動したのを今でも覚えています。

北斗さんの伝説は、ここから始まったといっていいかもしれません。「ミスター女子プロレス」「女子プロレス最強の男」の異名をもつ神取忍と血みどろの抗争を繰り広げて「デンジャラスクイーン」と呼ばれ、日本だけでなく覆面レスラーとしてメキシコでも活躍。女子プロレス界を盛り上げていきます。首に爆弾を抱えているというのに、ここまで活躍できたのも、医者から復帰は無理、といわれたにもかかわらず、それを克服した自信も大きかったのだと思います。

ただ、がん闘病の場合、常に死の不安がまとわりつきます。どれだけ前向きかつまじめに対峙したとしても、努力の甲斐も虚しく命を取られることが珍しくない病です。心身ともにどれだけ強くても、です。不条理な病といってもいいでしょう。

だからこそ、北斗さんには、肩の力を抜いて、自分のためだけに闘病生活を送ってほしいと思うのです。心身ともに強靭な人は、頑張ろうなんて思わなくても十分に頑張れているものです。いい加減に考えているくらいで、ちょうどいいのかもしれません。そうすることで闘病生活がうまくいき、ひいては家族をよろこばせ、ファンに勇気を与えることにつながるのではないかと思うのです。

北斗さんの闘病がうまくいくことを、願わずにはいられません。

(ジャーナリスト 桃山透=文)